サムネ

【第63回】ホテル「トラブルメーカー」(上海旅行記 Vol.3)

この記事は【第61回】謎の言葉「イツマッ」を解き明かせ(上海旅行記 Vol.1)から始まる上海旅行記の3回目です。1回目から読むことをおすすめします。

人生初の海外旅行で「上海」を訪れた僕は到着数時間で様々なトラブルに見舞われるも、なんとかホテルにたどり着いた。

奥の赤い建物が宿泊したホテル。
かなり迷ったので見えたときは感動した。

海外旅行で宿泊費を安く抑えるのであれば相部屋となるゲストハウスやドミトリーを使うのが一般的だと思うのだけれども、初めての海外旅行で慣れないだろうから個室で過ごしたかったので日本で言うところのビジネスホテルのようなホテルに泊まることにした。宿泊費は2泊してだいたい5000円。日本の地方でビジネスホテル場合の大体半額である。安い。

異国の地でやっとたどり着いた安息の空間。ところがこのホテル、とんでもない「トラブルメーカー」だったのである。

トラブルその1〜会話できないフロント〜

道に迷いながらもなんとかホテルにたどり着いた僕は、最寄りのコンビニで遅めの夕飯を購入すると早速チェックインすべくフロントへと向かった。

気だるそうに肘をついた受付係の若い女性がフロントでスマホをいじっている。日本だとホテルのフロントで受付の人がそんな態度を取っていることはほとんどないので面食らってしまったけれども「これくらいおおらかな方が生きやすいのかもしれないな」と思った。日本の消費者はとにかく厳しいので、こういったサービスの仕方は絶対に日本では許されないだろう。

このときの僕は初めてのフライトに加え先程まで道に迷っていたこともあって非常に疲れていたので、いろいろ考えるのをやめて早速チェックインをするために受付係に話しかけた。

「Excuse me. check-in, please(すみません、チェックインをお願いします)」

例によって正しい英語を使えているのかわからないけれどもニュアンスは伝わるはずである。

しかし、女性はスマホを触る手の動きを一瞬止めチラリと僕を見ると、すぐにスマホに目を戻し再び操作を始めたのだ。

え?僕の言葉が通じていないのだろうか。振り返るとモバイルWi−FIをレンタルした時もほとんど英語が通じなかったので、ここでも通じないかもしれない。

気まずい──たぶんそう感じているのは僕だけだと思うけれども──沈黙が流れる。どうしよう。このままチェックインできないかもしれないと思うと急激に不安になった。こちらを見たのだから僕のことは認識しているはずなのに。

心配がグルグルと頭の中を駆け巡り何も考えられずにいると受付係が僕にスマホの画面を見せてきた。

覗き込むと翻訳アプリに入力された中国語と翻訳された「何日滞在しますか?」という文字。

なるほど英語が話せないからこれでコミュニケーションを取ろうとしているらしい。僕も英語が苦手なので助かる。けれども文面を見る限り予約もなしにやってきた客だと思われたようだ。これは予約していることを伝えなければならない。

自分自身のスマホを取り出すと予約画面を見せた。

「I booked…(私は予約していますと言っているつもり)」

この時点で相当焦っている焦っているので文章にない呟きが漏れてしまったけれども受付係は察してくれたのか再度彼女のスマホを操作すると画面を僕に見せてきた。

そこに書かれていたのは「パスポートを提示してください」という文字。すぐにかばんからパスポートを取り出し手渡すとコピーを取ったあとルームキーと朝食券と共に返してくれた。

どうやらチェックインの手続きは終わったようだ。軽く会釈すると僕は用意された自分の部屋に向かった。

トラブルその2〜パスワードがわからない〜

宿泊した部屋は想像以上に大きく清潔だった。シャワーもトイレもちゃんとあるし水漏れもなさそうだ。ブラインドが壊れてしまっているのが残念だけれども日中は部屋にいないので大丈夫だろう。

清潔感があるベット。
クッションとツインでベットを取ったからか枕が2つある。

作業スペースとしては申し分ない広さ。
ブラインドが壊れてしまっているけど許容範囲。

水回りもキレイ。
シャワーだけなのが少し残念だけれども浴びられるだけ良い。

バスンッ。1人で寝るには若干大きいベッドに横たわり全体重を預ける。

ああ、疲れた。ここまでいろいろとあったけれどもなんとかプライベートで比較的安全で羽を伸ばせる空間を確保することができた、とひとりごちる。それにしても中国の大規模検閲システム「金盾」による弊害は想像以上だった。普段どれだけネットに依存しているかがよくわかる。

