忘却と美学と生贄⑥
「よく来てくれた。冒険者よ。」富豪は話しながら懐からメガネを取り出した。
「それで、早速内容から話そう。ここに来る時に見ただろうが巨大な魔物が私の敷地を荒らしているのだ。」とても困った表情で富豪は言った。
「ええ、見ました。あの亀のような魔物は銅武(どうむ)だと思います。ですが、なぜ、あそこに放置されているのでしょう。」彼はそう富豪に聞いた。
「放置しているのではない、結界魔法で出られないようにしているだけだ。ここらの敷地は私の物なのでな。損害を減らそうとした結果が今だ。」富豪はそう答えた。
「…ところで、君、頭は良いようだが、戦闘に向いてなさそうだね?隣の彼女はとても優秀だがね。」富豪は彼を見ながらそう言った。どうやらメガネをかけたのは他者のステータスを見るためだったらしい。当然だ。この世界はステータスが全て、低ければ価値も低い。
「お言葉ですが、俺は人形としては強い方かと」そう反論する彼。
「図体がデカいだけでステータスは一般人じゃないか」と切り返す富豪。
「君が人形なのは分かるとも。だったら『つむじ』を見せてみろ。そのつむじがあればステータスはともかく君が何かしらに長けていると認めようじゃないか」富豪はそう指示した。そして彼は黙って頭頂部を見せた。富豪はつむじの存在を確かめた。
「どうやら本当らしい。手抜きで作られた人形じゃないみたいだな。いいだろう、任務を完了させたら20プラチナやる。」富豪は依頼を彼らに預けることに決めた。
「スケープ、わたし、なにをすればいい?」少女は話がひと段落着いて彼に聞いた。
「ゴート、魔法使えるか?使えるならやることは簡単だ。使えなかったら少し面倒だがすぐに終わる。」
「まほー…まほーってあれ?あの、どかーんってなるやつ?」どうやら今日の少女にとって魔法とは爆発すると言うイメージが着いてるらしい。
「なるほど、今日は火魔法か。ちょうどうい。どかーんってしに行くぞ。」彼は笑顔でそう言った。
「待ってくれ、お前ら、爆発で魔物を殺すつもりか?更に私の敷地を荒らすつもりか!?ふざけるな!」富豪は怒った。どうやら、爆発が気に入らないらしい。
「どかーんだめなの?」彼に少女はそう聞いた。
「ダメらしい。」彼はそう答える。
「他の方法は無いのか!」強い口調で富豪は言った。少女はその表情に恐怖を覚えたまらず彼の後ろに隠れた。
「ゴート、他に魔法で考えられる事はないか?」少女と目線を合わせ彼は聞く。
「んーと、あとは…どどど!ってかんじがする」なんとも抽象的だが彼は理解した。
「土魔法か。これなら地形も直せる。これなら文句どころかそちらが土地の為に払う金額が減るのでは?」彼は提案した。
「ふむ、確かにそれなら利益が見込めるな。だが、さっき私の敷地を吹き飛ばそうとしたことは忘れんからな。」どうも富豪は気難しいらしい。まあ、常に利益を考慮するからこそ、大金が入る仕組みを理解できるのかもしれない。
屋敷の庭にて
銅武:円形の魔物。直径15m円周15m高さ7.5mであり、戦闘に入ると魔物の心臓部であるコアを守るために背中をドーム状に膨らませる。瘴気が抜けると亀になる。水属性を使う。個体差はあるがコアが2〜3つある場合がある。
と魔物の情報が書かれたカードを彼は少女に渡した。
「これ、わるいかめさん?」少女は彼に質問する。
「そうだな。本当は元に戻せるんだが吸った瘴気が濃すぎてもう戻せないな。だから、倒して楽にしてやるんだ。もう、苦しまなくていいんだって言う気持ちを持ってな」彼は真っ直ぐな目でそう言った。
「ゴート、あの亀を土で掴んであげてくれ」彼は少女にそう指示した。
「うん!」(土魔法母なる大地の抱擁)詠唱は無かったがその効力は確かなものだった。銅武は地面に拘束され、身動きが取れなかった。彼はゆっくりと歩いて銅武の前に立った。そして右腕を銅武の頭部にかざした。
「スキル『浄化の右腕』発動。どうか安らかに…」銅武は動きを止め、目を閉じた。
「ゴート、先に屋敷に入っててくれ。俺はまだやることがあるから。」彼は少女に指示をした。少女はそれを快く受け入れ、屋敷に入っていった。
「後で、地形を直してもらわなきゃな。」彼は一言呟いて銅武の解体を始めた。魔物の死骸は腐敗せず、悪臭を放つ。また、その悪臭によって周りの魔物を刺激し更なる被害をもたらす。しかし、死骸からは稀に貴重な素材を落とすこともある。素材は漢方や衣服、金銭になる。
夕方になってしまった。彼は素材全てをバッグに入れ、残った亡骸に聖水をかけた。これで亡骸は消滅し完全に処置が終了した。
「あ、スケープ、おかえり」と少女は部屋に戻ってきた彼を労った。彼の頬には魔物の血液が付着していた。
「なるほどな。私は君のスキルまでは見ていなかった。そのスキルの多さは人形である君の強みだな。悪かった。褒美と詫びを兼ねて50プラチナを支払う。」富豪は頭を下げて報酬金を差し出した。
「いえ、まだやるべき事が1つあります。それは、土地の修復です。ゴート、もう少し頑張ってくれるか?」
「とうぜん!」少女は満面の笑みで彼に言う。
「と言うことなので、土地を修復したらそのままギルドの方に行って帰宅します。ありがとうございました。」彼は会釈をする。
少年は彼女に細かく修復する場所を伝えた。所々禿げてしまっている部分があるがすぐに雑草が生えるだろう。その後兄妹はギルドに着き、依頼主のハンコが押された依頼表を出した。これで依頼は終了した。彼女はとても疲れた様子だ。後は、食事をする為に買い出しに行くだけでいい。