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鈴を持つ者たちの音色  第二十二話 ”α”-レッド⑤

これは、いつの記憶だろう?
”グランドライン”へ移り住み、間もない頃のようだ。地上から海底へと生活の場を変えた人々の事を”ウタバ”と呼ぶようにした。
海底での生活は地上での生活とは違い、はじめはストレスが多かった。
地上での華やかな生活を引きずらない為にも”ウタバ”と言う言葉の言い換えは必要だった。
そして、少しでも地上の記憶を辿らないように”ウタバ”の皆んなで考えた独特の習慣があった。

・利き手の逆を使いましょう。ズボンを履くとき、物を食べるとき、歯磨きや、頭を掻くとき、字を書くとき、爪を切るとき。あらゆる行動を逆手で行いましょう。

癖の変化は身体の変化と思考の変化を生み出す。そして利き手の逆を使うとなれば思考は”その作業”に夢中になる。少しでも地上から自然と、思考を遠ざける為に”グランドライン”では逆手の習慣を義務付けた。
そして、それは次第にエスカレートし、時計も逆回り、学校の校庭も逆まわりで走るようになった。
中には嘘っぱちの論者が謳う、逆回しの論議が出回り、逆回しで行動を起こすことにより、時間は過去へ遡れる。と論する者もいた。

逆手の積極的取り組みにより”グランドライン”で生活する”ウタバ”の民は手先が器用になり身体もバランスがとれ運動能力も上がった。
地上にあったものを”グランドライン”ではその手先の器用さを利用してあらゆるものを作った。砂を練り上げ食器を作り、壁を作り、それが進化して家になった。家は砂を固めて作った”砂壁の家”の者と岩を崩し固定する要塞の様な造りの”岩間の家”の者と2種類に分かれた。

砂は豊富にあり、女達は積極的に砂を集め、それを篩い、砂と異物に分け、砂は砂壁やその他に使う用途とし、異物はミネラルを豊富に含んだ海藻廃や貝殻の粉、深海魚の死骸が粉となって混じっている為食料の原材料とした。
男達は酸素が濃い場所に集まるプランクトンの漁に出た。プランクトンは主食だ。標高が高い場所に集まるのを時間かけてようやく察した。
その中でも一番危険な作業があった。危険な作業は、やはり男が行うが、男の中でも勇気があり、忍耐力があり、家族が少ないものが選ばれた。
その作業とは”グランドライン”の屋外での作業だ。
”グランドライン”の屋外数キロ離れた場所に貨物船が沈んでいた。その貨物船はここ”グランドライン”に移り住んだ民”ウタバ”が地上生活に見切りをつけここまで乗ってきた船だった。
”ウタバ”の民は”グランドライン”へ最後のひとりが降り立ったのを確認してから、その貨物船を沈ませた。それは”アイツラ”から”ウタバ”の民の居場所を知られる事を恐れたのと、そっくりそのままの貨物船の材料を何かの部品取りに使う為でもあった。
そして、正に今ここで行われている貨物船までの部品取りの作業が、最も危険な作業とされている。
”グランドライン”から屋外へ出る時にはプロトスーツを着てジェット潜水艇へ乗り込む。数キロ離れた貨物船へ行き、海底の中でレーザー溶接機を使った解体をし、切断した部品をワイヤーで引っ掛け、数台のジェット潜水艇で”グランドライン”まで引き込む。という段取りだ。
海底での移動だけでも危険極まりないのに、海底でのレーザーを扱う作業は命がけだった。切断中にバランスを崩すとレーザー機が暴れる。一度暴れ出すと止められなくなる。誰かや、自分にレーザーを当ててしまうと一瞬にして切断されてしまう。
この作業にあたるのは熟年者となり、年齢が高い者が多い。もし、死ぬ事があっても年寄りなら、まぁ仕方ない。とでも思っているのだろう。しかし元気な年寄りほど危険には強いものだ。いままでも危険な時は数ほどあった。一度に運ぶ量に欲を出し、レーザーで切断後に鉄板が落下し鉄板の下に閉じ込められたこと。数機でワイヤーを繋げて部材を引っ張り移動中にワイヤーが切れ、その勢いでワイヤーがあばれて相手方の潜水艇が破壊されてしまった事もあった。
それでも命がけで男どもは部品を”グランドライン”へ運び届ける。そして、その部品を元にキックスコーポレーションは様々なものを作り、発明してきた。今の”グランドライン”があるのもキックスコーポレーションと命懸けの運搬者のおかげでもあったのだった。

…光は晴れた。
徐々に光は薄く力をなくした様に穏やかに消えていった。。
ふたりは昼寝から覚めたように、ハッ、とする。

キックス②:「兄貴ぃ。。」

キックス①:「なんだぁ?」

キックス②:「キックスコーポレーションって、、すごいんだな。」

キックス①:「ああ。今も昔も。人助けの会社だ。。」

キックス②:「うん。。これからも人助けの会社だね。」

キックス①:「そうだ。人助けの会社だ。」

キックス①のオートバイはアクセルを回す。

ふたりは無言だったが、感傷に浸っている。
”やっぱ俺らはふたりでひとつだ。”


キックス①:「”グランドライン”の文明は変わるぞ。どんどん良くなる。」  

キックス②:「そうだね!うちらの手で。どんどん良くするんだ!」

”僕らはキックスコーポレーション!地球と人助けの会社!”

2人を乗せたオートバイは、そのまま洞窟を出た。洞窟を出ると巡回員レッドと隊長が赤い鈴を持ったまま立っていた。
キックスふたりに鈴を渡すと、

隊長:「ご苦労様でした。着いたばかりで、悪いが、君たちには早速取り掛かって欲しい重大な任務がある。やってくれるか?」

キックス②:「とりあえずシャワーを浴びたい。それからでもいいだろ?」

キックス①:「そんなに急ぐ任務なんですか?」

隊長:「そうだ。一刻も早く取りかからんといけない。君達にしか出来ないことだ。」

キックス②「じゃあ、俺もシャワー浴びてくるわ。」

時間は午前4時を回っていた。
巡回チームでは1番速いタイムだった。


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