鈴を持つ者たちの音色 第十話 ”α”-ゴールド⑤
ジュンは覚悟をきめる。
それは自分の命よりも、皆んなの命を生かす為の覚悟だった。
チェーンの位置をパソコン画面で保存し、いよいよ、その場を離れる。
ここからは誰も知らない未知の領域だ。
”私が道を切り拓く”とメールを打った。
ルート1:B2モードへ切り替えた。(B2モードとはキャタピラを回してゆっくり走行するモードだ。)
そのままの向きで真っ直ぐ前進した。ただ真っ直ぐだ。
何回も繰り返した通信部との打ち合わせでは「15分進んで何もなかったら、戻れ」だった。
今進んでいる方向を北としよう。
北に15分進んだらチェーンまで戻り、今度は向きを変え、南に15分進み、それでも何もなかったら再度向きを変え、西に向きを変え、それでも何もなかったら東へ向きを変え、その間ジュンが移動した軌跡はしっかりとGPSで通信部のメインコンピュータに記録される。
地図作りのようなものだ。
そして、ファーストペンギンであるジュンが、先ず、することは”グランドライン”の足元に行き着く事だった。
目的である、入り口はどこにあるか見当もつかない。
なら、”グランドライン”の足元を先に特定させ、実態像を浮き彫りにしよう。というものだった。
ルート2:北には何もなかった。もっと奥に行けばどうだったろう?気になったがプランは変更しない。プラン通りに動く。
次は南に進路を変えて進む。こちらは凹凸がひどい。ジェット潜水艇がやっとで進む。
深海には海藻もない。
あるのは砂と石と岩のみだ。
10分進むとヘッドライトの灯りに、気泡が反射した。その気泡にヘッドライトの灯りが当たると、その気泡は虹色に光った。
ジュンはその気泡がシャボン玉のように見え、とても懐かしく、子供の頃の記憶と重なった。
脚は、知らず知らずのうちに気泡の方へ向かっていた。規定の10分を超え、15分過ぎた。それでも前進、前進と、何かに操られるように惹きつけられるように進んでしまった。。
気泡の目の前に来た。
近づいて思う。その気泡は思ったり大きい。
大きく膨らました風船より大きい。
大人のバランスボールぐらいだろうか、それがプカァプカァーっと一定の間隔で頭上高く舞い上がっていく。。
そして、気がつくとジェット潜水艇は、その気泡が発する場所へと辿り着いてしまった。
潜水艇のヘッドライトで見える範囲をぐるりと照らして、その場所を確認した。
険しい頂だ。
その険しい頂の真上にジュンはいた。
滑落すれば二度と上がっては来れないだろう。
こんな険しい頂ははじめて見た。
ジュンはゾッとした。
この場所へ来るまでは熱い使命に心を保ち、進んでこれた。しかし、今この目の前の頂を目にし、急に底知れぬ恐怖に犯され身体が硬直してしまった。ジュンはハッとした。
「そうだ。メール。」
今の状況をメールに打ち込む、その時だ。
ぐっらぐっらゆっさゆっさグワんグワんグワんグワんグワッ‥
まさかの大きな地震が起き、あっという間にジュンの潜水艇は頂の底へと向かい滑落してゆく。。
ジュンはそれでも最後まで使命感を忘れない。
‥最後のメール。と言い、
「我、頂の上から滑落 助けはいらない。ここは死の頂 」
と打ち、気を失った。。
ジュンは夢をみた。
とても心地よい夢だ。
ふわふわの羽毛に寝そべり宙に浮いたように上下して眠る。
微妙な上がり下がりの一瞬がなんともいえない。
お腹が、こちょがしい感覚がある。
ジュンはひとり。真っ白な空間の中にいた。
下も上も、まわりも真っ白。しかし、この空間は部屋ではない。程よく人肌に全てがあたたかい。
そして全体が羽毛に包まれているのに気づいた。
ここは何か生き物の腹の上か?
そう気付くのには時間がかからなかった。
上下に動く感覚がどこか思い当たった節があったからだ。
そこで目が覚める。
パチンっ。
ジュンはさっきまで本能的に追ってきた気泡の中にいた。虹色の大きな気泡の中に。。
そして身体をよく見るとプロトスーツは着ているが酸素マスクはしていない。それでも息はできる。。
ジュンが乗ったその虹色の気泡はプカプカとその姿のまま、頂の下へとゆっくり心地よい揺れ方をしながら落ちてゆく。
このまま底知れぬ闇の谷まで落ちていってしまうのだろうか?
