welcome to フライハイヴェルト「welcome to 異世界」
なんて、いい天気だろう。私の心情と合わないこの風景を見て私は主人公ではなく、私1人なんかの為に情景描写など用意されてないのだと、痛く、辛く、虚しく、感じた。
けれど、死ぬにはちょうどいい日じゃないかな。
黒髪で長髪な女子高生は学園の屋上に立って、今にでも飛び降りようとしていた。本来であればネットや柵などで飛び降り防止をしているはずなのだが彼女はネットを切って屋上の淵に立っていた。
「あーあ、まあまあリア充だったのになぁ、なんか吹っ切れちゃった…」誰もいない屋上1人つぶやく。
「ま、うだうだ言ってても終われないよね。私の嫌いな奴に私の死に様見られるのは嫌だけど、呪ってやる。絶対にあいつらを地獄(こっち)に引きずり混んでやるッ…!」
飛び降りた。
迫り来る地面、落ちるこの感覚を絶望みたいな凡庸な2文字で表現出来るわけない。走馬灯が見えない。そっか、思い出すほど感動的な記憶も無かったんだ私。
「レマ…嘘!?誰か!だれかぁぁ!!…けてよ!!……ょッ」最期に誰かの声が聞こえた。即死じゃないなんて、とことんついてないな…私…
「私、生きてる?」彼女の目は驚くべきことに開いた。
「違うな、私、死んだけど、意識が残ってるって状態だ。つまり、テンプレだったらこの展開…」彼女はこの状況に見覚えがあった。
「少女よ、察しがいいようで何よりだ。普通ならこの場で発狂に陥るのだがな。人間の妄想でまさか当てられるとは思いもしなかったな」ローブを身につけた男性が彼女の前に現れた。おそらく、神だろう。
「できるなら…転生したいです。あなたから貰ったこの魂を投げ捨てるという罪は消えないし、虫が良すぎる話ですが。」彼女は男と目を合わせられなかった。
「赦そう。私はあなたの神だ。などと言うとでも?だが、転生の件に関しては許そう。罪を背負って転生してもらうぞ。」男は静かに、しかし、怒りが確かに伝わる声で言った。
「私が背負う罪とはどんな物なのですか?」少し恐れながらもそう聞く彼女は唇を噛んでいた。
「記憶を持って転生することだ。」一言、簡潔に男は伝える。
「それは、むしろアドバンテージでは?」彼女はそう聞いた。
「いいや、お前ならきっと、自殺したことが正しかったのか、悩むだろう。死んだあとどうなったのか考えるだろう。」顔は見えなかったがきっと笑顔なのだろう。声だけで彼女はそれを理解した。すると彼女は、笑顔になり、言った。
「悩まない。私は絶対に悩まないよ。だって、私が間違ってるならそれを正すために生きるもの。私が死んだってあの世界は何も変わらない。いわゆる、無駄死にってやつ。」
「癇に障る少女だ。まあ、良い、そのくらい神経が図太くなくては生きていけまい。転生を始めよう。」男は右手を挙げた。すると魔法陣が展開された。魔法陣は回転を始め、加速していく。ついには模様が見えなくなった。
「哀れな少女よ、その魂を今、転生させよう。記憶を持ち、来世で悔いろ。」魔法陣が一瞬の輝きを放ったかと思うと世界は闇に包まれていた。まるで、街から電気が消えた大停電のように。しばらくして、彼女の視界に光が差し込んだ。
「よォ新入りィ…我っちのチィムへようこそ」目の前には全体的に赤い半裸の男が居た。後ろには多種多様な者たちも見えた。
「レッド、ボク達のチームでしょ?」髪こそ青いがその容姿は確かにやまとなでしこと言える。
「(ボクっ娘じゃん、え、やば。)」
「えと、ボクの顔…変かな?そりゃ、エルフには見劣りするかもだけど、あはは」そう声をかけられてハッとする。
「ち、近い近い…(ダメだ。これ、私絶対赤面してる…か、隠さなきゃ)」すぐに顔を背けた。
「あ、ごめんね。ボク、距離感近いって言われるんだ。」
これが…異世界ッ!悪くないかも…
私、この世界で私自身を主人公にしてみせる。そうだな、自由な物語を生きたい。ドイツ語で自由はフライハイだったけ、じゃあ、物語もドイツ語にしてヴェルト。うん、私の人生に名前をつけるなら希望って言葉は違う。これからはフライハイヴェルトの中で生きる!
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