鈴を持つ者たちの音色 第四十二話 ”鈴集め⑦”
ハッとした。
さっきの眩しい光はどこへいったのだろう。
GA(我)とME(男)は顔を見合わせた。
ME(男):「さっきのは‥ほんとうか?」
GA(我):「本当だと思います。この場所の”光”がここ”グランドライン”の歴史を見せるのです。」
ME(男):「ということは‥BOO(武)は‥」
GA(我):「そうみたいですね。彼女は”腕輪”で制御されている。大獣と共に生きている。」
ME(男):「複雑な気持ちだ。本人は知っているのだろうか?」
GA(我):「どうでしょう?少し様子を見てみましょう。彼女は同じ”スズモノ”選ばれし者なんでしょ?」
ME(男):「ああ。そうだ。選ばれし”者”だ。同じ仲間だ。」
GA(我):「‥彼女‥。何とか引き離す術はないの?大獣を‥」
ME(男):「‥うむ。あくまで僕の考えだけど‥”入れた”なら”出せる”とおもう。そして、それは”入れた”人しか”出す”事はできない。」
GA(我):「うん。そう思いましょう。同じ仲間だもの。いつか出せたらいいですね。」
ME(男):「そうだな。それまで2つの課題がある。1つ目は、大獣をとりだしたら、その大獣と戦わないといけない。以前は”グランドライン”で1番強かった大獣だ。それだけの大獣に勝てる見こみがあるのか?
2つ目は、BOO(武)の中に入れた張本人”リング”だ。今どこにいるのか?まだ生きているのか?探さないといけない。」
GA(我):「そうですね。なんだか2つの課題は無理ではない様な気がしてきました。やりましょう。」
ME(男):「ああ。もちろん。その前に皆んなで”強く”ならないとな。もっともっと。」
”天空の壁”の中”時空の空間”とも、呼ぶべきか‥
この中にいる限り時間は動かない、と言う。
ふたりは壁の中を移動している。それなのに壁の中は時間が止まっているのだ。
ふたりは奥に奥に、と進む。
急な螺旋階段を下がる。かなりの段数を下がった。これだけの階段は一体どうやって、誰が作ったのだろうか?こんな標高の高さまで。理解に苦しむ。不思議ばかりで頭が追いつかない。頭が痛くなる。
下へ続く螺旋階段が終わるとふたり横並びがやっとぐらいの直進の路が続いた。その正面に扉が有り右側へも通路が続いていた。
GA(我):「なんでこんな場所に扉が‥」
ME(男):「扉があると”開けたくなる”」
ME(男)が扉の取手に手をかけようとすると、うっすらと静かに”声”がした。
「‥ほうがいい‥。あけ‥ない‥ほうがいい‥やめた‥ほうがいい」
GA(我)とME(男)は顔を見合わせた。
ME(男):「どうする?開けないほうがいい。と誰かが内側で喋っているぞ。」
GA(我):「ちょっと中を確認してみます。つー‥つー‥つー‥。」
GA(我)は扉の中の気配を”匂い”を通じて嗅ぎ取る。
GA(我):「うん。います。ふたり。ひとりはWA(輪)です。間違いありません。」
ME(男):「なぜ入るな。と言うの?」
GA(我):「わかりません。何か事情があるのでしょう。」
ME(男):「どちらにせよ。確認せねば。よし。開けよう。」
岩石で囲まれた通路の中に金属製のドア。
なぜこんな所に金属製のドア?