これは対策を打たないといけないかもしれない。これ以上グローバルローミングをすると懐が心許ないので別の手段を使おう。

そう思い対策方法を調べるためホテルのWi−FIにネットを繋ぐことにした。いくら金盾といえども全く調べられないわけじゃないことは、これまで使った感じでわかっていたからだ。けれどもパスワードがわからない。今となっては正確には覚えていないけれども「Hotel_3F」といったIDだったから利用者が使うことが前提なはずなのに。元に予約ページにも「Wi−FIあり」と書いてあったはずだ。まあこの点に関しては地図が大嘘だったのでこれも嘘かもしれないけれども。

部屋中をひっくり返して探してもパスワードらしきものは見つからなかったので、どうしてもネットにつなぎたかった僕はしかたなくフロントまで行くことにした。モバイルWi−FIはきっと上限が決まっているだろうし(確認していなかったことにこのときに気がついた)使いすぎるのは良くない。内線もあったのでフロントに電話することもできたけれども中国語はまったくわからないし例え英語でも電話を通じて会話できる気がしなかったので、こちらから出向くことにしたのだ。

トラブルその3〜壊れた電気ケトル〜

フロントに行くとすぐにパスワードを教えてくれた。「Wi−FI Password」と書いた紙を持っていったのが正解だったのかもしれない。受付係の対応を見る限りどうやら教え忘れていたようで、紙の切れ端にパスワードを書いた紙を僕にくれたのだった。

日本と比べると随分適当で面白い。こちらではそれが当たり前なのだろうと思いながら部屋に戻る。適当でも、ちゃんと繋がったのでなんの問題ない。

さっそくネットで調べてみると金盾の回避方法が書かれたページをすぐに見つけることができたので、その通りに設定をすると何の問題もなく使えるようになった。よかった。

こんなことならもっと日本を出国する前に調べておくんだったなと後悔してしまうが、そんなことよりお腹が空いたよ。日本で昼食としておにぎりを食べてから何も食べていないのだ。

コンビニで買った夕飯。
日本であまり見たことないタイプのものをチョイスした。

コンビニで買った卵で巻いたおにぎらず(ごはん版のサンドイッチのようなもの)を口に運ぶ。お、カツが挟まっていておいしい。

結構大きくて食べごたえがある。

あっという間に1つ完食すると、次に紫色の米の海苔巻のようなものを食べながらカップ麺を取り出した。海苔巻きを食べ終える前に先にカップ麺の準備をしておこう。

あ、しまった箸がない。レジのお姉さんが会計を終えた後になにか言っていたけれど、全くわからなかったから「へへっ」という愛想笑いをして、そそくさと店を出てしまったんだった。

こうなってはしょうがないのでスープのようにすすりながら食べようと思い、蓋を開けると中に小さな折りたたみ式のフォークが入っていた。ああ、よかった。日本ではこういったカップ麺はないので驚いたけれども助かった。

かやくを始めとして中身が多い。
カップ麺の外装に作り方が書いてあったが作り方は合っていたのだろうか。

さっそくお湯を沸かそうと先程買ったペットボトルの水を備え付けの電気ケトルに注いで電源を入れる。───が、ダメ。これが、うんともすんとも言わないのだ。

コンセントを抜き差ししたり電源を入れ直しても動く気配すらない。しょうがない、今度はこの壊れた電気ケトルを持ってもう一度フロントに行くしか無いようだ。

それにしても、こっちの海苔巻きはモソモソしててそんなに美味しくないな…。

豆なのか米なのか…。
とにかく「穀物」という感じだった。

トラブルその4〜鳴り響く内線〜

牛肉麵と呼ばれる中国・台湾地域で食べられる麺料理のカップ麺なのだけれども、これがなかなか美味い。少し変なにおい──腐っているわけではなく恐らく香草の香り──がするけれども、それが異国感を醸し出して心が躍る。

