忘却と美学と生贄❸

そういえば、わたしのおへや、ひろいなぁ。つくえとむこうには、なんだろあれ?
「ゴート、持ってきたぞ。自分で着替えられるか?」そう言いながら洋服をいくつか持ってきた。

「どれも、かわいい、わたしがこれ、きていいの?」とても嬉しそうな顔で少女は言う。今朝の怯えた感情が嘘かのように。

「もちろんだ、これはお前のだからな。まあ、着替えられるなら俺は部屋から一旦出るからな。」と言って部屋から出ようとする彼を少女は引き止めた。

「まって、あれ、あれはなに?」そう言って少女は実験道具を指さす。一言で言い表すことなど出来ないが彼は頑張って説明を試みる。

「あれは実験道具でな、色んな器具をひとまとめにしたものだ。お前は前から疑問に思ったことをすぐに調べようとする探究心があったから買ったんだ。すまないが、俺にも使い方は分からないんだ。」申し訳なさそうな顔をする。

「ありがとう、あとでがんばってつかってみる!」少女は笑顔を絶やさなかった。

「それじゃあ、俺は部屋から出るから、後でな。」そして彼は部屋から出ていった。

えっと、うえをはずして、つぎにこれを、うえからきて、あれ?なんかへん。
少女は一旦服を脱ぐことに成功はしたものの、服を着る時に腕を通す部分に頭を突っ込んでしまっていた。
「スケープ〜!なんかへん!」少女は声を出して彼に伝えた。

「どうした、ゴート…っぷ、あははっ」彼は笑っていた。
「わらわないでたすけてよ!」

「あー、すまん、いや、初めて見た。腕のところに頭通すなんて初めて見てな、ほい、これでいいな」

「スケープ、ありがとう。」少女は感謝を述べた。

「それじゃあ、ギルドってとこに行くぞ。立てるか?」そう言いながら手を差し伸べる。

「ぎるどってなに?」手を取りながら少女は問う。

「ギルドって言うのはお仕事をくれる場所だ。ゴートには手伝って欲しいんだけど、いいか?」優しい口調でそう言った。

「いいよ、わたし、スケープにたのまれたことするよ」手を握ったまま少女はそう答える。彼を手伝う事に少女は違和感を一切覚えなかった。

少年は手を硬く握る。絶対に失ってなるものかと言う強い意志表明なのだろう。たった1人の家族が消えたら、そんな事を考えるときっと絶望するから、だから、隣に居るという事だけを考えて仕事を取りに行くのだった。

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