と思っていたその時、「うん?」
何か動いているのが見えた。
「巨大な岩が動いている?」と、思ってよく見てみると、なんとそれは顔の部分だけでジュンらが乗り合わせてきた貨物船ぐらいある生き物だった。
水龍だ。。
水龍なんて空想の生き物だと思っていた。
この底深い海底に隠れるように生きていた。
それにしてもなんていう大きさなんだ。
恐怖より圧倒された。
その水龍の顔面近くにジュンの気泡はゆっくりと降り立つ。
水龍はギラギラした目をこちらに向け、一息、ジュンが入っている気泡をそっと吹きかえした。
ジュンの気泡は吹き上がり少しずつ海中を上がっていく。その時ジュンは確信した。
あゝ。
この気泡は、水龍の吐いた気泡だったのだ。と。
険しい頂の中腹あたりまで気泡があがってきた時だ。。
頂中腹に差し掛かった時、穴の空いたような箇所があり、突然その穴へ吸い込まれた(今で言う”グランドライン”のヘソ)。
ジュンはまた記憶をなくした。
パチンっ。
目を覚ますと、浜辺の砂浜にジュンは打ち上げられていた。
「うーん。。ここは?どこなの?」
周囲は明るいが、何かが違った。
人工的な明かりではなく、太陽の明かりでもない。独特な岩石が自ら発光したような光具合。
ジュンは少し歩いてまわりを確認した。
植物は無く砂と岩だけしかない。
ジュンは震えが止まらなかった。
「もしかしたら、、ここは、、”グランドライン”、、。」
ジュンは泣けてきた。
無事にここへ来れたこと。
そして、何か神がかりな力でここへ導かれたこと。「こんなことがあるんだ?生きていると、こんなにも素晴らしいことが起きる!」
ジュンは嬉しかった。
信じていた通り、神はいた。
その奇跡を感じとれた瞬間に自ずと涙が溢れた。
ジュンの腕時計にはHPSがついている。HPSとはGPSよりも高低数値まではっきり数値化して表す高低緯度経度表示機能の事である。GPSと違い、HPSは終始位置情報を監視できない。第三者へHPSを知らせたい時にHPSボタンを押す。そうすれば第三者はその発信電波を追い、正確な位置を把握できる。
貨物船の残りの人たちもこれで一安心だ。
ジュンのたどった路を、あとはなぞるだけでいい。これで自分のいる場所へ向かってこれる。
これでうまくいくだろう。
安心して皆ここで子供を産める。
ここ”グランドライン”で私達は第二の国を築き上げていく。
この今いる人数でだ。
ジュンは見事にファーストペンギンの役割を果たしたのであった。。。
WA(輪):「ねえ。。見えた?」
GA(我):「はい。。はっきり見えました」
WA(輪):「私達の先祖たち。。移り住んだ者たち。」
GA(我):「命がけの大移動があったから今僕らはここにいる。」
WA(輪):「胸があついわ。」
GA(我):「僕もです。まるで心臓がもう一つできたぐらいあつい。」
WA(輪):「ねぇ。もう引き返しましょう。この奥に行けば行くほど、ここ”グランドライン”の歴史を知れるでしょう。でも、私たちにはまだ、これ以上知らなくてもいいと思うの。」
GA(我):「‥そうですね。これ以上の歴史を知るときが、そのうち必ず訪れるでしょう。それにここに来ればいつでも”グランドライン”の歴史に触れることができる。戻りましょう。時間に間に合わなくなる。」
ふたりは振り返り、きた道を戻って歩く。
洞窟内は戻る時は、ありのままの洞窟内であった。なぜか奥に入っていく時は眩しく、出口へと戻る時は普通の暗い洞窟に姿を変える。
誰でも洞窟内へ大歓迎という訳では無いようだ。
この尋常じゃない眩しさに耐えられず、奥へ進めない者もいるだろう。
奥へ進めない者は”グランドライン”のルーツを知ることはできない。
奥へ奥へ、進めるのも、選ばれし者だけかも知れなかった。
洞窟内にはふたりの足音だけが響いた。この音はどのくらい洞窟の奥まで響いているのだろう?
ふたりは静かに足元を気にしながらゆっくり歩いた。
WA(輪):「今回の”α”地帯の巡回はこのまま戻って認められるの?予定より全く違う”α”地帯(✖︎バツ)⇨新聖地☆☆☆(○マル)にきちゃったんですけど。。巡回員ゴールドのせいで。」
GA(我):「どうだろ?戻ってみないと何とも言えないなぁ。戻ったら隊長にありのままを喋ろう。巡回員ゴールドの正体は結局よく判らないままだけど。」
洞窟の外へ出た。
暗い所から明るい所へと急に出た為に、明順応の影響で目が慣れるまで少々の時間がかかった。。
時計を見ると洞窟内へ入っていた時間は全く時間が経過していなかった。
「時間が止まる場所。そして”グランドライン”を知る場所。やはりここは神聖なる頂だった。」
ふたりが顔を上げると、目の前に巡回員ゴールドが立っていた。
ふたりが洞窟に入っていて出てくるまで、どのぐらいの時間が経っていたのか。
そんなに何時間も経っていないと思うが、目の前の巡回員ゴールドは一体どうやってここまで登ってきたというのだ?
巡回員ゴールド:「よくこの頂上まで辿り着いたね。そして、洞窟の中も。僕が思った通りだ。君たちは筋、がいい。」
WA(輪)「はぁ?筋、がいい?」
巡回員ゴールド:「それで?どうだった?手に入った?」
GA(我):「?。。何のことですか?」
巡回員ゴールド:「またまたぁー。知ってるんでしょ?”丸魂”のこと。」
ふたり:「”丸魂”??」
WA(輪):「急に現れて何を言ってるの?私たちそんなの知りません!」
巡回員ゴールド:「‥なら。君たちは、その洞窟の中へ入って何をみた?その洞窟は神聖なる場所。誰でも入れるわけではない。選ばれし者しか入れない。それを君たちは、簡単に、入れた。」
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