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What color do you have?
買い物帰りに見つけたのは 色を持たない紫陽花だった。
きっと紫陽花自身も 自分が何色になりたいのかを知らなかった。
ただ この雷雨に近い天候の中で ブランコに腰掛けて 俯いていたんだ。
暗い空と打ち付ける雨量から 僕は紫陽花が視覚的に青に映った。
「どうしたの?」
風邪引くよ?
どうしてこんな時にここに居るの?
質問を続けるのは簡単だけれど それを聞いたところで話は進まない。
だから こんなシンプルで曖昧なことを聞くことしか出来なかった。
紫陽花は頭を垂れたまま 応える気配はない。
「私が悪かったのかな…?」
激しく視界を妨げることなど 今の紫陽花には関係がなかった。
それは僕の質問に答えたわけではなく ただの独り言でしかなかった。
「…ここにいたら散ってしまうよ…」
僕は紫陽花をブランコから引き抜いて自宅のソファーに飾った。
太陽を浴びたように顔を上げるのを待った。
「どうして?」
どうしてだろうか。
「なんでだろうね…なんだか君には合わないと思ったからかな。」
青く映った君は 何故か違う色になりたそうだった。
「温かいね。」
「そうだね…ブランコよりは暖かいかも。」
こんな時間が何度となく過ぎた。
「少しだけ…」
今日の紫陽花は寄り掛かりたい気分のようだ。
「寒かった?」
「違う。」
温度の話ではないらしい。
「じゃあ…寂しかった?」
「ちょっとだけ。」
ほんのり寂しかったらしい。
肩を貸すくらいなら 僕にも出来た。
寄り掛かった紫陽花が光合成したように1滴の雫を溢した。
「苦しかった…」
僕は紫陽花が折れないように でも少しだけ力強く根元から抱き締めた。
包み込むように。
茎が折れないように。
「君は これからどんな色になるんだろうね…」
昔何かの雑誌で掻い摘んだ情報が脳裏をよぎる。
この梅雨の季節に咲く紫陽花という花は 育った土壌によって色を変え ついでに花言葉すらも変える。
「分からない。」
だろうな。
望むなら このまましばらく傍に居てくれてもいい。
そしたら 君は何色の紫陽花になるんだろう?
君がなりたい色と花言葉が合致してくれるのを願うことしか出来ない。
僕という土壌は 君を何色に染めてしまうのだろう?
こればっかりは少し時間が経たないと判明しない。
肌の色が小麦色に焼けたとしても。
笑顔が減ったとしても。
増えたとしても。
実際の君は名称を持たない色を持っている。
今 僕が感じている青だって 本当の所は分からない。
勝手なイメージでしかないから。
「晴れたら海にでも行ってみる?」
僕が好きな海を見せるのもアリだ。
「枯れたら…どうする?」
雫を納めた瞳が上向きに問い掛ける。
「あれ?…紫陽花のこと知ってる…?」
知らないと思ってた。
「私の名前…陽花(ようか)だもん。」
陽花という名前は この季節に産まれたからだと感じ取っている。
「もう少し早めに教えてくれてもいいんじゃない?…意外とイジワル?笑」
なんであの日 陽花を助けてしまったのか。
本当は惹かれてしまったんだ。
「これから…分かるよ。」
それ以上に不思議なのは 陽花がここしばらく居続けていることだ。
これから。
知ってもいいですよってことか。
「じゃあさ…いつか…陽花が何色なのか教えてよ?」
何色だって構わない。
「難しいかもだけど…分かったことにする。」
結局 分からなくてもいい。
堂々と『私は私!』と強気に凄まれてもいい。
いつか。
気が向いて 空を眩しそうに見上げながら 教えてくれる日が来るまでは 隣に居てほしい。
「楽しみだね。」
「私を枯らすのが?…趣味悪い…」
「ハハハ…まぁ色々?」
「教えてくれないのタチ悪い…」
この季節を越えても咲き続ける紫陽花があった。
たぶん それだけの話なんだと思う。
もう間もなく夏が来る。