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鈴を持つ者たちの音色  第二十一話 ”α”-レッド④

あまりこの部屋にはいられない。
水分や塩分を補給しないと30分ぐらいで熱中症になってしまうだろう。
この部屋には自分ひとり。倒れたら誰の助けも来ないだろう。あの世の世界となる。
脱出口を探さないといけない。
少しでも動くと汗が噴き出る。
あまりの暑さに上半身裸になる。
汗を舐める。腕から出た汗は既にゴリゴリと乾いていた。
キックス②は汗をそのままにしない。
靴下を脱ぎ下着一枚になる。滴る汗をできるだけ靴の中に溜める為だ。
万が一の時はこれを飲むのだ。死ぬよりマシ。だが、おそらく最悪な味だろう。想像したくもない。
下着一枚でふらふらと辺りを探す。(かなり滑稽な姿だ)
「ほんとに出口はあるのか?もし、無ければ来た路を戻るしかない?いや、でも戻れば”ヤツ”がいる。あの2本の牙を思い出す。”あれ”でたべられたくはない。」
歩くと体温があがり、汗が噴き出て意識が朦朧(もうろう)としてくる。

「うむ。おや?」
頭がボーっとしているが、見間違いではない。
一箇所、鯨の潮吹きの様にプシューッと熱水が噴き出る場所を発見した。
軽く触ってみる。
「熱っつ!」
触れるが、ようやく触れる程度。火傷はしない。
「ここの蒸気の元はこの熱水からきてるのか。」

「‥プシュッ。プシュッ‥。」
キックス②は後ろを振り返った。他にもある。一箇所ではない。
何箇所かに熱水の噴口があった。
「すごい!こんな場所があったなんて!」
キックスコーポレーション折り畳み工具50を出し、ルーペ仕様にする。
噴口は岩目からだ。この岩目の中に熱水源がきてる。
蒸気は逃げ場所がない為に高い天井から熱い汁が垂れてくる。肩にそれが落ちた。
「熱つっ。ここにはこんなにも沢山の量の水分がある。これは使えるぞー。」

キックス②は勇気を出して口を開け、天井から落ちてくるその熱い汁を直接、口の中で受け入れた。
「熱つっ、。(モグモグ)」
「うん。塩っぱく無い。これはイケるぞ。飲める。飲料水になるぞ。大地の雫、生命の湧き出る水だ。それに、熱いのをそのまま利用もできる。温水利用だ。この年中寒い”グランドライン”をパイプを通せば温めることだって出来るぞ。」

太陽が入り込まないこの”グランドライン”は通年気温が低く寒い。
この温水をパイプを通して”グランドライン”全体に行き通せば”グランドライン”全体はいつも暖かい環境を整えられる。しかも、これだけの熱量だ。冷やせば温度調節もできる。これは良いかも知れない。

キックス②は夢中になった。30分以上も経つのにその熱い場所の噴き出る場所や湯量の確認で我を忘れていた。自分の出口を見つける方が優先すべきなのに、”グランドライン”の事となればいつも我を忘れるようだ。
流出量を測る。噴出口は5つ。水の移動速度と距離から算出してみると毎分60リットルは確保できそうだ。かなりの量だ。
キックス②は更に夢中になり、次はオートバイを移動してきてサーモスタットの配線を駆使して熱水の温度を測定したりした。
「うん。これはいける。イケるぞヤッホイ。」
キックス②の目が潤む。ここ”グランドライン”に住む者たちの顔が目に浮かぶ。もはや顔面は涙なのか汗なのか蒸気なのか濡れ過ぎて、それがわからない。

性格の良さが裏目に出た。
頭がボウーとしてきた。
「ここで倒れるわけにはいかない。ここの場所の発見は自分しかわからないのだ。」
キックス②は自分の靴を脱ぎ、とうとう靴の中に溜まった汗水を飲む最終判断に行き着いた。
この時が来たか、とグイっと腹を括ってその汗水を飲んだ。。が、量が少ない。「あれ?」っと靴の中を見るが、あまりの暑さで靴汗は、蒸発してしまい量が少なくなっていた。
水分が足りない。
どうしようか?と考える。
熱水は熱すぎて飲めない。天井から滴り落ちる水分は舌を出して受け取ってるうちに、身体からの水分は蒸発していく。需要と供給が追いつかない。
キックス②は「やれ!これだ!と言いオートバイのバッテリーを外す行動に出た。ここでもキックスコーポレーション折り畳み工具50を使う。
バッテリーを外し、何をするかと思ったらバッテリーを抱えて蓋を開け、グビグビとバッテリー液に口を尖らせては一気に吸い上げていく。あっという間に飲み干した。
なるほど。キックス達が造ったオートバイのバッテリー液は精製水を使っている。確かに精製水なら飲める。それに完全に蓋は密閉していた為に蒸発はしていなかった。キックス②はこれで500mlぐらいの水分は確保できた。復活である。

