【物語】僕の観葉植物【700字程度】
僕の観葉植物が語りかける。
「今夜は満月かしら?それとも星が瞬く新月かしら?」
彼女はよく喋る観葉植物だ。
僕の妄想の産物ではなくて、実際そうだ。
女性の頭部に赤い瞳、薄い唇をもって、こめかみ当たりから小さな新緑の枝が生えている。セミロングの髪のような根を持っていて、盆栽用の鉢に水苔を敷き詰めて管理している。
「うーん。もうすぐ満月ってところかな?」
僕は窓から覗いて白い月を見上げる。
「月が見たいなら、窓際に連れていくけど?」
僕がそういうと、
「いいえ、私は重いもの。」
と彼女は恥ずかしそうに言った。
「うん。重いけどさ、」
僕は否定しなかった。
彼女が小さな声で
「デリカシーがないわ。」
と言ったけど僕は無視した。
「少しくらいの労力だよ。気にしなくていいのに。」
いずれ、移動できるように彼女を飾っているキャビネットにキャスターをつけてあげよう。
僕は彼女の鉢を抱えて、ベランダに出た。
「外は寒いわ。」
「でも、外の方が月が綺麗に見えるよ。」
ベランダのテーブルに彼女の鉢を置く。
僕は隣の椅子に座る。
「月光環。夜の虹だわ!」
「お昼は雨降りだったからねぇ。雲がまだ多いのかも知れないね。」
僕と彼女は薄い雲ににじんだ白い月を眺める。月周りの光が虹色に明るい。
「綺麗な月夜ね。」
「気に入ってくれたようで嬉しいよ。」
彼女の赤い瞳は月を見ている。
僕はその視線を捕らえ微笑む。
「乙女心と秋の空。」
彼女の視線は僕に向かう。
「ねぇ、君ってどうやって言葉を覚えるの?」
彼女は僕の質問を無視して
「やっぱり外は寒いわ」
と言った。
僕は苦笑いをする。
「はいはい、中に入りましょうねぇ」
僕はよく喋る彼女を抱えてベランダから自室に戻る。本当に、彼女は気が変わるのが早い。
「乙女心と秋の空ね」
本当に、と僕は彼女の言葉を思い起こし、また苦笑した。
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