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即興劇の中で君を

終わりが近くなると 寂しさが募る。

駆け巡る思い出に 独り涙が流れた。

人は 毎日を演じる。

配役の無い劇場に赴いている。

どんな場面 場所だとしても。

伝えておけばと後悔を終わりが加速させる。

桜が咲く頃には 会うことも少なくなって。

これまでだって 話し掛けることすら出来なかった。

「これでもいいか…」

登校することも少なくなって いつものメンツで集まる朝に 天井に語り掛けた。

始めてしまえば。

動き出してしまえば。

止まらないと分かっていたから。

洗面台の排水溝を閉めて 蛇口を捻れば 水はいずれ溢れてしまう。

この想いの排水溝を閉じる勇気が無かった。

閉じなくても 溢れそうになるから 恋心は厄介で 美しくもある。

君の好きなモノ。

君の好きな事。

君の好きな人。

君が好きな私。

これだけ 証拠は出揃っているけれど。

想えば想うほど 蛇口のように 口が閉まって 声には出来ない。

同じ空間に居るのに すごく遠くて。

隣の席なのに なぜか遠くて。

無邪気な寝顔を見れただけで 時は止まって。

君以外の全ての情報は シャットダウン。

夢中になれる。

私にも好きなモノはたくさんあるけど 間違いなくナンバーワンだったから。

もしかしたら これからも。

「打ち上げ お前も来いよ…みんなも来るみたいだし。」

文化祭が終わって クラスでお疲れ様会をすることになっていた。

たまたま 席が近かったから 同じ出し物をしたことがキッカケで 君と一緒に居られるチャンスだったのに。

「受験勉強で塾があって…」

理由を探して 気持ちを誤魔化してぼやかした。

「…そっか…それなら仕方ないな。」

そうして 同じ出し物をした他のクラスメートと廊下に向かう後ろ姿を焼き付けた。

おかしいな。

バッチリ撮影したのに メモリーに保存された画像がぼやけてる。

君への気持ちを誤魔化したからぼやけたんだろうな。

「いつになったら私…」

自分の部屋じゃない教室の天井にも語りかけたんだったな。

私は 君と関わる時に忙しい役を選んでた。

少しでも 君を知ってしまったら すぐに排水溝が詰まりそうだったから。

絶対だったから。

もし知られてしまったら もうただの隣にいるクラスメートには戻れないから。

そう思うのは私だけだとしても。

やっぱり 止まらなくなるから。

いつも 私の内側で 応援して 愛していることだけは 知られたくなかった。

怖いんだ。

私を忘れているみたいに過ごしてていいから。

そっと見ていたかった。

近くに感じるだけで。

「最後だね…」

ナンバーワン以外のスキで満たされた部屋を出る。

玄関を開けると春の匂いがした。

君を知ってから何度か感じてきた香り。

これからは もう香りの中に君は居ない。

月明かりを誰かが恋だと言うくらいに。

妄想爆発の心を片想いと呼んでもいいのかな。

頭の中に居る君は いつも 私に何かと語り掛ける。

それは 私がしたかったこと。

現実世界の裏返し。

もう1度 裏返せたら 表になるのにね。

席は隣でも 生まれたタイミングが数ヶ月違うだけで 卒業式は 物理的に離れてしまう。

それが 余計に寂しさと残念さを演出した。

告白が上手くいくシチュエーションを演出してほしかったのにな。

結局 卒業アルバムにメッセージを貰うことも 制服のボタンを貰うなんて もっての他だった。

「晴子…またな。」

その1言はなんなの?

せっかく消えかかっていたのに。

炎上しないように火力調整して調理していたのに。

「…なんで そんなこと言うの?」

私は泣いていた。

溢れてしまった。

禁止されていたはずなのに。

犯行現場に貼られた立ち入り禁止のテープなんて 入ろうと思えば いつでも入れてしまう。

脆いな。

今の私は これまでの即興劇で演じた役を大きく外れていた。

キャスティングミスだ。

もう 1秒前のキャスティングでは この即興劇は上演することが困難になってしまった。

だって 泣いている今の私が本当の私だから。

演じるのは ありのままの私という役。

妄想で創り上げた台本は 破り捨てた。

「泣くなよ…俺も悲しくなるから。」

きっと 君は これまでも これからも演じることなく生きていくんだろうね。

「もう…いいよね?」

青い春に上演された この公演は このままロングランするのか。

それとも ワンクールで終演してしまうのか。

確かな事があるとするのなら。

恋は演じることじゃない。

その先に 愛の気配が待っていてくれる。

2人は戻らない。

戻れない。



※この作品は『青い春のエチュード-feat.長屋晴子(緑黄色社会)スカパラダイスオーケストラ』から着想を得て創作したオマージュ作品になります。

もともとスカパラさんのコラボシリーズ大好物なんだけど このコラボはドンピシャでした。
初めて聴いた瞬間から 心が動く曲っていうのに年に何度か出会わせていただいてるんだけど この曲は 正にそれでしたね。
また このコラボシリーズの見所としまして コラボアーティストさんがボーカルだけではなく楽器の演奏でもコラボしているのも 面白い部分ですよね。
みなさんも 良ければ あの青い春に抱いた淡い想いに身を委ねてみるのも悪くないかもしれません。
それでは。
カーテンコールにて 笑顔で会えることを。

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