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「人生が輝く働き方~働くことが楽しくなる会社づくり」~第20回日本を元気にするセミナー(1)~

ブロックスでは、毎年、「日本を元気にするセミナー」というイベントを開催しています。お客様に喜ばれる会社、社員いきいき働く会社づくりを、実践者をお招きして探求しています。

あいにく今年はコロナ禍で開催ができません。しかし、こんな時だからこそ学びを深め、この沈滞ムードを吹き飛ばしていきたいところです。今回は、昨年の日本を元気にするセミナーのすべての内容を2回に分けてご紹介していきます。

セミナー出演者のご紹介

第1部:DVD教材「志GOTO人シリーズ」で取材した・・・ドコモショップ藤井寺店 神崎ひとみ様/明治安田生命保険相互会社 田中みき様/(聞き手 ブロックス 西川敬一)

第2部:ネッツトヨタ南国 相談役 横田英毅氏/西精工 西康宏様/大久保寛司様/(聞き手・ブロックス 西川敬一)

■オープニング

西川 今日のテーマは「人生が輝く働き方」です。20回目にふさわしいテーマは何かといろいろと考えてきましたが、やはり、ど真ん中にあるのはこれだと考え、このテーマにさせていただきました。
「やる気になる」というと、少し浅い感じがします。人生が充実し、輝く働き方とは?またそうした会社をどうすれば実現できるのか?これを皆さんとご一緒に考えてみたいと思っております。私たちブロックスの理念は「映像で日本を元気にする。生きる喜び・働く喜びの創造」というものですが、今日のテーマがまさにこれです。私たちは、ずっとこれをビジネスのテーマにしてきましたが、働く人が心から楽しく働いていることほど、素敵なことはないのではないでしょうか。
どうすれば社員がいきいき働く会社を実現できるか。これは弊社の映像のテーマでもありますが、そう簡単に答えが出るものではありません。だからこそ、こうした共に学び、考える場が重要だと思っています。壇上にいる人だけが「先生」ではなく、会場にいる人も発言し、それぞれが学び合っていく。その方がより学びが磨かれていくと思います。せっかくの出会いですから、ぜひ仲良くなって帰っていただければ幸いです。
 
また、普通のセミナーはただ講演を聞くだけのものが多いですが、私はそういうセミナーが面白くありませんでした。講演を聞き、「自分が気づいたこと」を語り合う。その中で自分の考えが整理されたり、隣の人の言葉が心に響いたりします。話し合うことで、学びはさらに深まっていくと思っています。インプットするだけではなく、アウトプットもしながら一日を過ごす。そんなセミナーにしていきたいと思います。

西川 改めて、今日のテーマをご説明します。
私たちは「DOIT!」や「志GOTO人シリーズ」などで、さまざまないい会社を取材してきました。最初の頃は、そうした会社を「CS・ESが高い会社」と言っていたのですが、最近は「ESと一口にいっても色々ある」と感じています。例えば、心の底から「自分の人生が充実している」「この仕事が天職だ」と思いながら働いている人。そんな思いの人が育つ会社が実際にあるのです。

人生の大半を占めるのが「仕事の時間」です。しかし、この仕事の時間が「面白くない」と感じている人が、結構いらっしゃるようです。調査からも、日本のビジネスマンの「やる気」や「働きがい」が低いことがわかります。以前、ある会社の人と「仕事の時間」について語り合ったことがあるのですが、その時に「私は自分の時間を大切にしたい。プライベートを大切にしたい」と言っておられました。それを聞いて私は「私の時間。では仕事の時間は誰の時間なの?自分の時間以外の時間ってあるの?」と尋ねました。
その人にとっては、たぶん「仕事の時間」は「自分の時間」ではなかったのでしょう。「面白くない時間」だったのでしょうね。結局、会社を辞められたのですが、私は、人生のどんな時間も「自分の時間」だと思えないと、きっと人生も楽しくないと思います。「仕事の時間」がキラキラ輝く充実した時間になれば、本当に素晴らしいと思います。もし「仕事の時間」が「我慢の時間」になってしまったら不幸ですよね。


私が尊敬する、堀場製作所の堀場顧問がこうおっしゃっていました。「仕事をする40年間が、おもしろおかしくなくて何になる」。「面白いと思ってやった仕事は成功するが、義務でやった仕事は大体うまくいかない」。「面白い仕事をするか、仕事を面白くするか、この2つしかない」と。この会社の社是は「おもしろおかしく」です。
また、伊那食品工業の塚越寛会長は、毎年の新入社員研修で「100年カレンダー」を見せながらこうおっしゃいます。「このカレンダーの中にあなたの命日があるんだよ」「人生は思ったより短いぞ」「だからこそ、人生を楽しまなきゃ」と言って研修をされるそうです。短い人生の中で「どう生きるかを真剣に考えなさい」と問われまs。この間も会社に訪問したら、会長が「人生は仕事だよ」と仰っていました。私も、人生と仕事は切り離せるものではないと思います。
どうすれば、自分の人生がもっと輝くのか。今日、ご参加されている皆さんは輝いている方ばかりですね。あなただけでなく、会社で働くすべての社員の人生が輝く会社をつくるにはどうすればいいか、これを深めていきます。

