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街を歩く【伊勢】

※これは2022年に書いた記事です。下書きに入りっぱなしだった為今更公開してます…

1日目

移動

少し肌寒い朝、東京から名古屋まで新幹線に揺られていた。隣のサラリーマンが読んでいた新聞を覗き見ていたら乗り物酔いをし、名古屋の喫茶店でモーニングがてら休憩をとった。気さくで母のような店員さんと会話をし、小倉トーストでお腹を満たす。具合が落ち着いてきたころ、快速みえに乗り鳥羽方面に向かう。

快速みえは関西本線(名古屋〜四日市間)、伊勢鉄道伊勢線(四日市〜津)、紀勢本線(津〜松坂より先らへん)・参宮線(松坂より先らへん〜)を経由する。たぶん。たしか。
伊勢鉄道伊勢線と紀勢本線・参宮線が非電化区間のため、ICカードで名古屋を入場した私は車内で車掌さんに乗車駅と降車駅を伝え運賃を現金で払い、後程伊勢市駅でICカードの入場記録の取り消しを行った。旅行先の交通手段はきちんと調べるべきだし、日常の当たり前になっている癖や考えはリセットして旅行を楽しむべきと反省した。ギリギリ現金足りた。

本来伊勢市方面に向かうなら名古屋から近鉄に乗るのがベターだが、私は【二見浦】で降りたいので快速みえを選んだ。今思えば道中の運賃諸々のアクシデントも楽しみのひとつだったかもしれない。徐々に乗客が少なくなる車内、時折聞こえる車掌さんの足音と声、窓から見る穏やかな景色に私は心が柔らかくなる感覚を覚えた。都市部にいる時と違い、体に触れるもの全てが棘がないのだ。

今回の旅の経緯を説明すると、始まりはお正月に飯田橋にある東京大神宮に行った際に貼ってあった伊勢神宮のポスターを見たことがきっかけ。景色と「伊勢神宮」の文字だけのシンプルなポスターだったが、私は釘付けになった。映画のワンシーンように幻想的な写真で、こんな空間があるなら生でいつか見てみたいなとぼんやり考えていた。

それから日が経ち、夏。様々な人間関係で悩み、タクシーの中で眩しい繁華街を見ながら「この生活から一旦逃げ出したい、このまま遠くに行きたい」と願った。夜が暗くて静かに眠る街に行って、綺麗な空気を吸って、初めての経験をしてワクワクしたい。そんな時に伊勢神宮のポスターを思い出し、衝動で伊勢市にあるホテルを予約した。今まで旅行の計画は入念に組むタイプだったが今回は「新幹線などの予約は直近で取ればいい」「旅行のプランは気が向いたら考えよう」などと計画性のない旅だった。もう少し待っていれば割引つかえたな…。

そんなことを考えながら二見浦駅に到着した頃には名古屋出発から約2時間経っていた。名古屋までソワソワしていたのに、この時私の精神はゆったりと川が流れるように安定していた。最近はリモートばかりで移動に時間をかけない私は、移動時間で気持ちを切り替えられる大切さを思い出した。二見浦駅は無人駅だった。降りた電車が見えなくなるまで出発を眺めて静けさを味わった。駅周辺にはタクシーやバスが停まっていたが、徒歩で散策した。

二見興玉神社-夫婦岩

二見浦駅を降りて向かったのは【二見興玉神社】。二見浦は古くから伊勢参宮を控えた方が汐水を浴び心身を清めた禊場らしい。なのでまず初めに行くことにした。多分私はよくないもんがつきすぎてるので清めた方が良い。二見興玉神社に向かう道中や神社の境内には蛙の置物をたくさん見かけた。御祭神のお使いとされる二見蛙というらしい。無事帰る、お金がかえるという意味合いがあるとか。渋い顔の蛙が多く、何だか愛おしかった。

奥に行くと【夫婦岩】があった。夫婦岩は大注連縄で太く堅く結ばれた二つの岩で、恋愛の象徴とされており縁結びのシンボルとしても有名だ。夫婦岩は日本各地にあり、伊勢の夫婦岩と並ぶくらい有名なのが福岡県糸島市にある『桜井二見ヶ浦の夫婦岩』。私は糸島も観光したことがありどちらの夫婦岩も見たことがあるのだが、不思議と夫婦岩周辺には大きな岩がなく夫婦岩だけがどっしりと構えているのでかなりの存在感がある。パートナーとはそういうことなのだろうか。友人や職場など人間関係において、ご縁は確かに存在すると思う。大切にしていきたい。

