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鈴を持つ者たちの音色  第十四話 ”α”-レッド①

キックス①②は、われ先にと、”α”地帯へと向かう。自分たちで造りあげたオートバイに乗って。
キックス①の後部座席には巡回員レッドを乗せている。
巡回員レッドのナビゲートで”α”レッド地帯へと向かう。
キックス①②は双子の兄弟で、一応キックス①が兄である。キックス②より1時間早く産まれた。
キックス家はここ”グランドライン”では有名ないメカニックの家系だ。
”グランドライン”での施設管理を主に任されている。
”グランドライン”は人が住める環境ではあるけれども、より快適に人間らしい生活をする上で、やはり機械の動力も必要不可欠になる。
人々は皆キックス家には感謝と敬意を示している。
”グランドライン”には何百機というジェット潜水艇が緊急時の脱出機として置いてある。
過去の話では、そのジェット潜水艇を使ってここ”グランドライン”へ人々は降りてきた。というが、どう考えてもこのジェット潜水艇をそのまま使って脱出するのは困難だった。いち早くこのジェット潜水艇を改良しなければならない。
その大事な任務も既にこの兄弟は背負っていた。

キックス家ではキックス①②の叔父にあたる人が、この潜水艇を作ったのだと言い聞かされている。しかし、キックス家だけの秘密にしてあった。なぜ秘密にするのか?
あれだけの高性能な潜水艇だ。今のキックス家の能力でさえも、同じ物を造るとすれば何年もかかる。それだけの物を造ったとなると、技術を悪用する者たちに利用されたり、キックス家を根こそぎ奪う者も現れる可能性だってある。
それだけキックス家の血は貴重な血が流れている。本当なら守る組織があってもいいぐらいだ。

キックス達が向かう”α”レッドには30分で着いた。後で知るが、5組の中で一番現地乗りが早かった。

キックス②「よーしっ。着いたぞ。一丁やってやるかぁ。」
キックス①「なんかきみが悪い洞窟だな。」

巡回員レッド:「さぁ、君達はここからこの洞窟を入って出るまでが試練だ。頑張ってこいよ。僕はゴールで待っている。じゃあ。」

キックス兄弟は自前のオートバイで洞窟へ入った。車体を軽く、タイヤもブロックタイヤにし、オフロード仕様にした。
洞窟の中は思ったより狭かった。
排気量を大きくし過ぎたかも知れない。アクセルを抑え気味に走らないと壁に激突だ。

キックス②「それにしても僕らのアイディアは名案だったね。オートバイなら明日の朝までなら余裕で戻れるよ。
この洞窟だって入った感じは真っ直ぐで走りやすいじゃないか。ツーリングツーリング!」

キックス①「確かに今の所は順調だ。ただ、何か引っかからないか?巡回員レッドの話。 
洞窟に入って、出るまで、が、試練だって。。
果たしてそんなに簡単な試練があるか?」

キックス②「兄貴はいつも考え過ぎだよ。まぁ、見てなって。」

2人の会話はヘルメットに付けた無線でやりとりができた。
キックス②は元々が楽観的だ。どんより暗く狭い洞窟の中なのに、走るのをワクワク芯から楽しんでいる。
ふたりはアクセルを回す。

キックス②「”α”地帯を最速で攻略するのは、俺達キックス兄弟だぜぇー。」

暗く狭い洞窟をヘッドライトをつけて走る。
キックス兄弟にとってヘッドライトの開発はなかなか上手く行かないものであった。
一番のネックは部品がない事。しかし、何とか形にはなった。
今はまだ試験段階だが、近々にきっと普及し当たり前になるだろう。
この”グランドライン”では鉱物の反応での明かり取りが普通であった。しかし、乗り物のような時速20キロ以上出るスピードのものだと、光が追いつかない。遠くまで見通せないのだ。
このヘッドライトの開発は人類が一歩進化した証拠でもあった。

無音の暗い洞窟の中をふたりのオートバイのマフラー音がこだまして、どこまでも響いた。
その暗い洞窟にはじめて訪れた異音。
マフラー音は音だけじゃなく洞窟内に振動も起こす。。
「カッタ‥カタタ、カタタ、カッタ‥」

キックス①「…。」

「カッタ、カッタ、カッタ、カッタ、カッタ…」

オートバイで来たのが裏目に出た。
マフラー音は、”何かしら”、の、生き物を呼び起こしてしまったらしい。。
寝起きの悪い生き物はタチが悪い。
ふたりの走るオートバイをめがけて”何かしら”は追ってきた。
 カッタ、カッタと、ハイヒールを履いた娘が追ってくるような独特な音だ。迫ってくる。
暗くて姿は確認できない。
しかし、足音が近づいているのは確かだ。

