鈴を持つ者たちの音色 第九話 ”α”-ゴールド④
ふたりはサングラスを取り外し、眩しいながらも目を無理やり開けて、その光の方を意識して見てみた。
‥誰だろう‥名前を呼ぶ声がする。けれども、それは自分の名前では無い気がする。うっすらとぼんやりした記憶。夢の中?いや、ここは現実だ。現実世界にいるが、この見えている記憶は誰の記憶だろう?自分の記憶では無いことは確かだ。。
母親らしき人と庭の植物を摘み取る。
「全て摘み取ってはいけないよ。」
とその母親らしき人は教えてくれる。脳内にその知識をはっきりと埋め込む感覚が生々しい。。
ザザーァ。ザザーァ。
場面は変わり、貨物船のデッキ上で何人もの男兵士と闘う場面に切り替わる。
痛々しい剣と剣とのぶつかり合い。乾いた音。飛び散る血液。人が死ぬ時に発する悲鳴。貨物船から転落していく人の表情がスローモーションの様に卑猥にゆっくりと気持ちを不快にさせる。
数々の剣士を斬りつけ一瞬で倒していく。この貨物船の倉内には妊婦が数百人かくまわれていた。
新しい新天地へ向かう途中らしい。
荒れた海の上で、そこを誰かに襲われた。
その中での、ひとりの男の剣さばきは異端であった。
振り上げる、振り払うだけで相手は飛ばされ、深傷を負う。あっという間に全ての相手はその男に敵うことはなかった。
そしてその船は守られここ”グランドライン”へ向かって帆を高く張っているようだった。。
WA(輪):「なんだろう。この記憶。。光が脳裏に入ってくる。誰の記憶かわからないけど、とってもリアルな記憶だわ。」
GA(我):「僕にも入ってきた。誰の記憶かわからない。でも、なんだか懐かしい。とても懐かしい。もしかしたら、これはきっと我々先祖の人の記憶かもしれない。」
WA(輪):「先祖。。そして”グランドライン”の歴史を忘れない為。私たちにそれを見せてくれている。そんな感じよね?」
GA(我):「歴史を忘れない為の”砦”ここはそういった場所なのかもしれない。だから大海鳥もここは神聖なる場所。と言ったのかも知れない。」
WA(輪):「もう少し進んでみる?」
GA(我):「ああ。進んでみよう。もう少し歴史を知りたい。過去へ進む道だ。」
‥貨物船の船倉内にはザッと100名ほどの妊婦がいた。貨物を千トン積める船だ。人間なんて重さにしたら軽い。100名の妊婦と防衛員10名と太陽の陽で灼かれた病人数十名とあとは船員だ。それでも船は広かった。航海中は快適に過ごした。
しかし、海の気性は荒い。
凪の時は少なく、時化れば数日間船は大きく揺れた。
船上で臨月を迎え、そのまま倉内で流産する者。海上のうねりで具合が悪くなり3日も食事が喉を通らない者もいた。医者という医者はいないが見習い程度の若い医者はいたが、自分たちでどうにかしないといけなかった。中には病気を拗らせそのまま亡くなってしまう者もいた。それぞれがそれが、さだめと決まっていた。船の上で人が亡くなれば、そのまま置いておくわけにもいかない。埋める土もない。そういう時は仕方なく海中へ葬った。海中へ投げ込んだ死体はしばらく浮いている。それは皆んなとの別れを名残惜しむかのように人々の目にはうつった。
人生とは良いことばかりではない。むしろ悲しいことの方が多いかも知れない。
それでも人は生きていかなければならないのだ。
強く、団結し、時には笑う。そうして生きていくのだ。
数日間続いた時化も落ち着き、ようやく船は”グランドライン”真上に到着したようだ。
船は錨を下げてその場に固定しようとしたが、水深がありすぎてそれができない。よって船長はその”グランドライン”らしき真上を常にぐるぐる移動して旋回するしかなかった。
時間も食糧も限られていた。すぐに”グランドライン”を探せねばならない。
潜水が得意ない者3名がまず、頑丈なチェーンを”グランドライン”のあるらしき所まで引っ張っていき、底へ落とし込む。そのあと、船倉内にいる全ての人が、その”グランドライン”までチェーンをたどって潜り降りていくのだ。
この何百人のうち一体何人が無事に”グランドライン”までたどり着くことができるのだろうか。これはどう考えても可能性が低い作戦だった。しかし、こうでもしないと陸に住めなくなった人類は滅びてしまう。少しでも可能性がある場所へひとりでも移住させる事ができるなら、まだまだ人類も滅びることはない。そこに少しの可能性があるなら、それは絶望ではない。未知なる可能性なのだ。
人に繋げたリングがチェーンをたどって海底に降りていく。プロトスーツを着て水圧に備える。酸素ボンベは水圧に耐えられるようなものはない。船からの細い酸素チューブが命を繋ぐ。試験は重ねてきた。そして実戦は何が起こるかわからない。皆不安だった。
海の上での不安定な場所で命を繋ぐ為の一大イベント。人類の大移動のはじまりだ。
”グランドライン”までは底知れず深い。
いくら水圧に耐えられるプロトスーツを着たとしても時間は限られる。
