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おさんぽ中のあいさつ

久しぶりにおさんぽした。

自分の目に留まるもの。
耳に入るもの。
自分の気の赴くまま、あっちへふらふらこっちへふらふら。

時間帯によると思うが、たくさんの人とすれちがった。

まっすぐした姿勢でわき目も振らず、腕をしっかり動かしてリズムよく歩いていく人。

肩や背中を解しながら歩いてくる人。
思わず私も肩回りが気になって、腕をぐるぐるした。
目が合って、「こんにちは」とあいさつする。
思わず笑いかけたら、向こうもにやっと笑い返してくれた。

進行方向からちょうど歩いてきた人。
目が合うかもわからなくて、とりあえず軽く頭を下げてみた。
向こうも気づいて、少し頭を下げてくれた。
声も交わさず、すれちがった。

犬のおさんぽをしていた人。
好奇心旺盛そうな犬で、ちょっと小走りぎみ。
というか、私が向かいから来たせいか、速度を上げてた。
飼い主さんがぐいぐいと引っ張られているようにも見える。
そんな力強さ。
「こんにちは」と飼い主さんがあいさつしてくれた。
「こんにちは」と私も返しながら不意に犬に視線を向けると、元気そうなぱっちりとした目に思わずほほえましくなってしまった。
「元気だね」と声かけると、飼い主さんが笑った気配がした。

テンポよく走り抜けていくのは、薄手のスポーツ用品を全身にまとった人だ。

私の歩みが遅いので、後ろから一定の速度で追い抜いていく人もいる。

何度か、原付バイクにも追い抜かれた。

軽トラが人をよけるようにして通り過ぎて行った。

歩いている途中、庭に咲くお花を手入れしていた人が、私に話しかけてきた。
「変わったもの、撮るのが好きなの?」
スマホのカメラを構えたときだった。ぱしゃり。
壊れかけた建物からはみ出した木の枝ぶりから、大きめのどんぐりみたいなかたちの実がなっていた。
「気になったものはなんでも撮るんです」
結局、その方に教えていただけたもの、私が撮っていたのは柿だった。
まだだいだい色をしていない、黄緑のような色味だったので、まったくわからなかった。
3分ほどだろうか、その方とお話をした。
亡くなった友人との思い出ある植物を切っていたそうだ。
濃い紫色の植物。お花というよりも、草とか葉っぱじみていた。
腕に抱かれたその植物を見て、「きれいですね」、思わず言葉がこぼれた。

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私は自分が緊張していないとき、向かいから歩いてくる人を見つけると、だれであれ、その人の目を見ようとしてしまう。
いったい、どんな人なのだろうか。
遠くから見つけた時点で全身像をぱっと見ているけれど、一番その人らしさを雄弁に語っているのはその人の目だと思っている。

ただし、ぱっと見の印象で、私の方から視線を外してしまうことも、ないではない。
威圧感や怒気をまとっている人は即座に視線を外す。
……怒らせたり、その怒りの矛先を向けられたくはないので。
また、「この人は、きっと、だれにも見られたくない人なんだな」という意思を強く感じたときはそっと視線を外す。
見られたくないという意思って、なぜだかわからないのだけど、目に見えない何かで強く強く訴えかけてくるので。

人付き合いが苦手な人、内向きな人は決して目線を合わせない。
視線を感じると、あらぬ方へと視線をそらす。
筋金入りの人嫌いの人は、絶対に視線を合わせないように肩をこごめているのがすぐにわかる。
内心でごめんね、と思いながらすっと視線を外す。

他人に興味がない人も、目線を合わせようとしない。
というか、きっと目を合わせる気もない。
なるほどなぁ、進行方向へ視線を戻しながら、内心でうなずきつつすれ違う。

人付き合いがそこそこであったり、ふつうだと考えられそうな人たち。彼らとは当然のように目が合うことが多い。
おそらく、人付き合いの上で、目と目を合わせるのが大事って知っているからだと思う。
軽く頭を下げ合ったり、「こんにちは」というあいさつを交わしたりする。
そうして、そのまますれ違う。

愛想がいい、お話するのが嫌いじゃない人は目が合うどころか、あいさつが「こんにちは」だけでは終わらない。
「涼しくなりましたね」とか「いい天気ですね」とか、一言付け加えてくる。
その人に話を続ける意思があれば、見知らぬ人であれ、立ち止まってそのまま雑談をすることがある。
時間に余裕があるときは、私も雑談に応じてしまう。
……見知らぬ人と1時間以上井戸端会議してしまうくらいには、たぶん、私もそこそこ愛想がよくて話好きなのだろう。

いろんな人がいるんだよなぁ。
30分ほどの道のりで、それを感じてしまった。
距離のとり方も、あいさつの仕方も、一つとして同じものはなかった。

こうあるべき、とも、こうした方がいい、とも私は思わない。
きっと、思い思いのいろいろな接し方があって、めいめいが思う通りに行動して、ただただ通り過ぎていくのだろうなと思う。
一瞬の邂逅。
一期一会かもしれないそのすれ違いを、私はいとおしく感じている。

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にわたつみ
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