キックス②「おいっ。うしろから何かが追ってきている。気付いているか?」

キックス①「ああ。気付いているよ。あれは何?ものすごい速さで迫ってきている。こんなにアクセル回しているのに、追いつかれそうだ!」

キックス②「暗いから正体がわからない。けど、向こうは何でこの闇の中を動じずに、こんなスピードで向かってこれるんだ?」

キックス②「どっちにしろ、このままじゃまずい!アクセルを開けろっ。追いつかれる!」

洞窟の中は狭い。
オートバイは並走して走れない。
路面は悪路の上に、砂埃がひどい。

キックス①はキックス②の真後ろを走っていて、その砂埃でキックス②の姿を見失う事があった。
オートバイのヘルメットに付いてある無線でマメに連絡を取り合う。
前を走るキックス②が路面状況をを伝える。
たまに大きな岩が路を塞いでいたが、ふたりの軽量化したオートバイはそれを難なく交わす。
後ろを見ると姿は見えないが、足音は引き続き追ってくる。
”ヤツ”も難なく障害岩を交わした、らしかった。

キックス①「おいっ、さっきの岩は危なかったぞ。ちゃんと障害物があるときは、ナビしろよ。」

キックス②「わるい兄貴。さっきのは俺も交わすのでやっとだった。喋る余裕なかったさ。
こんなのが沢山まだあるかと思うと嫌になるなぁ。」

キックス①「今の所は完全に路を塞ぐぐらい大きな岩は無いが、そんなのがもし、急に現れたらペチャンコだな。どこにも逃げ場所がない。」

キックス②「どうするよ?兄貴ぃ。アクセルフルスロットルで回さないと確実に後ろからくる”ヤツ”に追いつかれるぞ。」

キックス①「今いちばん怖いのは何かを優先的に考えてみろ。それは、後ろからくる”ヤツ”に追いつかれる事じゃなく、大岩にオートバイがぶつかり、大破した拍子に洞窟内が崩落してしまう事だ。崩落してしまったらうちらは生き埋めか、閉じ込められる。となると、アクセルはやはり、全開にはできないぜ。」

そんな話の途中…
突急に路が二又に分かれた。
あまりにも突然の分かれ路だ。
キックス①は右路
キックス②は左路、へとお互い分かれてしまった。。

お互い同時に言う。「やばい。やっちまった!」

二手には分かれてしまったが、いままで走ってきた路と同じような路が続く。
無線は散り散りにだが、かろうじて繋がる。

キックス②「おーい。そっちは大丈夫か?」

キックス①「ああ。今の所は大丈夫だ。ちゃんとした路が続いている。ただ、この洞窟はどうなっているんだ?ただのまっすぐな洞窟では無さそうだな。」

キックス②「そうだね。次はどっちに進路が曲がってくるのか見当がつかない。」

そして同時に同じセリフを言う。
「”ヤツ”だ。ヤツが追ってくる、、。」

キックス②「兄貴い、どーしよー。”ヤツ”はどうやら俺の方を追ってきたぁ。」

キックス①「お前、何を言っている?”ヤツ”が追ってきたのは俺の方だ。」

キックス②「イヤイヤイヤイヤ。間違い無いって。後ろすぐに迫ってきてるんだって。」

キックス①「…どういうことだ?”ヤツ”は一体だけじゃ無い?いや、ずっと一体だった。となると、一体から二体に増えた?イヤイヤそんなことある?でも現に今は二又に分かれた後でも、こうしてふたりに張り付いて追ってきている。。これは二体に分裂したんだ。間違いない。」

キックス①「よし。そうとなれば、やるしかない。俺にいい考えがある。」

キックス②「こんな状況の中でいい考えなんてあるのかよー。」

キックス①「後ろからくる”ヤツ”を確かめる。このまま逃げていても追いつかれるのは目に見えてる。」

キックス②「確かめるって??大丈夫かよ。”ヤツ”は俺らの事を餌だと思って追ってきてるのかも知れないんだぞ。こんな狭い洞窟の中で逃げ場なんて無い。」

キックス①「それでも確かめる。白黒はっきりさせる。”ヤツ”は俺らの事を食いたい、かも知れないし、食いたくない、のかも知れない。だからはっきりさせる。俺が”ヤツ”に捕まるのも、逃げてる途中にペチャンコになるのも時間の問題だ。だからこちらから正体を確かめに行く!」

キックス②「そうかい。そんなに腹を括っているのかい。それならしょうがない。うちらはふたりでひとつ!兄貴の考えに賛成するよ。それで?作戦は?」

キックス①「作戦は単純。おそらくこのまま走ると再度さっきと同じような岩が出現するはず。
そのタイミングで岩を避けると同時にオートバイを急旋回して逆走する。」

キックス②「逆走?急旋回?なんかスゲぇ。」

キックス①「そうだ。逆走し、”ヤツ”と対峙しす既の所で”ヤツ”を交わす。そのすれ違いざまに”ヤツ”の正体を確認するんだ。」  

キックス②「この狭い洞窟の中でやるんだなぁ。おーしっ。興奮してきたぁ。」

キックス①「そうだ。俺らはいつもギリギリのスレスレのところを攻める(笑)」

キックス②「よっしゃ。やろう!」

数百メートルも走らないうちに、そのタイミングはやってきた。

キックス②「なぁ、兄貴ぃ。もし、俺が”ヤツ”に食われたらどうする?」

キックス①「あぁ。その時は俺も喜んで”ヤツ”に食われてやるさぁ。俺らはふたりでひとつ。だからなぁ。」

キックス②「合点!」



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