スーツ自体が耐えられるとしても人の身体はそうもいかない。スピードが重視される。
足ひれなんて付けても何時間もかかる。これには日本のメカニック科学者が総力を結して作り上げたものがあった。人の脚に直接取り付けるジェット装置だ。
モーターのような回転部品は海中では壊れやすく使用しない。動力はウランを使った。半永久的物質だ。扱い方さえ間違わなければ動力はウランに勝るものはない。わずかなガス気体をこのウランへ放出させ化学反応の爆発力を推進力に変えるのだ。何回も実験を重ね、脚に直接取り付けるのは危険だ。ということになった。
よってこのジェット装置は人がひとりゴンドラに乗る様な格好のものになった。
まるでジェットスキーの潜水版の様な形態だ。
ジェット潜水艇は潜る人の数だけ必要だった。
ひとりが潜ると、そのまま地底に置きっぱになるからだ。ジェット潜水艇は水圧には耐えられるが長時間の潜水はできない。まだそこは開発途中段階だった。
よって、かなりのスピードで潜る必要がある。
地上でいう100キロのスピードに水圧の抵抗力が追加されるのだ。それは何Gにもなる。
水の中の100キロ。それは相当な出力がいる。
水中では空中の800倍をも多くの抵抗がのしかかる。しかも抵抗は速度の2乗に比例して上昇する。
妊婦が優先的にジェット潜水艇へ乗り込む。
酸素はこのジェット潜水艇から人へと供給できるように改良された。お腹が大きいから乗り込むのも一苦労だ。乗る時は介助してあげられるが、降りる時はそうはいかない。
それも深海底でだ。
不安はキリがない。
もはや地上には希望はない。
やるしかないのだ。
何人成功するのか?
誰も成功しないのか?
プロトスーツはひとりで脱げない。
海底に上手く行き着いたとしても、誰かしらの手を借りないとそれはそれで生きていけない。
皆んなで成功させるしかない。
ファーストペンギン。
ひとり目がジェット潜水艇に乗り替え、海へと沈む。別れの挨拶などする時間は無い。
1分でも早く目的地を目指さないといけないのだ。
ジュンはお腹を触り「きっと大丈夫よ。上手くいくわ。」と水の中から貨物船を見送る。
10分も潜ると光は無くなり、真っ暗闇になった。ジェット潜水艇の照らすライトの灯りだけが、真っ暗なゴールが見えない地帯を照らし続ける。海中は静かだ。水の存在で音が消されている。頭の上の室内灯がつく。ピンク色だ。
この室内灯がピンクからイエロー。そしてレッドへと深度によって色は変わっていく。
予算の関係でジェット潜水艇には貨物船通信部と会話する装置は付いていないが、こちらの状況を報告するだけの発信機が付いていた。
モニターを映すスイッチを押すと目の前にノートパソコンぐらいの画面が映し出される。
その画面を目の動きだけでキーボード打ちし、送信すると数秒後には貨物船通信部にジェット潜水艇からのメールが届く仕組みになっている。
口には酸素マスク。手には厚いグローブをはいているせいで、ジェット潜水艇の中では大きなボタンスイッチぐらいしか押せない。
よってメールを送信する方法は視線を利用するしかなかった。
モニター画面のアルファベットに視線を合わせ両目を閉じるとエンター。2回連続で瞬きするとディレイト。右目を閉じる度に変換。左目を閉じる度にバックスペースが基本動作だ。
数度、潜水艇が揺れ、間違った文字が打たれるのを防ぐ為、両手でしっかりとグリップを握る必要があった。お腹をぶつけないように気を使いながら。。
その一連の状況を潜水艇から一文字一文字貨物船の通信部へ情報共有させる。
それがファーストペンギンの役目であるからだ。
自分のことよりも、この後続く何百人もの移動の方が大事で優先事項だ。
ジュンは決心していた。
私はただその通りを全うすればいいのだ。自我を捨て皆の道筋をつくればそれでいい。
ただ続く、変わらない真っ暗闇をライトだけが照らし続ける。潜水艇の窓から見える景色は魚の気配すら感じさせない黒だ。
こうして30分が経過した。
30分の深度はどれぐらいだろう。
センサーはチェーンをしっかり感知し、位置はずれない。
室内のイエローランプがレッドランプへと変わった。
そろそろ海底地帯へ着く。
予定通りなら。。
急にジェット潜水艇のスピードが遅くなった。
海底地帯に降り立つのだ。
ジュンは怖くも寂しくもなかった。
ただ目の前にある使命だけを追った。
「やるのだ。私が道をつくるのだ。背後にいる皆んなの道を。」
”我、地底に着く”とだけメールを打った。
余計な感情は打たない。
ギリギリのところで水圧に耐えているのだ。急がないといけない。
潜水艇をBモードにきりかえる。
(Bモードとは、潜水モードのロケットが縦になっているような型のAモードが向きを変え、地面を這うような蟹のように横向きな、潜水艇が四つん這いになるモードの事をいう。 )
「ここからが本番よ!」
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