シリーズ北海学園大学新聞の戦後史:第9回 淺羽イズムの体現へ(1955年①)
まさかの8頁という校舎新築記念大特集合併号。その頭には当然新校舎の写真がドーンと来て、下に学園随想がある……のだが、そこにドヤ顔と下に筆記体(?)の署名がある。
初めてこれを見た時は読めなかったが、今なら容易に読める。宮崎文彦。もうPCなら「み」を打った時点で予想変換候補第一位にまでなってしまった名前だ。
ここで署名入りで自分の顔(恐らく当時の狭いキャンパスでよく動く彼の顔を覚えていた“学友”は多かったのだろう)を見せつけることにより何を得たかったのだろうか。
学生新聞を毎号買ってまでような層(当時の本学ではそれらの一部が容易に“内輪”に転じ得たのだろう)に「これまでの学生新聞の文脈」のようなものを読み取り、これまでの学生新聞と本学の歩みをダブらせ、(自分たちと同じように)感慨に浸って欲しかったのではないだろうか。
私もまたこのシリーズを通じて、この境地に達してしまった。数年後にこのシリーズ(の第一部を)完走した際にはどんな感慨を抱くことが出来るのだろうか
北海学園大学新聞 第10・11合併号(19552月15日)(1955年2月15日)見出し一覧
一面(学園随想)
・(学園随想)浅羽イズムの体現へ(宮崎文彦)
・会告
二面(学長対談)
・今後の抱負を語る
→学長.本紙記者と対談
→将来は総合大学に
→開拓者精神で伝統を築こう
・現学制は発/展さすべき
・お先棒かつぐ/な政治運動
・深淵を曲げる/は学生の恥
・(論説)われわれはもう一度反省しよう
→総選挙のこと、学内の勉強条件のことなどわれわれの周囲の問題を中心に……
・新卒は4A84名、4B117名
→=独立校舎で初の卒業式=
・デフレの影響?/就職楽観許さず
・本学は第四位
→全日本学生スキー
・どうなる定期戦?
→東北学院/学生総会/承認せず
・晴好雨奇
三面(校舎案内)
・開拓者精神こそ祖国再建の礎(北海学園理事長 佐藤吉蔵)
→―大学校舎完成にあたってー
・遂々待望の校舎完成/移転完了、授業を開始
・総工費六千八百万円
・皆さん、ロビィ/―でお寛ぎを
・廊●(下)はアスタイル
・地下にはお風呂
・喜びを語る(戸津名誉学園長)
四・五面(各サークル展望)
・文化部体育部各サークル展望/1954年度の回顧
・(スキー)ほしい距離選手
→全日本優勝はその後?
・(ホッケー)連続優勝へ邁進
→能率的な練習を
・(軟式野球)前面に押出さる
・(演劇)ほしい地道な研究
→舞台装置に進歩の跡
・(山岳)冷水小屋を管理
・(剣道)正統派?
・(バドミントン)質量ともに充実
→本学初の女子選手も
・(陸上競技)
・(ボクシング)定期戦不可能か
・(空手)異様な練習
・(社研)「社研部報」準備中
・(軽音楽)本道軽音楽界の雄
・(美術)
・(文研)「パイオニア」に/併合か
・体育会正式に発/足か
・(軟式庭球)全道優勝二回
→実力は頂点か
・(サッカー)最も充実する来/年度
・(バレー)立直ったネバリ
・(硬式庭球)新人加入に期待
・(応援団)努力かうべし/その猛者ブリ
・(卓球)ベテランの奮起を
・(バスケット)ダークホース
・(柔道)試合度胸の強化を
・(弓道)一躍強剛の/域へ
→連続優勝へ期待
・(水泳)龍頭蛇尾
・(学園交友録)経済学の虫?(北大大学院学生 宮下幸太郎)(M)
・昭和二十九年度/卒業論文指導教授別一覧
六面(女子学生座談会)
・本学生活を語る(女子学生/座談会)
・期待すべき経済学/必要な一般的教養
・家庭で経済学は/活かせるか
・“友情”と“恋愛”について
・男子学生は頼もしい!!
→好感もてるスポーツマンシップ
・自治活動を明瞭に
・欲しい「男子禁/制の控室」
・(前頁よりの続き)
・(英会話)通訳OK
・(コーラス)
・(写真)
・(書道)
・(映研)
・(書道)
・(会計研)
・全日本学生スキー/大会に参加して(スキー部 松見満夫)
七面(野呂栄太郎)
・自由学園「北海」の誇り!!