命は繋げたが、オートバイはバッテリー液を失い走らなくなってしまった。
試しで噴き上がる熱水をライダーブーツに集めてそれをバッテリー液の代用にしてみたがエンジンはかからなかった。
熱水に不純物が入っていないなら可能性があったのだが、温度が熱すぎたのか、他の理由があるのか、直ぐには理由が分からなかった。
下着一枚で走らないオートバイを押して引き続き脱出路を探す。
「…?」
ふと、人影が見えた気がした。
引き返して確認する。。
まさかだ‥!
3メートルぐらいする大きな人影だ!と思い身構えると、その影は”ヤツ”だった。
「ウワッオ!」
咄嗟に驚き武器を探すが手元には何もない。降参か?と思い”ヤツ”の顔を見ると”ヤツ”はジーッとして微動だにしない。
置物のように直立し、息を吸っているのか吐いているのかも分からない。そのぐらい大人しかった。
不思議にその様子を”ヤツ”の頭の方から足の方まで観察すると、”ヤツ”の右側に出口らしき通路を発見した。
「こんな所に!良かったぁ。」

直ぐにオートバイを押したまま、その出口らしき通路へ飛び込む。
”ヤツ”とすれ違いざま”ヤツ”がニヤリと口を少し動かした様な気がした。 
「もしかして‥」
その感触から、”ヤツ”は悪い”ヤツ”ではなかったのでは?という感情が湧き起こった。

”ヤツ”は脱出路を自らの存在を意識させる事でキックス②に脱出路を見つけさせたのだった。
キックス②はオートバイを押しながら”ヤツ”がいた方を振り返り「グッドラック」とグッドポーズで見送った。

キックス②「おーい。ありがとよ。君は結局いい”ヤツ”だったんだね!追いかけっこ楽しかったよ!じゃぁな。」

通路を進むと激下坂になっていて、キックス②は下着一枚で転げ落ちるように、その激下坂を下り落ちた。。

どうやら峠は越したらしい。
一本の通路へ出た。割と広い方だ。
オートバイのエンジンはまだかからない。

キックス②「しょうがない。置いていこう。」

そう決心しオートバイを洞窟の片隅に置き、トボトボと歩く。
おそらくゴールはこっち方向で合ってるだろう。
下着一枚の惨めな格好だが、誰も見ていないし見られることもないだろう。
先ほどの熱帯部屋を思い返す。
しっかりと場所を再度特定出来るように歩数を数え頭に記憶させる。
先ほどオートバイを置いた場所が目印だ。
あのオートバイがある場所の横穴を上っていけば熱帯部屋は有る。
あの地熱、熱水、蒸気を活用出来れば色んなことができるぞ。
有効活用できる資源が見つかったのだ。足取りは軽くなり、興奮で胸が熱くなった。

その時背後からオートバイの音がした。
聞き覚えのある音だった。
キックス②は直ぐにそれが兄貴のオートバイだと気がついた。
壁際に身体を寄せランタンを振る。

キックス②「おーいっ!兄貴ぃー。」

キックス①も直ぐにそれに気づきオートバイを停める。

キックス②「兄貴ぃ。無事だったかい。」

キックス①「ああ。お前こそ。。なんだ!その格好は(笑)」

キックス②「まぁ色々あってさぁ。オートバイも動かなくなってしまった。。、それより大ニュースがあるよ。いい話だ。」

キックス①「おおー。それは大変だったなぁ。オートバイは、また戻ってきて修理すればいいさ。大ニュースだって?いい話?ほほー。いいねぇ。実は俺の方もある。大ニュースでいい話だ。(笑)」

キックス②「兄貴もー。マジかぁ。そりゃすごい!あれ?兄貴、なんでオートバイのエンジンに上着を巻いているの?」

キックス①「ああ。これね。うーん。こちらも色々あってさぁ。まぁ話はお互い長い。
(キックス①は後部座席をトントンと叩く)
まずは乗れよっ。話ながらいこうー。」

キックス②「ありがとう。2ケツなんて久しぶりだなぁー。よーしっ行こーぜ!GOー。」

ふたりでひとつ。
数時間会っていないだけで数日も会っていないような気がする。
会話は弾んだ。笑顔になる。
緊張が解け、”ヤツ”はもう追ってこないのはお互い分かっていた。
”ヤツ”のことを考えた。
”ヤツ”は最初から僕らを追い回していたわけじゃなく、”グランドライン”に必要なものを僕らに見つけて欲しくて、僕らをそれぞれの場所へ誘導したのではないか。そう思った。
脱出路だってそうだ。
”ヤツ”が教えてくれたのは確かだ。あの時、脱出路を教えてくれただけじゃなく、もしかしたら直ぐに掘ってくれていたのかも知れない。
だとしたら、”ヤツ”は”グランドライン”のどこにだって行けるのかもしれない。
もしかしたら”グランドライン”の案内人なのだろうか?
オートバイはふたりを乗せて走る。真っ直ぐ走る。洞窟はまだ続いている。
その時、ふたりはまるで出口に出たの?と思えるぐらいの光に包まれた。
おかしい。太陽の光はここ”グランドライン”には差し込むことはない。。光の中で意識が遠のいて行く…



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