違和感を感じながらも、その金属製のドアノブを回した。
「ガチャリ」
鈍い音がして開けたところに2人が座っているのが見えた。
「?」
ふたりが座る目の前の岩で出来た”盤”の上に形通りに嵌って、バレーボールの大きさの水晶玉が見えた。
水晶の光は天井の面積をスクリーンの様に映し出している。
GA(我):「うん?隣にいるのは”α”ゴールド巡回員かい?」
WA(輪):「うん。そう。」
GA(我):「扉を開けようとしたら、”開けるな”と声が聞こえたんだ。君の声のような気がしないんだ。一体あれは誰の声なんだろう?」
WA(輪):「誰の声が知らないけど、確かに入らないほうが良かったのかも知れないわ。今ちょうど見終わったところ。。」
ME(男):「見終わった?」
WA(輪):「ええ。”グランドライン”の未来をみたわ」
ME(男)、GA(我):「ええー??未来を?」
WA(輪):「この水晶は”丸魂”ここ”グランドライン”の歴史。過去〜未来を映し出す”珠”よ。」
GA(我):「”丸魂”!本当にあったんだ?巡回員ゴールドの言ったとおりだ。」
WA(輪):「私の隣にいる巡回員ゴールド。クライミングの天才。彼が”丸魂”を見つけたのよ。そしてこの”盤”台。
”記憶”はこの”盤”台に置くと天井に映し出される仕組みよ。
彼は今、この”丸魂”が映し出した”グランドライン”の未来を見て落ち込んでいるところ。そっとしてやって。」
GA(我):「君は一体?どうしてここへきたんだ?」
WA(輪):「‥私はこの場所が気になってしょうがなかった。この人”巡回員ゴールド”もね。私が来なかったら永遠にこの場所を徘徊する人生だったわ。私がこの場所で気になったのは二つ。
一つは、”時間が進まない”ということ。そしてもう一つは父のした事を確かめたかったの。」
GA(我):「父?」
WA(輪):「そう。父の名前は”リング”。この地では”かんなぎ”。分かりやすく言えば”男巫”だ。」
GA(我):「えっ?”リング”?じゃあ君は”リング”の子?」
WA(輪):「ええ。そうよ。私があの有名な”リング”の子供WA(輪)よ。父親と一緒。私にも父親と同じ特殊能力がある。
そして、私は父の後継者になろうと巫女の修行をここ”グランドライン”でしていた。誰にも知られずひっそりと。
GA(我)が知っている通り、私の父”リング”は大獣ウルフを小さな赤ん坊に”転世”した。いくら”グランドライン”の民を護る為だとしても、それは人間たるもの。やってはいけない事だった。
私だって”リング”の娘。皆は私の事も”リング”と同じような印象で噂していたわ。
皆を大獣から救ったヒーローなのに!」
GA(我):「わかる気がします。私とてそう。どんな悪人でも善人と同じように扱い、経を唱え、埋葬する。雑に扱うことはありません。中には不平等だ、と嘆く者もいます。死を目の前にしても恨みはゼロにはなりません。」
ME(男):「”WA(輪)よ。どこまでこの水晶で本当のことをみたの?”リング”の事は?どの辺まで知っている?」
WA(輪):「”父”が産まれたての赤ん坊に遠慮なく大獣を””転世”するところをハッキリみました。”
父”は後悔していました。
そして、その”後悔”は時間が経つと”闇”を生んでしまう。”父”は暗闇の中で赤ん坊を育て、そして”闇”は父の心を真っ黒に染めてしまった。」
巡回員ゴールド:「はっきり言おう。
あの時、君のお父さんは自分の意思でやった事ではないぞ。君のお父さんは脅されていたのだ。
BOO(武)が悲しき運命を背負って生まれてきた時、君WO(女)も同じ時に生まれていたんだ。
BOO(武)の赤ん坊の姿を目の当たりにして、WA(輪)。”リング”は実は君を映していたんだ。」
巡回員ゴールド:「我が娘だと思い”転世”した赤ん坊を慈悲に自ら育てる決心をしたんだ。」
ME(男):「そして月日は流れ。BOO(武)は民と同じ”グランドライン”での生活をするようになった。身寄りはいない為、道場で師範を親代わりとして生活して今に至る。”リング”はそれ以来”グランドライン”では見かける者はいなくなった。」
WA(輪):「私たち家族は人目につかない場所で暮らした。そして毎日私は父から”術式”を教わった。その頃の父は二重人格になっていた。自ずとWA(輪)は善の”術式”と悪の”術式”。”術式”の表と裏を習得してしまった。
そしてある日。
父親は私たち家族の前からいなくなった。
それはWA(輪)が一人前になったのを意味した。
もはや”リング”はWA(輪)に教える事は無くなった。」
その時黒い鳥の羽がひとつ「ふわりと」部屋の中に飛びこんできた。
ME(男)がその羽を掴む。
大叔母からのメッセージだった。
「”リング”が”天空の頂”までの頂上を目指して登ってきている。WA(輪)を見つけたなら、すぐに戻れ。」と大叔母の言葉が舞う。
メッセージを伝えると、その羽は「ボワっ」と消え去った。
ME(男):「どうやら”リング”は僕ら”スズモノ”に会いに向かってきているらしい。戻るとするか。WA(輪)。君も来てくれるか?」
WA(輪):「もちろん。」