→不屈の斗士故野呂栄太郎
・母に捧げる不朽の名著
→しばし闘いの筆休める母校愛
・偉大なる教師
→真の共産主義的人間
・(平野義太郎氏談)
・(風早八十二氏談)
・反植民地青年デー
→2月/21日
・反植デーの訴え
八面(今日の恋文)
・(文化)芙美子の焦り(田中正夫)
・今日の恋文(前岡幹夫)
・日本映画の危機(中江三郎)
→危機は新生と時を一にする
・(投書)校名のこと(三年M)
①(学園随想)浅羽イズムの体現へ(宮崎文彦)
果たして我々はこのちっぽけなキャンパスの中で私学らしいダイナミックな人物を生み出したのだろうか、今、本学にそういう人物がいるのだろうか。
それは本学学生(やはり「々」は予測変換の時代には似合わない)なら誰もが知っていることであろう。
しかし、それは仕方のないことだろう。
偉大なる指導者を持ったのも、北海道らしい広大なキャンパスがあるのも、優美な建物が林立するのも、独特の文化を誇る自治寮を擁するのも、なんなら東京のトップ校の滑り止めキャラすら有してるのも北大なのだから。
北海道が「日本のホープ」であるとまだ信じられていた時代の「開拓者精神」は結局超えられない壁を本気で超えようともしないのに本学の精神であるかのように語られ続ける万年地区銅賞の吹奏楽部の掲げる「全国優勝」と同程度の存在と堕した。いや、堕したというより最初からその程度の存在であったのかもしれない。
我々はいっそ東洋大のように滑り止め校らしく、卑屈な態度で本学を誇るべきだったのかもしれない。「開拓」がとうの昔に終ったことを認めて「公務精神」でも掲げるべきだったのかもしれない。私学助成金なんて断ってしまえばよかったのかもしれない。結局我々は「私学らしさ」を得られなかった。スポーツ推薦すら廃した本学にそういう方面における未来は現状、全く見えない。
いっそ「私学らしさ」なんて戦前の内地のエリート文化に過ぎないと21世紀の学生文化を一から練り上げて、"浅羽イズム"なんぞ遠くに置き去るくらいがかえって「開拓者精神」にそった生き方が出来るのではないだろうか。
②どうなる定期戦?東北学院学生総会承認せず
本学との定期戦のための経費について学生会総会役員会に諮らず両学長の署名を進めようとしてこともあり、東北学院学生会は開催賛成票が多いためなんとか可決。しかし学生会臨時総会は学生の出席率が悪く再三の勧誘で開会、賛成票150に対して反対票98であったが過半数(学生会員のだろうか?)に達せず承認されなかった。
65年間本学が負け続けていることや経費のことを踏まえても、よく東北学院大が定期戦を継続してくれているものだと頭が下がるばかりである。
③晴好雨奇
当時のインテリ達の考え方などが色濃く出ているので全文引用しよう。
最初は「経済学に関係ない就職先でええんか?」というような疑問形から始まり、そもそもその実在も定かではない「自衛隊への就職を希望した先輩」に対する罵倒、そしてその責を大学当局の就職斡旋にまで負わせるボルテージ上げ上げ型の自衛隊蔑視が色濃く出ているこの記事について現代の視点から批判を加えることはあまりにも容易い。
しかし、この記事には我々にもつがなる「大学で学んだことと直接的には関係のない仕事に就くこと」の是非という問題が内在しているのだ。
いわゆる「理系」の技術系を学んだ者はさておき、我々「文系」にとってはこの変化の激しい時代の職業に直接役立つことを学ぶことはあまりにも難しい。
そこを「誤魔化し」て大学でも学習にコミットするための便利なワードが「全人格的教育」や「リベラルアーツ」なのだが、残念ながら現在の大学界隈はよくわからない方向性の専門科目特化策に邁進するばかりである(平成期の教養部廃止の流れがその象徴だろう)。
それならば我々は(コロナ禍時代であるから、というのもあるため)大学での講義のみによらず学問を修めなくてはならない。
本学におけるその方法は何か。
月並みではあるが、まずは北大に次ぐ本道第二の大学図書館である本学附属図書館と開発研究所の百万冊弱の蔵書をひたすら読みあさること。これこそ本学の歴史の積み重ねであり、その蒐集の歩みに圧倒されること請け合いである。
そして我々は本学学生である以上、どの学部学科であろうと地域経済学科のように学ばなくてはならず、北海道を学ばざるは本学学生の恥である。歩け、北海道を。
現代の就職はとにかく(私達のような人種から)批判されることも多いが、そのひとつひとつの選考基準は案外理に適っているし、前時代の選考基準にくらべて少なくとも表面的な部分ではよくものごとの本質を見ようとしている。
かつての「就職斡旋」よりはよほどマシだと言えるのだ。
そんな時代だからこそ講義だけでは得られないものを身につけなくてはならないし、本学の「外観は完成」していることもあり、本学は自ら積極的に学ぼうとする者を阻害するものは特に存在せず、なんだかんだ設備も充実していることを実感し、学ぶべきなのだ。
▼先輩諸兄、貴方達もまよったはずだ、われわれは正しい地域における経済の学び方をして貴方達の分もとりかえそう。そうしてどんなに戦争の時代が悪かったかしらないが、学問の目的に反した左翼活動と怠惰なインテリ至上主義的言説をする自治屋と学生運動家たちに猛省をうながしたい。
おわりに
あとは資料的価値は高いものの案外コメントしにくい文化部体育部各サークル展望(素晴らしきかな見開き)と女子学生座談会、そして校舎案内記事を掲載しよう。こういう記事は引用しつつダラダラ書くより記事そのものを見せた方が理解も早まるだろう。
(あんまりやり過ぎると著作権的な問題以外にも私の能力不足を露呈し、一次資料のブン投げは「本学史のナラティブを構築する」このシリーズの目的に反するので控えめにしなくてはならない。むしろこれまでの約10回で一度も手を出さなかった自分を褒めたい)
おまけ「校名のこと」
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