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バレンタインにはキットカットを

手紙を書こうと思った。
懐かしい息苦しさが私を襲った夜のこと。
縦書きの便箋に下書きのつもりで殴り書きした。
捨ててしまうつもりで。
そして、ここに記したら、本当に捨ててしまう。

この手紙は、届かない手紙。

ここに書いたのは、嘘かもしれないし、本当かもしれないこと。

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拝啓

まだまだ寒い日が続くこの頃、いかがお過ごしですか?
この寒さは、まだもう少し続くようです。
それでも、日差しの温かさを感じるたびに春の足音が聞こえるようです。
春が待ち遠しいですね。

こうして君へお手紙を書こうと思い立ったのは、
私が君に対して、特別な感情を持ってしまったからに他なりません。
けれども、この感情が何であるのか、
正直、自分自身でもよくわかりません。
だからこうして言葉にして伝えてみようと思いました。
きっとこの思いは届かないけれども、綴ってみようと思います。

そういえば、私たちが出会ったのはつい最近のことですね。
もうずっと前のようなことだとばかり思っていたけれども、
(君もそう思っているんじゃないかなあ。)
カレンダー1枚分しか月日は経っていないのですね。
何だか信じられません。
この一ヶ月ちょっとの間で、
君はずっと大人になって、
私は、新しい仕事が決まりました。
いろいろなことがありましたね。
君にとって嬉しいことは、私にとっても嬉しいことになりました。
きっと、君も私も、これから、もっともっといろんなことを経験していくのだろうね。

突然だけれど、
私は、大人になって、傷つくのが怖くなりました。
日に日に臆病になっていく自分が嫌です。

大人って、単純にもっと強いものだと思っていたのに、
そんなことないみたい。
特に、恋愛は嫌いです。
片思いは楽しいけれども、その先に進むのが怖いのです。
思いを伝えることにこんな風に怯えるなんて、
自分らしくないとも思います。

けれども、怯えてしまうのにも理由があって、
それは、きっと、今の君にはわからないことだと思います。
たくさん傷ついて、何度も拒絶されて、深く悲しんで、
大した恋愛をしてきたわけではないけれども、
ああ、
あの時のような思いをするくらいなら今のままでいいや、
と思ってしまうのです。

よく、貴重な経験、なんていう言葉が使われるけれども、
時に、経験は足枷でしかありません。

君の真っ直ぐさが好きでした。
君には、いつまでも素直に、
真っ直ぐに生きていて欲しい。

多分、それだけなのです。
かっこいい言葉も、飾った言葉も、
本当はこの気持ちの前には必要のないものだとわかっています。
けれども、そういう言葉を探さなければ、
私は、君に、この気持ちを伝える勇気が出ませんでした。

好きです。

それがいえたらどんなに幸せでしょうか。

君は、私の幼馴染によく似ています。
私と彼は、ただの幼馴染です。
私が地元に帰れば、二人で飲みに出かけたり、
たまにはドライブに行ったり。
彼の運転する車の助手席は、とても心地がいいのです。
朝まで長電話したり、
彼の親友の死を一緒に悲しんだり、
地元のお祭りにも行きました。
特別な思い出は何一つないけれども、
ささやかな思い出がたくさんたくさんあります。
きっと、これから先もそんな思い出がたくさんできるのだと思います。

でもね、私たち、何一つ大切な話をしてこなかった。
私は今、そのことを後悔しています。

いくらでもチャンスはあったのに、
お互いの気持ちを確かめることなく、
ずっと友達でいることを選び続けてきました。

助手席に座っている時、
朝方の電話口で、
地元の喫茶店で、
小さな居酒屋でお酒を飲んでいる時、
何度だって聞けたはずなのに、
どうして今日まで聞かなかったのだろう。
私は、いえ、私たちは、慎重にその話題を避けてきたのです。

好きな人はいるの?
恋人とはうまくいっている?
結婚はどうするの?

いつでもお互いにそんなことを聞き合うくせに、
お互いに全ての質問にNOと答える。
そもそも、彼はただの幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもないから。
今が一番心地いい距離感なのだと思うのです。
その気持ちには嘘偽りないのだけれども、それが寂しいのです。

きっと、彼とずっと一緒にいたら、彼の嫌なところが見えてしまう。
きっと、彼のそばにいるためには、私は、私の大切なことを諦めなくてはならない。

私は、それが怖いのです。

きっと、きっと、きっと。
大人が使う「きっと」は、
時々、希望以外の形をしているのです。

君を見ているといつも思うのです。
君くらいの年齢の時に、好きって言えたら、
もし、恋人としてはダメになってしまっても、
今でも友達でいられたんじゃないかなあって。

君の横顔を見ながら、
時々、そんなことを思っていました。
後悔はしているけれども、
これはこれで、きっと正解だったんじゃないのかなとも思っています。
君と出会って、自分が後悔していることに気づけたから、
それだけで、私には十分な気がするのです。

私は、今、目の前にいる君が好き。
私の幼馴染に似ているからとか、
そういうんじゃなくて、
君自身のことが好きです。
真っ直ぐで素直で天真爛漫な。

月日が経って、君が私くらいの年齢になった時、
君は、どんな風になっているんだろうね。
きっと、
君なら寛大でおおらかで真っ直ぐな男になれると、
私は思うのです。
ねえ、この「きっと」は、希望の形をしているはずです。

君は、これから私以外の誰かと恋をして、
時に傷つきながら、愛を知るのでしょう。
ありきたりな言い方しかできないけれども、              それは、本当のことだから。
私もきっと、君以外の誰かをきっとすぐに好きになって、
結婚とか、そういうこと考えると思います。

あと一ヶ月したら、
私たちは、会えなくなってしまいます。
どこかで偶然、奇跡のように再会することを、
別に私は望んでなんかいません。
きっと、すぐにお互いのことを忘れて、
お互い、相応の相手と相応の不幸と幸福を手に入れて、
生きていくことことでしょう。
私たちは、それでいいのだと思います。

でも、もう一度だけ言わせて下さい。

君の真っ直ぐさが好きでした。
君には、いつまでも素直に、
真っ直ぐに生きていて欲しい。

あなたの未来が幸せで溢れていますように。

敬具

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この手紙は、どこにも行けず、
かわいそうだから、
ここにしまっておこうと思います。
ホントかウソかなんて、そんなのどうでもいいことよね。

Happy Valentine !!
愛に溢れた一年を !!

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