忘却と美学と生贄⑦

「あー、つかれたぁ…かめさんたおすときよりもなおすほうがたいへんだなんておもわなかったよ〜」帰宅早々に少女は言った。思ったよりも体力を消費したようだ。

「ああ、少し休んでてていいぞ。俺はこれから買い物に行くから。」

「スケープ、つかれてないの?」少女はくたっとしながら彼に聞く。彼は問題なく「ああ」と返答する。

スケープ、すごいなぁ。毎日、これをわたしとやってたのかな?そろそろよるだけど、わたしにできることないかな?

そんな風に考えている間に彼は既に家を出ていた。
「あ…」ぽつりとこぼれた小さな声。仕方なく少女は家内の探索を始めた。

「このおうち、ひろいなぁ。うえのかいもある。」少女は好奇心を抱きながら上の階に行った。どうやら上の階には彼の部屋があるらしい。他にも倉庫や、空き部屋らしき場所もあった。

スケープ…かってにへやにはいったら、おこるかな?でも、きになる…!

少女は、好奇心に負け、扉に手をかけた。扉はすんなりと開いた。部屋はそこそこの広さだが、それに対して装飾や内装がとても質素なものだった。

「え?ぜんぜんものがない?どうして?」こんな部屋で唯一目につくものと言えばせいぜい、引き出しの着いた机ぐらいだった。

「なかになにかあるのかな?」少女は引き出しを開けた。中には、日記があった。当然と言えば当然だろうか、少女は日記を開いた。

『今日、母さんが妹を完成させるために命を落とした。俺の妹はゴートと言うらしい。たった1人の家族で母さんの忘れ形見である妹を俺なんかが世話出来るだろうか?この日記に滲むオイルの涙が俺を作り物であると実感させる。でも、哀しい。』これが最も古い日に記されたものだった。次のページはこれよりも随分後に書かれているがそれでも古い。

『ゴートの固有魔力が発現した。その魔力は発現した者の記憶を失わせるものだった。生まれて15の誕生日にこんな事になるなんて思いもしなかった。始めは頭部に埋め込まれた記憶データチップのバグなんじゃないかと疑ったが、紛れもない後天的魔力の発現によるものだった。けど、死ななくてよかった…生きてくれてて…ありがとう』所々文字がかすれている。

『しばらく、ネネも一緒にいてくれる事になった。最近、寝れていない。辛い、毎朝俺に対して怯えた顔をするゴートに俺はどう接すればいいのか分からない。』これしか書かれていなかった。

『医者に行って?と診断された。薬も処方してもらった。しばらく安静にしよう。』1つ読めない文字があった。次はこれから更に後の日のようだ。

『この生活も今日で5年になる。流石に慣れたし、やっぱりゴートはゴートなんだと思えた。いや、勝手に別人になってしまったと思い込んでいただけだったんだ。10年目にはあいつは覚えてないだろうけど何かの記念パーティーでもしよう。俺はもう後ろは向かない。』これまで見てきたどの文字よりも筆圧が濃く、しっかりと丁寧で綺麗な文字で書かれていた。次のページは昨日のことらしい。

『明日でついにこの生活も10年になる。俺には無かった新しい観点から物事を見つめるゴートにこの10年間飽きることなく驚かされた。今日なんか、空を指さして向こうには何があるのか俺に聞いた。俺にも分からなかった。だからこそ、ワクワクした、ある日ふとした瞬間、思いもよらないタイミングでゴートはきっと解き明かしてしまうんだろう。』文字が躍動していた。楽しいそうに書いているんだろうなと思って見ている。

『今日でこの生活は10年目になり、ゴートは25になる。人形には老いると言う概念が無いから姿はそのままだ。そう、変わりなくゴートだ。今日は少しだけ奮発しよう。』

わたし、25になるんだ。しらなかった。ずっと…スケープに、めいわくかけてたんだ、わたし…

少女、彼女の目には涙が浮かんでいた。感謝と、申し訳ないと言う気持ちが入り乱れていた。

「ゴート、戻ったぞ〜」階下からスケープの声が聞こえた。彼女は階段を降り、スケープを出迎えた。

「スケープ、おかえり」少し泣いた跡が残る顔ではあったが笑顔で言った。

「ゴート、何か悲しいことでもあったか?」スケープはその跡に気づき、心配そうな声でそう聞いた。

「ううん、なんでもないの。きにしないで」彼女はそういった。

彼女は彼の葛藤を知った。沢山負担をかけたことに謝罪しながらも面倒を見てくれた事に感謝をした。今日、出会ったばかりと勝手に思っていたが今朝の彼の言葉は事実だった。彼は食事の用意を始める。空腹を誘う良い香りが漂い始める。

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