見出し画像

[短編]斜光カーテン

遮光カーテンの隙間から朝が顔をのぞかせている。顔色は悪くはなさそうだ。ドアの隙間に目をやると、廊下の冷たい空気が以前勢力を拡大させているのがわかる。そして、あなたはいつしかそんな日常の隙間に入り込んできた。

マイク越しに聴く声はどこか遠くの世界のように思える時がある。耳元で聞くあなたの声は芯に響くのに、拡張された彼の声はまるで響かせる場所が違うようだ。

西日に包まれた部屋。日付変更線に支配された課題をこなす気だるい午後に、聞き馴染みのない歌が届いた。それは、遠方から来た渡り鳥のように、異国情緒を空間に漂わせていた。こんな小さな再生機器からでもわかる。音楽はいつのまにか私の心にぴったり袖を通していた。
この気持ちはなんだろう。
空間を満たす、ふくよかな優しさ。包み込む母性に加え、クールな父性も兼ね備たメロディ。ミドルテンポな私たちの生活に調和するだろう。
きっとあなたにも響く。そう思って、私は少し先の耳元の幸福を願った。

西日が別れを告げ、中途半端なお月様が顔を覗かせた。
今日の月は、いつか君が残したモナカの形によく似ていた。
あなたは正しく自己採点ができない人間だ。だから自分は赤点だと決めつけてしまう。そんなあなたが苦手だった。でも、そんなあなただから見えるものがある。今ならそう思う。いつしか、平均点を下回る答案用紙は私の模範解答になっていた。

暗い空にスパンコールの星屑が並んだ。街を構成する無数の細胞の一つであるこの部屋も本来の主人が帰宅したことで輝きを取り戻した。寝ていたのか、君の足音で頭が覚め、明かりで目が眩んだ。
彼は話すことができない。いや、正確には、今は、話すことができない。声を生業とする人の性なのか、私の教えた歌を必死に歌おうとする姿に思わず目が潤んだ。紙とペンで伝わるものは本当にごく僅かだ。でも、君の声を通して感じる。私は君の声が好き。君の声を何度も何度も耳元で作り直す。
君の透き通った目で見る世界に、私は住んでいたい。

いいなと思ったら応援しよう!