田舎の社交場

【田舎の社交場ポーングローン村温泉】

★田んぼと淀んだ川に囲まれた寂れた場所

 チェンマイからすでに1時間半近く走っただろう。

 ランパーンの手前でUターンして左手の細い田舎道に入り、人っ子ひとりいない小さな集落をいくつも通り抜けた。

 それでも、なかなか辿り着かない。

 少し不安になって、基本的には使わないことにしているGoogleマップを頼ったのだが、肝心のところでフリーズした。タイの田舎では、すでに何度も経験している。

 道の脇にバイクを停めて、思案投げ首。

 そこへバイクに乗った中年女性が通りかかり、「後について来い」という。川沿いの道を土ぼこりをあげて走るバイクのあとを追って、小さな橋を超えた。女性が右手を指す。

 だが、温泉らしき建物は見えない。

 バイクを停めて首をひねっていると、すでに通り過ぎていた女性が戻って来て、改めて右方向を指差した。

 茶色い看板を見ると、確かにタイ語で「ボーナムローン(温泉)」と書いてある。

看板

 少し奥に入ってみると、左手に個室のドアがいくつか並び、女性たちがたむろしている辺りにプールのようなものが見える。

 ドアが開いた個室を覗いてみたら、丸い浴槽にお湯が注がれている。

 やれやれ、ともかく、ここは温泉らしい。

個室浴槽

丸い浴槽

★湯船に浸かっている地元民は誰もいない 

 いわゆる、受付のようなものは見当たらない。

 仕方がないから、女性たちがたむろして方に向かうと、若い女性が数人一斉に立ち上がってこちらに向かってくる。

 ハンサムな私をみんなで出迎えにきたのだろうか?

 まさか、そんな訳はなく、食事を済ませたらしい彼女たちは微笑みながらそれぞれのバイクにまたがった。

 ちょうど昼時なので、どこかの職場から昼食に来たのだろう。

 急に空腹を感じて、奥の厨房にいる女性に声をかけた。

 しかし、ここにはソムタム(パパイヤサラダ)しかなく、さっきの若い女性たちは辛くて旨いソムタムをおかずに餅米を食べたということだ。

 やむなく、場外の川沿いの食堂でカオパット(焼き飯)を食べて出直すことにした。

ぞばの川

 戻ってみると足湯のそばのテーブルではすでに人が入れ代わり、女性管理人が作ったソムタムをつまみながら、女性たちは餅米を食べ、男性陣はビアチャン(象印ビール)を飲んでいる。

 いずれも地元の人たちで、ここは温泉を核にした「村の衆の憩いの場=公民館ヘルスセンター」という趣だ。

★無色無臭の淡くて品のいい湯質にうっとり

ぬるい足湯はあるが、残念ながら露天風呂はない。

それらしきプール状浴槽はあるのだが、湯が入っていないのだ。

川のそばには大きな源泉プールがあるが、ここは入浴用には整備されていないという。

源泉プール

 湯に浸かる場合は、白くて浅い個室浴槽(50バーツ)に寝そべるか、2人用の丸い腰掛け式浴槽(90バーツ)で膝を突き合わせるしかない。

 ソムタム作りの合間に女性管理人自ら清掃しているから綺麗なものだが、いかんせん、伸び伸びと泳げる広い浴槽が3つもある明治時代建立(大工棟梁は道後温泉の“坊ちゃん湯”を建てた人物)の温泉銭湯で育った私には、息苦しい。

 仕方が無いから、狭さを我慢して白い浴槽に浸かることにした。

掃除

白い浴槽

 湯質は、無臭・無色透明のさっぱり味(飲んだわけではない)。

 浅い湯船で体を伸ばしていると、うっとりして眠りに落ちそうだ。

 無理矢理そう思えば、かすかな温泉の薫りが漂うという程度の淡白さだが、まわりの素朴な田舎風景とは似合わぬ品のいい湯質で、湯上がりの後味は悪くない。

 併設されたマッサージは、1時間130バーツの良心価格。

 管理人もマッサージ師も気さくなおばさんばかりで、小ぢんまりした家庭的な雰囲気の温泉場といえる。

 露天風呂さえあれば、だらだらと飲み食いしつつ、一日中くつろげそうなのになあ。

                     (2019年12月初旬探訪)



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クンター吉田@チェンマイ在住物書き
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