海沿いを歩き潮風をたっぷり浴びると、なんだか海に吸い寄せられて溶け込んでしまいそうになる。空も海も、透明な青。綺麗な海を一望できて贅沢な時間だった。

伊勢市駅-外宮方面

お腹も空いてきたので電車で伊勢市駅に行った。伊勢市駅は少し賑やかだった。ご飯を探しながら外宮方面に歩き、見つけたお店で伊勢うどんを食べた。やわらかい麺と甘味があり濃い味のタレが特徴だ。福岡のうどんに近いが、伊勢うどんはタレなので出汁を吸って量が多くなることがないから胃のキャパ狭女的に食べやすかった。私はやわらかい麺が大好きなので、絶対帰りに伊勢うどんをお土産に買っていこうと決めた。
この付近にはカフェも多く、濃い味の伊勢うどんを食べたばかりの私は甘いものが食べたくなり吸い寄せられるようにアイス専門店でカスタードクリームたっぷりのアイスを食べた。調べたら関東にもお店を出していた。まあいいや。

伊勢神宮-外宮

腹ごしらえをし、いざ外宮へ。左側通行で入っていくと、大きな木がたくさんあるおかげかとても涼しく、空気が変わったように感じた。ひんやりとした空気、虫や動物の声、風や木々の音…どれも凛としている。お賽銭を握りしめて、順番通りに歩く。感謝や願いを伝える。参拝者は少なく、1時間半くらいで周れた。不思議な世界に迷い込んだような気持ちになり、私はどこかふわふわしていた。上手に言葉にできないが、定期的に行きたいと直感的に思った。撮影可能な場所ではたくさん写真を撮りたいと思っていたのだが、気づいたらデジタルなものには一切触れずに参拝していた。ちょっとしたデトックスの機会になった。

猿田彦神社-佐瑠女神社

外宮から内宮方面へタクシーで移動。【猿田彦神社】を参拝した。みちひらきの神様ということで、仕事や学業など人生の道を良い方向へ進むよう導いてもらうとか。八角形で十干十二支が刻まれている方位石を願う運によって違う触り方をするとよいらしい。私は仕事運がありますようにと強く願った。硬貨がびっしりと置かれていたため触りたい干支が見つけられずぐるぐる回ってしまった。
また境内にある【佐瑠女神社】は芸能や縁結びで有名らしく、奉納にアーティストの名前も多く見受けられた。恋みくじを引いてみたのだが痛烈だったのでそっと結んできた。幸あれ私。
それから猿田彦神社から内宮まで約2kmほどゆるやかな坂道を歩いた。

伊勢神宮-内宮方面

内宮方面では有名な【おかげ横丁】など、多くの飲食店やお土産屋さんが軒を連ねていた。私は明日に内宮を参拝する予定だったので、明日お土産で買うものやご飯など寄りたいお店を考えながら散歩をした。おかげ犬という飼い主の代わりに伊勢神宮に参る犬が有名なので、たくさん犬のモチーフを見かけた。伊勢角谷ビールの飲み比べ4種とカキフライを食べ、明日の予定を考えているうちに17時になってしまい、お店が閉じ始めたので外宮方面に戻ることにした。
雨の中4km坂をくだって外宮方面〜伊勢市駅前についたころには体が濡れて冷え切ってしまったため、予約していたホテルにチェックインをして体を温めた。

伊勢市駅前

ご飯屋さんを探し、最初に入ったのはバル。伊勢湾でとれた海産物のカルパッチョがとんでもなく美味しかった。ここでも先ほど飲んでいない味の伊勢角谷ビールを飲んだ。自家製味噌が美味しかったのでお土産用に販売していたものも買って帰った。こういうお店が近所にあったら通ってしまうな…。
2件目に入ったのは居酒屋。系列店が酒屋さんのため、日本酒が多く取り扱われていた。正直このあたりから疲れと酔いで記憶が曖昧なのだが、ここも美味しかった。店員さんや隣の席の常連さんとお話をし、内宮付近のおすすめのお店や日本酒などを紹介してもらった。このお店の閉店が22時頃で、外に出るともう街は静かだった。私の望んでいた穏やかな夜だった。

ホテルに戻りコンビニで買った今まで飲んでいない伊勢角谷ビールを飲みながら(とにかく種類が豊富でコンプリートが難しかった)、今日1日の振り返りをした。今日この旅行をはじめて、何だか人と関わることが多い気がする。親切な方が多いのだろうか、自分に楽しもうとする余裕があるからなのだろうか…。
明日はどんな旅になるのだろうか。その場限りかもしれない誰かとの出会いを楽しみにしている自分がいた。

続く


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