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【第49回】僕が女児になりたいと思った日。

高校生のとき狂ったようにレトロゲームを買い漁っていた。

当時は何もかもが上手くいっておらず何もかもが嫌になっていたので完全にヤケになっていたのだと思う。

学校から帰ると残された少ない時間でゲームショップに行くか、ゲームで遊ぶか、もしくはゲーム実況を見るかのどれかしかなかった。

買い漁っていたといっても振り返ってみると月5000円のお小遣いで普通に貯金ができるくらいの可愛いものでしかなかったわけで。まあ、これは僕が友達が少なくアウトドア派ではないというのもある。また過去の名作ソフトも実機でプレイすると高くつくがバーチャルコンソールでなら安くすむし、何よりワゴンセールの中身を漁るか何件も店を巡り安いソフトに出会うのが楽しみだったのだ。

しかし、近所のレトロゲームが買える店には限りがある。有限だ。頻繁に行っていると品揃えが変わらないこともままある。

だから何かの拍子で全然知らない町のレトロゲームを買える店にいくのは、すごく好きだった。

ある日、どんな用事かは忘れたけれども全然知らない町に行く機会があった。用事をすませたとき、ちょうど道路を挟んだ向こう側にブックオフが見えたので、せっかくだからと寄っていくことにしたのだ。

意気揚々と店に入る。真っ先にゲーム売り場のコーナーへと向かうと端から端までじっくりと見ていく。

基本的にはレトロゲームは中古で入手するから店によってラインナップが違うのが面白い。でもウィニングイレブンはどこの店でも大量にあるな。

なんてことを考えながら品揃えをチェックしていると、ふと1つのソフトが僕の目に飛び込んできた。

「リズム天国」と書かれたGBA(ゲームボーイアドバンス)のソフトだ。任天堂から発売されている人気シリーズの記念すべき第一作目。ゲーム中のBGMのリズムに合わせてボタンを操作していく簡単ながらも面白い根強いファンの多いシリーズである。

このときの僕(いや、今もだけれども)は、このシリーズを友達の家で少し遊んだ以外には、ほとんどやったことがなかった。

これは買わねばならない。箱も説明書もなくソフトのみの販売だったから値札に書かれていた金額は350円。あの名作がこの値段なら非常にありがたい。

一通りすべてのソフトを確認し終えるとレジに向かった。手に持った「リズム天国」を差し出す。

すると店員が何かを話しかけてきた。

何を言っていたかはわからない。早口で聞き取れなかったのだ。かろうじて聞き取れたのは「〜〜ですけど大丈夫ですか?」という言葉だけ。

大方「箱も説明書もないですけど大丈夫ですか?」といった感じだろう。

「あ、はい。大丈夫ですよ」

すると店員は一度ソフトを持って奥に引っ込み、しばらくして戻ってきた。

「350円になります」

よくわからなかったけれども会計を終え、遊ぶべく足早に家へと帰ったのだ。

家にたどり着くとDSを取り出し、本体下のGBAカートリッジの差し込み口に「リズム天国」を入れるべく袋の中からソフトを取り出す。

ん?何かがおかしい。ソフトに貼られたシールがさっき見たものと全然違う気がする。色合いは似ているけれども書かれている文字がなんか違うような…。

「マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ ぴちぴちパーティー」

なんで?!

僕はリズム天国を買ったはず。なのに手元にあるのはぴちぴちピッチ。記憶の彼方にある昔放送されていた女児向けアニメのCMが脳裏に浮かんだ。

神に誓ってもいい。こあのとき僕は確実にリズム天国をレジに持っていったんだ。断っておくと、よくある万引き防止で空箱をレジに持っていくというパターンでもなかった。なにをどうしたらこうなる。

店員がリズム天国がぴちぴちピッチになることを確認して僕が聞き逃したままOKしたという可能性が一番現実的だけれども、そんなことありえる!?

返品しようにも家から遠くて出来ずしかたなく遊んでみることにした。そして10分も経たずと飽きた。キャラが1人もわからんし、ゲームもただのすごろくでしかない。

ああ、このソフトも当時アニメを見ていた女児なら楽しめただろうに。この日ほど女児になりたいと思った日はない。

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まるこす
最後まで読んでくださり、ありがとうございました! ご支援いただいたお金はエッセイのネタ集めのための費用か、僕自身の生活費に充てさせていただきます。