愛犬・外飼いトイプードルの思い出04
道草を食う犬だった。
人間の場合、「道草を食う」と言えば、目的地へ行く途中で他のことに時間を費やすことだが、うちの愛犬・外飼いトイプードルは文字通り道ばたに生えた草を食っていた。
春先、道ばたに雑草が芽吹き始めると、引きちぎっては食べ、引きちぎっては食べして、なかなか前に進まない。普段は近所をくるりと一周する程度で満足するのに、若草の時期は散歩の時間が倍近くになることもあった。ん?ということは、本来の意味での“道草を食う”でもあったわけで、なんだダブルミーニングだったのか。
猫は胃腸の調子を整えるために草を食べるけれど、犬の場合は胃腸の調子を整えるためとか、ストレス発散のためとか、単に好物だからなど諸説あるらしい。
うちの犬の場合は、たぶん美味しいと思って食べていたと思う。その理由は、食べる草の種類が決まっていて、しかも若草の柔らかい時を狙っていたから。食べるのはシュッシュッとしたイネ科の、いわゆる雑草。生え始めの高さ15cmぐらいのものが好きだった。すぐ横にヨモギが生えていても、目もくれなかった。「ヨモギのほうが美味しいんじゃない?」というのは大きなお節介というものだ。
道草を食う場所は何カ所かあったけれど、特に、坂の上の公園に続く階段の踊り場の脇の猫の額ほどの場所に生える草がお気に入りで、旬の季節になると、階段の柵と柵の間をするりと抜けて食べに行っていた。柵の間が通り抜けられるのは小型犬ぐらいで、たぶんあんなところに入り込む小型犬はいないだろうから(外慣れしている犬じゃないと入るのに躊躇するような場所なので)、あそこの草はきっと誰も手を付けておらず、瑞々しくて美味しかったのだろう。
とはいえ、もちろん「道草を食う」の語源となった馬ほど食べていたわけではない。尖った歯しかないから食いちぎるしかないし、最近は年を取って歯が数本抜けていたから、食いちぎるのも一苦労だった。
一生懸命食いちぎろうとしているのに、歯と歯の間を草がスーッと抜けてしまう様子は、可笑しくもあり、哀れでもあった。そして道草を食うためにひとしきり時間をかけた後、入った時と違う柵の間から出てきてしまい、リードがこんがらかるのも困りものだった。
そんなこんなで春は時々、階段の踊り場で10分以上も立ち止まっていただろうか。本当は、あの踊り場で立ち止まりたくなるのは、金木犀がふと香る秋の日だ。しかし秋は道草などには目もくれず、一気に階段を駆け上がる。仕方なく、朝から階段ダッシュに付き合っていた。
駅とは反対方向にある公園。愛犬亡き今、もうあんまり行かなくなるのかな。