忘却と美学と生贄⑤

「すみません、報酬額が1番高いのをお願いします。」彼は一言そう要求した。

「えっと、ブロンズの依頼ですね。」分かりきっているがマニュアル通りに対応する新人の受付嬢。しかし彼はすぐさま彼女が予想もしなかった言葉を返すことになる。

「いや、マスターで1番高いのを…です。」そう発言した彼の顔をありえないと言う目で見る受付嬢。

「大変失礼ですが、身の丈に合わない依頼は受注させる事はできません。お引き取り下さい。鑑定眼に映るステータスじゃどうしようもないですから。」少し辛辣に正論を吐き出した。それも当然だ。冒険者は常に死と隣り合わせとはいえできるだけ死なせないようにしなければならないのだから。

「あ、違うんです。受注するのは向こうに座ってる俺の妹なんです。」そう言って少女を指さす。彼女もその方向を見るだろう。

「確かにあの子、強いですね。ですがそれなら彼女が自分で来ればいい話じゃないですか。そうしない理由でも?」彼女がそう言った瞬間隣から別の受付嬢が間に入ってきた。

「ちょ、新人ちゃん、わたしが言ってた人この人!訳あり冒険者さんだから!スケープ、ごめん!」スケープの知り合いであるネネだ。受け付けにはいつも彼女がいるから話も早く来ていたのだが運悪く休憩中だったそうだ。

「いや、いいんだ。それよりいつも通りで。後ろもつっかえてるから。」彼はそう言った。新人はハッとした様子ですぐに別の受け付けカウンターに行って列を分散する動きをした。他の受付嬢も休憩が終わったのかどんどんカウンターに着き業務を再開する。

「スケープ、はい、これ。達成報酬は10プラチナだから、結構難しいかも。くれぐれも怪我しないさせないを心がけるように。」彼女はそう言って依頼表を彼に渡す。

「待て、10プラチナ?高くないか?一体誰がこんな依頼を?」異様だった。そう10プラチナとはゴールドに換算すると1万だった。普通に暮らしていれば1ヶ月は保つ。

「俺の場合は半月分になる訳だが昨日とかは2日分ぐらいの報酬しか無かったよな?」彼は更に問い詰めるような形で彼女に聞く。

「それが、大富豪の所有地が魔物に荒らされてて…この街にあんまり強い冒険者いないし来ないしでとんでもない損失を被ってるんだって。だから、これ以上の被害を食い止めるために大金出してでも依頼する決断をしたらしいの。」

「なるほど」と納得する彼
「じゃあ、これ、済ませてくる。流石にゴートだけじゃキツい部分あるだろうし、俺の技術でサポートする。」彼は依頼表を手に取りゴートの元へ向かう。彼に気づいた少女は駆け寄った。

「スケープ、いくの?」彼女はすぐさまそう聞いた。彼はその質問に黙って頷いた。彼は手を引き、目的地に向かった。
「スケープ、あれ、なに?」目的地に着いてすぐ少女は指をさしながら聞いた。少女が指差す先には大型の魔物がいた。だが、敷地から出られないようだ。

「まずは、この屋敷に入ろう。そっちの方が話が早そうだ。」彼はそう言って屋敷の玄関をノックした。すると、使用人だろうか、女性が出迎えてくれた。彼は黙って依頼表を見せる。すると彼女は事を理解し応接室へと案内された。

「旦那様、冒険者様がおいでです。入ってもよろしいでしょうか?」すると中から「入れ」と言う了承の返事が聞こえた。

「中へ、どうぞ」彼女は扉を開いた。部屋の中には口ひげを生やした小太りのヒュームが居た。

少年は巨大な魔物の対処法を1秒たりとも時間を無駄にせずに思考した。計画は完璧だ。後は彼女に動き方を説明するだけだ。生活をすると言う事の大変さがよく分かる戦闘が始まる。そう、実際のところ兄より優れた妹はいないのだ。

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