忘却と美学と生贄②
「お腹、空いただろ?どうする?ここで食べるか?」
彼はそう問いを投げかけた。とても優しい口調だった。
「えっと…えっと、ここで、食べる」
少女は小さな声で彼にそう伝えた。すると彼は静かに頷いて部屋から出た。鳥のさえずりが聞こえる程に美しい日だ。
いいなあ、わたしもおそら、とびたいなぁ
そんな事を思っていると扉がまた開かれた。彼がおぼんと一緒に食事を持ってきた。内容は目玉焼きとトーストとベーコンだ。
「ちゃんと『いただきます』って言うんだぞ。それじゃあ、食べ終わったら持っていくから呼んでくれ。自分で持ってきてもいいが。」彼はそう伝える。少女の兄として彼は当たり前の事をしているが少女にとってはとても高揚感を覚える対応だった。
「まって、この、あかいひらたいのはなに?」と言いながらベーコンを指さす。
「それはベーコンって言ってな、すごく美味しいぞ。」彼はそう説明する。
「じゃあ、このしろくてまんなかにきいろいのがあるのはなに?」と言って目玉焼きを指さす。
「ん、これは目玉焼きって言って卵という物に熱を通したものだ。これはヤマトに伝わるショーユっていうこの黒いのをかけるんだ。量は少しだぞ。」そう言いながら彼の顔は少し笑顔だった。
「最後にこの四角いのはトーストって言ってパンを焼いたものだ。とてもサクサクしてて美味しいぞ。その目玉焼きと一緒に食べるといい。昔からお前はその食べ方が好きだったんだ。」
「とおすと、べえこん、しょおゆ、めだまやき、おいしそう!」目が輝いていた。純新無垢なその目は確かにオリハルコンよりも輝いていると言える。
「それじゃあ、俺は部屋を出るから。ゆっくり食べろよ。それと、食べる前にいただきますを忘れるな。」笑顔で彼は部屋から出た。
「…スケープやさしい、えっと、いただきます。そういえば、このとんがったやつ、なんだろ、きくのわすれちゃった。」少女は少し熱いのを我慢して手と顔や服を汚しながらも満足気に食事を進めた。
おいしかったなぁ、あしたもたべられるかな。
扉をコンコンコンと3回叩かれる音がしてすぐに彼の声は聞こえた。
「ゴート、入るぞ…ってなんでそんな汚れてるんだ!?ちょっと待ってろ、タオル!」そう慌てながら彼は走っていった。
「ほっぺに黄身がベッタリ…指にもあぁ、服も結構汚れたな。後で着替え持ってくるからな。」
「スケープ、わたしにできること、ない?」不意に少女はそう問いを投げる。彼は服以外の汚れを落としてからこう告げた。
「大丈夫だ。ありがとうな、気にかけてくれて。そうだな、後でギルドって所に俺と一緒に行こう。少し、運動も必要だからな。」
スケープのわらうかおみると、なんか、わたしもうれしいな。ほんとうにわたしはむかしからスケープといっしょだったのかな。
記憶は無くても覚えてることはきっとある、少年はそれを己が信念として少女が汚した服を取り替える準備をする。やることは多い、少年は足を止める事を知らない。