忘却と美学と生贄「また明日」
「さてと、こんなもんか。ゴート!皿出してくれないか〜?」スケープが帰宅してしばらく経った。家内全体には良い香りが充満していた。
「お皿ってなんでもいいの?」皿の種類が多く、少し困っている。
「1番大きくて平ペったいやつだ。」とスケープが教えてくれた。彼女はすぐに理解し、スケープの元へと持っていった。
「ありがとうな。またなんかあったら呼ぶから。ごめんな、わざわざ」申し訳なさそうにスケープは言った。
「ううん、いいの。」と笑顔で彼女は言った。
そしてしばらく、時間が経ってリビングからスケープが彼女を呼ぶ声が聞こえた。彼女がリビングに行くとテーブルの上には沢山の豪華な料理が並んでいた。
「わぁ…!おいしそう!」食卓にはサラダ、ステーキ、スープなど、お祝いごとに欠かせないもの全てが並んでいた。
「さあ、座れ。いい感じの量で作ったからな。」椅子を引いてくれるスケープ。さながら紳士のようであった。彼女は椅子に座る。
「それじゃあ、いただきます」
幸せ。この2文字に限る。楽しい時間を過ごせた。一通り食べ終わったらケーキも出てきた。
「あ、ゴート、寝落ちしちゃダメだっていつも言ってるだろ。まったく…しょうがない妹だなぁ」スケープが部屋に連れていき、毛布をかけようとした時にゴートの目が開いた。時間は23:30ぐらいだった。
「ん…お兄ちゃん…」
「すまん、起こし…た、今、なんて?」心臓の鼓動が鳴り止まない。呼吸が荒くなる。
「久しぶり、お兄ちゃん。」確かに、彼女はスケープを兄と呼んだ。スケープは涙をこぼした。溢れてしまい、止まらなくなる。
「ゴート…!久しぶり…本当に…10年ぶりだな」震える声、兄は最愛の妹に抱きついた。縋るように、失ってしまわないように
「わたしね、ずっと不思議な気分で毎日を見てたの。どこか、夢みたいでね、ふわふわしてた。」か細い声だった。
「そっか…そうだよな…俺なんかよりも、ずっと大変だったよな…!」妹との会話を噛み締めるように会話を繋げるスケープ。現在23:40のようだ。
「けどね、わたし、きっと、日付が変わったらまた記憶を亡くしてしまうかもしれないの。怖いよ、ずっとこんな風で居たらいつかお兄ちゃんに愛想つかされるんじゃないかって…不安で」彼女の声も震え出した。
「心配するな。そんな事で愛想を尽かすほど俺はクズじゃない。今の、この瞬間はきっと、この世で一番偉い誰かが俺にくれたご褒美なんだ…だから、求めすぎちゃいけない。けど、帰ってきてくれてありがとう…」雨が降り始める。現在23:50。しばらく互いに沈黙が続いた。
「(こんな事を言ったらお兄ちゃんがまた苦しんじゃうかな…?だけど、言ってあげなきゃお兄ちゃんはきっと、この瞬間から離れてしまえば壊れてしまうから、勇気をだして言わなきゃ)お兄ちゃん」小さな一言だったがスケープには聞こえた。
「どうした?」
「お兄ちゃん、おやすみ。また明日、ね?」いつも見ていたあの笑顔だ。明るい、照らすような笑顔で彼女は言った。
泣いていたけれど、進もうと、そうだ。手を引かれていたのは…いつも俺だ。もう、呪いなんか要らない。覚悟を決めろ、部屋から…出るんだ。
「ああ、ゴート、幸せな夢をいっぱい見るんだぞ…起きた時にはきっと、虹がかかってるから」顔を拭いてスケープは部屋から出た。扉の向こうから嗚咽が聞こえた。
わたしは、まだやるべき事がある。日付が変わる前にこれだけは…絶対に
夜は廻り、朝が来る。スケープが部屋から出てリビングに行くとリビングにはゴートが居た。
「えっと…お、お兄ちゃ、ん?お、おはよう」素っ気ない態度を彼女はとっていた。手には1冊のノートを持っていた。
「こ、このノートに、わたしがゴートであなたがお兄ちゃんだって事が書いてあったの。うん、違和感ない。本当だったんだ。」スケープは膝から崩れ落ちた。床は木で作られていた、だからドスンと言う少し鈍い音がした。
「ゴート、おはよう、今日は、朝食…どこで食べる?」
昔の事も覚えてない少女は朝起きると覚えのない自室で毎日目を覚ます。もちろんこれは今日だけじゃない昨日もきっと明日もそうだ。不幸を生贄にする事が出来たらどんなに幸福だろう。