巡回員ゴールド:「‥私も連れて行ってくれないか?‥ふふ。”リング”と私は古い仲でねぇ。彼が急に皆の前に姿を現す。とはこれは警告を意味しますよ。私を連れて行った方がいい。」
それから巡回員ゴールドは昔話を話し始めた。
まだ地上での生活があった時代。私と”リング”は同じ大学生の同期だった。
専攻は民俗科学を専攻していて、趣味が共通のクライミングだった。時間さえあれば色んな岩山を登った。
僕らにはクライミングのセンスがあったんだと思う。登る度にクライミングのレベルが上がった。
そして取り憑かれたように岩山に魅了された。元々2人ともひとつの事を馬鹿みたいにのめり込む性格だった。
そしてあの日がきた。
僕らはいつも以上より危険な岩山に挑戦していた。天候は悪くなる予定だったが、当日はそんな様子は無く欲が出て続行していた。
しばらくして悪天候は予報通りやってきた。
現時点で登頂まで半ば付近。避難場所もない。このまま登り続けるか?降りるか?の2択しかなかった。どちらも危険だ。
この状況の中、2人の意見は一致した。
負けず嫌いな一本気の気質だ。
2人は登り続ける答えを判断した。
視界は豪雨でほぼ明かり程度しか見えない。
手の引っかかる感触と足場の安定感だけを頼りに登る。
8割方登ってきただろうか。あともう少しという所で現実は悪い方向に傾いた。
豪雨の為に堅い地盤は緩くなり”リング”の頭上にひとつの岩の塊が落ちてきた。
”リング”の視界には落ちてきた岩は見えなかった。”リング”に直撃する。
”リング”は体制を崩しそのまま滑落してしまった。
”巡回員ゴールド”は落ちてゆく”リング”をスローモーションの様に見送るしかできなかった。
その時、”巡回員ゴールド”は目を疑った。
最初豪雨の影響で見誤ったと思ったが、間違いない。
滑落してゆく”リング”から”第3の手”が出て岩場にしがみつこうとしている。
何回かのタイミングで上手く岩場にその手が引っかかった。
”リング”の身体がその勢いで宙ぶらりんに大きく振られるのが見えた。
”巡回員ゴールド”はその第3の手の存在よりも”リング”が助かった安心感の方が増し、その場から動けなかった。
2人はどうやら、そのままロープにぶら下がったまま一夜を過ごしたようだった。
昨夜の嵐を忘れるように次の日の早朝は輝かしい朝だった。
眩しく暖かい朝日の光で目覚めた。
”リング”をおこし、また2人で登りはじめた。
”リング”は昨日の滑落の記憶は無い。と言った。
頂上に登り着き、しばらく”リング”と話をした。
巡回員ゴールド:「君は生まれつきどうやら特殊な能力を持ち合わせているようだ。これからは世の中、人の為にその能力を生かすべきだ。私と同じように山と民俗学を勉強している場合では無い。」
と言うと、”リング”は意見を否定した。
リング:「君は山を登り過ぎて頭がおかしくなったのではないか。2人でこれからの人類の為、住み良い環境作りを始めよう。と夢の話をしていたじゃないか。ははーん。君は私の事が邪魔になったのだな。私の存在が脅威になった?君は1人でそのアイディアを独創しようとしているのだ?そうだろ!元々目立ちたがり屋だったものな。」
2人の意見はぶつかり合い、それから2人は2度と共にクライミングをすることはなくなってしまった。
それからというもの、2人はそれぞれ独りでクライミングをするようになった。
孤独にただ山頂を目指すだけのノルマクライミングだった。
”巡回員ゴールド”も”リング”も徐々に独りの殻に閉じ籠るようになっていった。
そんな時、”リング”がとある岩山を独りで登っていると、ひとりの男が”リング”に声をかけてきた。それが”アイツラ”だ。
”アイツラ”はそれから”リング”に様々な”術”を教えた。”アイツラ”は”リング”の能力を見定めていた。
”リング”はスポンジが水を吸うように、たっぷりと”アイツラ”が教える”術”を次々と習得していった。
”巡回員ゴールド”の意見は合わず跳ね返したのに、何故か”アイツラ”がいう意見とは気が合ったようだ。
”リング”は”術”を習得し”アイツラ”との関わりが増えると性格も変わっていった。
”巡回員ゴールド”はそんな彼を心配していた。
お互い離れたが、常に意識はしていた。”リング”はどうか分からないが。
”リング”はその”術”を使い各地で人を救うようになった。名は知れ男巫は”グランドライン”にも必要不可欠な存在となった。
しかし、これまでは全て”アイツラ”の思惑通りだった事に気づく。
”アイツラ”は”リング”の能力を利用し、”グランドライン”に存在する大獣を人間と合わせ、大獣人間を量産し、”グランドライン”を壊滅させようと企んでいたのだ。
それが分かったのが大獣第1号。BOO(武)だった。
人間も”リング”も全ては”アイツラ”の手のひらで動かされていた駒だったのだ。
それを知り、”リング”はあまりのショックに二重の人格に分かれてしまった。”闇”の姿と”光”の姿だ。
巡回員ゴールド:「今、まさに”天路の頂”を登っている。と言ってたね?私が予想すると、彼の行動は”闇”の人格の行動だ。あの”天路の頂”を登るなんて”光”の人格じゃあり得ない。何をしようとしているのか。もしや‥”天路の頂”には今BOO(武)はおりますか?」
ME(男)はしっかりと頷いて答えた。