昔のカップヌードルよろしくフォークで食べるのなかなかオツだ。

フロントに壊れた電気ケトルを持っていくと新しいものと交換してくれたのでこうしてカップ麺にありつくことができた。交換する際に警備員らしきおっちゃんがフロント脇の奥の通路から新しい電気ケトルを持ってきてくれたのだけれども、このとき当たり前のようにタバコを吸いながら持ってきてくれたので心のなかで笑ってしまった。そういえば道に迷っているときに歩きタバコの人がたくさんいたし、吸い殻もめちゃめちゃ落ちてたので、これが普通なのだろう。日本じゃ吸える場所がかなり限られているので喫煙者にとっては、この町は天国かもしれない。ちなみに僕は一切吸わないので関係ない話である。

ふぅ。お腹が一杯になった。日本語には腹の皮が突っ張れば目の皮弛むという言葉があるが、まさにそのとおりで眠くなってきた。ただでさえ疲れているわけだし、3日目は11時に出発する便に乗らなければいけないので実質的にしっかりと観光できるのは明日だけなのだ。もう寝てしまおう。

そう思い備え付けのシャワーを浴び歯を磨くと、寝間着に着替えベットに横たわった。ぼーっと天井を見ているとだんだんまぶたが閉じてくる。

今日はトラブルばかりだったな…。明日はもっと落ち着いて観光できるといいけれども。まどろみながら、そんな事を考えていた。

本格的に眠ろうと寝返りを打つと閉じかかった視界の片隅に気になるものが写った。それは内線の横にあった。

ファミレスに置いてあるようなプラスチックの広告板である。

なんでこんな物がここに…と思い起き上がって手に取るとやたら女性の妖艶さが押し出された広告だった。別に陰部が露出しているわけではないのだけれども下着姿でいやらしい格好をしている。

なんだこれ…と思っていると、トゥルルルル…トゥルルルル…と内線が鳴り響いた。

一気に目が覚める。慌てて電話に出ることにした。

「* ○%×$☆♭#▲!※」

やばい。何を言っているか全くわからない。早口だし、中国語は外来語もすべて漢字に当てはめて発音もかなり中国訛りが入るので拾える言葉が、本当に1つもない。

「Ah~~, Okey.(はい、わかりました)」

適当に答えてガチャンと切ってしまった。だってわからないし。

トラブルその5〜突然の来訪者〜

コンコンコンコン。部屋にノック音が響いた。結局あの電話の後、目が冴えてしまったのでYouTubeで動画を見始めた矢先だった。

なんだろう…。YouTubeの再生を止め扉を開ける。

そこに美少女が立っていた。

たぶん成人はしているのだろうけどあどけなく幼い顔立ち。背は150cmくらいだろうか。短いけれどサラサラの髪の毛。黄色いTシャツにホットパンツ。たぶん中国人なのだろう。とにかくそんなことはどうでも良くて可愛い。

え?なにこれ?深夜アニメでも始まったのか?運命の出会い?

そんなことを考えていると先程の広告と電話を思い出した。もしかして成人向けの何かサービスを呼んでしまったのか…?

「No, thank you!!!(結構です!!!)」

僕は叫んでバタンッと扉を閉めた。しつこくノックされるかと思ったけれども、そんなことはなかった。助かった。

これは日本に帰国してからわかったことなのだけれども、僕が宿泊したホテルでは屋上でセクシーマッサージというサービスを提供していたらしい。サービスを受けていたらいくらかかったかわかったものじゃない。ただでさえ金欠で海外に来ているのに。

うかつに海外でOKといってはいけないということをここで学ぶことができた。

ちなみにここのマッサージは営業がしつこく、翌日の夜もかかってきた。その時は、ちゃんと断れたので僕も成長したと言えるんじゃないだろうか。

このホテルに入って数時間しか経っていないのに、ここまでトラブルが発生するとは思いもしなかった。ここのホテルの名前は「トラブルメーカー」に変えたほうがいいかもしれない。

最後に

非常にトラブルだらけの一日が終わった。一日目でこの始末だが、無事、僕は帰ることができるのだろうか。

続きます。

>>前の話はこちら【第62回】二重に仕組まれた罠(上海旅行記Vol.2)

>>次の話はこちら【第64回】浦東と僕とカンチガイ(上海旅行記 Vol.4)

おまけ

部屋のテレビに備え付けられているホテルの案内画面からずっとこの音楽がかかっていました。当時、撮影した動画ファイルから音声検索をして、この曲にたどり着いた時は本当に感動し、あのときの感情がよみがえってきて、これを書いている間、マジでずっと聞いてました。ぜひ聞いてください。

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まるこす
最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。