見出し画像

現代版:夢十夜 

第一夜

小学生のころ、夢をみた。今でも忘れられない夢だ。アジュール・ブルーの海の底、太陽の光がきらきらと辺りを照らす。私は魚のように、ゆらりと泳いでいる。ここはどこだろう。魚は一匹もいない異様な世界に来てしまったのだな、と思う。上を向く。太陽はまだおでこの上を眩しく照らす。あぁ、このままゆらりゆらりと揺られていたいなぁ。犬かきのような不細工な恰好ですすむ。プランクトンも小魚もいない。静寂の海の底。私はゆらゆら揺れている。そのとき、ぬっ、と大きな物体が現れた。

「クジラだ」


声にならない声を出す。大きな大きなザトウクジラ。気づかれてはいけない、本能がそう言っていた。深い青の海の底、私の頭の上をゆっくりとゆっくりと進む。何たる、存在感。私は口をあんぐりしたままクジラを見つめていた。じーっと見つめていると、新たな物体が目に移り込んだ。それはクジラよりもひとまわり、ふたまわり小さい・・・・人?

ヒトだった。若い男のひと。髪は少し長く筋肉がほどよくついている。彼はクジラにぴったりくっついたまま自由に泳いでいる。私の存在には気づかずクジラと仲良く戯れている。深い深い海の底、いるのは私と、クジラと、彼。あぁ、このままクジラと彼を見ていたいな。そう思うも空しく地上の朝に引き戻されてしまった。枕が濡れており、涙を流していたみたいだ。彼は誰だったんだろう。なぜクジラと一緒に泳いでいたのだろう。小学生ながらまだ見ぬ「彼」を探している。

「海の底にいる彼」に。

これが夢、第一夜。


いいなと思ったら応援しよう!