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雨の飛行船

雨の日が好きだ。

雨の日は何故か落ち着く。
雨が自分を取り囲み、覆い、雨で守られている気がする。静かで清くどこか悲しげで懐かしい。

音楽が過去の思い出を甦らすように
雨の日も過去を思い出させる。
雨の日の思い出。
土砂降りの中の部活動。雨に濡れ寒かったけど風邪は引かなかった。それも若さか。水溜まりを避けることなく自転車のタイヤが漕いでいく。飛び跳ねた水飛沫は学生ズボンを濡らす。それでも気にはしなかった。かえって世話好きな女学生が「濡れてるよ」と話かけてくる。女子との何気ない会話がそこから生まれることもあるし。
傘はあまり差さない。ハンカチも持たない。濡れたら濡れたまんま。だから余計に女子がかまってくる。

雨は強いほど人の脚を止め時間を止める。
いつもは帰る時間。しかし雨宿りの空白の時間が出来た。
じっと雨垂れが落ちるのを雨が落ち着くまで見ているのも悪くない。雨は色んな形に移り変わり色んなものに当たる度に色んな音を奏でる。傾斜があれば知らないとこからあんなところまで水が歩いて軌跡を敷いていく。誰かの小走りがその軌跡を分断してはまた元の軌跡に戻っていくその安心感。。

初夏の濃い緑色、の草花に大きな雫が当たり小太鼓の様な歯切れのある音を打ち出す。その草花の奥に隠れているだろう蛙を想像し生き生きした顔で雨を見守る期待感を得る。
夜はなお静けさを増し暗闇にも包まれ孤独な寂しさが時間を長く感じさせた。暗く寒く長い夜。
闇は音量を上げた騒音のように雨をうるさく感じさせた。暗い夜。せめて星々の明かりが欲しい。

夜の雨に止むよう期待させ時間だけがゆっくりと経過していく。いまは何時だろう?時計を見たくても遅く刻まれる今時刻を納得したくない衝動に駆られ時計を見なかった。
ただじっと朝を待つ。
雨の静けさ
雨のわがまま。
やんで欲しい期待と
やまないで欲しい安心感と
両者を共存させ
眠りにつくことで曖昧にする。
朝目を覚ましたらそれはそれでどちらでもいいことなのだ。

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