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High Fever

一歩間違えてしまえば オーバーヒートを起こしてしまいそうな君との距離。


経口摂取した酒が 心臓の回転数を唸らせる。


感情のメーター測定値が 明らかに正常じゃないんだ。


待ってなんて口にしてしまえれば 落ち着けるだろうけどさ。


君に停まる気配を感じていないから そこをすっ飛ばして話は進んでしまうよね。


蕩けるような瞳をしている。


仕掛けられた甘い罠。


避けられるけど 避けなかったのは確かで。


僅かに望んでしまった。


『だけなのに』は 君にはもう通用しないんだろうな。


現行犯逮捕だもんな。


証拠が揃い過ぎて飽和してる。


情状酌量の余地無しってやつか。


検挙されるような事件を起こしたわけでもないのに 捕まることってあるんだと 俺は思い知った。


君からの逮捕状が 目の前をチラつく。


俺からの視線上に 魅惑がチラつく。


角度を変えた攻撃が 俺のエンジンを更に狂わせる。


腰掛けたベッドの軋みが 俺達の攻防を伝える。


「逮捕確定だよな?」


「逃げると刑期が伸びるだけだよ?」


高熱でうなされて見た悪夢だなんて 理由のわからない言い訳は辞めた。


「持たせたもんな…」


「待ってたよ…」




俺は何も言わずに彼女の前から消えた。


身勝手でワガママな言い分で。


どこにいても。


なにをしていても。


彼女が 俺の中から消えることはなかった。


待ち合わせなんてしたこともなかった。


お互いの気紛れ。


たまたま会えば 夜を過ごして 何事もなかったように離れては また会っての繰り返し。


お互いに気負うことも責任もそれぞれ。


それが俺達のスタイル。


そう思い込んで正当化してた。


いつの間にか彼女を自分の思考に巻き込んでしまっているのが 怖くなった。


そもそも そんなに都合の良いように考えているのは俺だけで。


彼女は違うんじゃないか?


会う度に増していく愛罰感が 心に断崖を招いた。




過去を懐かしむ愚かな自分に祝杯を上げようと彼女と出会ったラウンジのドアを開けた。


「…やけに久しいじゃないか…」


この人は変わらないな。


いや違うな。


変わっていった俺と彼女との関係値に囚われずに認知してくれていたんだろうな。


「…今更なんですが。」


「リンゴのクラフトビール好きだったろ?」


「お願いします。」


あの頃と変わらないカウンターの位置と少しだけ古くなった この席で。


「これでも飲んでゆっくりしててよ。」


「いただきます。」


林檎の風味が 彼女との思い出に関連した記憶を呼び覚ます。


決めていたはずの祝杯ムード。


そんなんじゃなかった。


(そういや ちゃんと聞くことすらしなかったな…)


チャンスは何度もあったはずなのに 聞かなかった俺は愚かで傲慢の塊。


「そろそろかな…?」


店の入口のドアに据えられた鈴が爽やかな乾いた音を鳴らした。


音の鳴る方へ。


「あっ…」


「えっ…」


再始動して。


再加熱して。


季節の変わり目。


少し咳き込んだ高熱の夜夢。


素直な態度になれない俺と素直に腕へ抱き着く君。


待つ必要も失くなった世界軸への出発。




カーテンを開け放って。


すっかり朝を通り過ぎて。


貴方が煩わしそうに目覚める。


「…マジで風邪移ったかも…」


「私もダルいかも。」


「責任取ってよ?」


「それ逆なこと多くない?」


今日は二人でお粥でも食べよう。








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