第一部では、組織の中でいきいき働いている方をゲストにお迎えします。いきいき働いていくための原動力やお二人の共通点などをご紹介していきます。第2部は、社員がいきいき働く会社を実現した経営者に、社員が輝くための環境づくり・舞台づくりを伺います。さらに経営者の人生観などもお伺いしていきます。そして第3部は「人生が輝く働き方」について、もう一度皆さんと話し合っていきます。ゲストの皆さんとの質疑応答も入れながら進めていきたいと思います。

■第1部「輝く仕事の原動力」〜パネルディスカッション〜

西川 今日はご無理を言ってお二人に会場に来ていただきました。本当に普通の方なので、最初からドキドキされています。皆さん、温かく迎えていただければと思います。では、ご登壇ください。
 今回はこのような企画にお付き合いいただきましてありがとうございます。ご不安はあると思うのですが、お二人とも、お客さま対応は得意ですよね?私を苦手な変なお客さんだと思っていただいて(笑)、いつもの調子でやっていただければと思います。よろしくお願いいたします。
 まず田中さんからお伺いしたいのですが、このビデオは社内で見られている人が多かったと思いますが、どんな反響でしたか?

田中 こんにちは。明治安田生命の田中です。
最初、このDVDのお話は、こんなに大掛かりなものではないと思っていました。「社内で毎日頑張っている人のインタビューがあるから」ということで、以前、明治安田生命のイメージビデオを撮ったことがあるので、そんなビデオなのかなと。そのあと、実はこういうお話だと聞いて、すごくびっくりして。仕事をしている中を、2日間か3日間、ずっとカメラが付きっきりで、いっぱいしゃべったんですけど、ブロックスさんの編集は本当に素晴らしいと思いました。すごくいいDVDに出来上がっておりまして、人生のうちでいい財産をいただいたと思っております。良いご褒美をいただいたととても感謝しています。

西川 ご覧になられた方が泣いておられたとか。

田中 そうなんです。新人研修で見ていただいたんですね。社内ですれ違うと「あ、田中さんだ」という顔をなさって、みんな見ているからだなと思いました。「とても感動した」とか「DVDの田中さんですよね」とか言われて、一時は手と足が一緒になって歩いちゃうみたいな緊張感があって、このDVDは皆さん見て感動してくださったのだなと思いました。
 
自分のためではない。普通の自分が、
毎日前向きにやっている姿から伝えたい

社内の資格には、初級、中級、上級、S級とあって、私はいまS級というお話をいただいているのですが、6カ月おきに「判定テスト」というのがあるんです。このDVDのときには運がよくS級だったのですが、私は本当に優秀でも何でもないんです。たぶん、新人の方はこのDVDを見て、すごい知識のある田中みきなんだと思ったと思いますが、「これはまずい」と。そうではなく、本当に何もできない、本当に毎日毎日、どんな電話が入ってくるのかなと冷や汗をかいて、ドキドキしている気持ちは皆さんと変わりません。
 撮影あとに判定テストがあって私は降格してしまったんですね。モニタリングという評価のところでスクリプトというのがあるんですが、そちらを差し替えるのを忘れていて、そこで点数を引かれたかと思います。6カ月おきに判定があるので「次回は気負わずに頑張ればいいか」と思ったんですが、実は私、来年4月が定年で、次の判定が最後なんです。それで「ちょっと待てよ」と。やはりS級に昇格して定年を迎えたい。私の担当のSVやCSVの方に対しても、どうにかここで、最後の踏ん張りを見せて昇格しようと思って、とにかく頑張って、このあいだ昇格させていただきました。

西川 よかったですね。

田中 そのときに思ったのですが、自分のためではないなと。これから昇格式があるのですが、私は前回、降格しました。でも、定年間近な私が今回S級に返り咲いたと。皆さんが定年を迎えるころ、私はこの世にいないと思ますが、そんな私が毎日前向きにやっているんだよ、ということを伝えたい。今回、S級に昇格させていただいたことと併せて、二重の幸せを感じているところでございます。

クレームと一緒で、
ご理解が難しい方に対して教える。
その方が、重みがあって面白いなと思います。
 

西川 ありがとうございます。こういうお人柄が素晴らしいなと思います。では、神崎さん、自己紹介と、ビデオの反響などをお聞かせください。

神崎 ドコモショップ藤井寺店の神崎といいます。

西川 緊張していますか。

神崎 全然(笑)。

西川 よかったです。

神崎 田中さんみたいに、きれいにしゃべれなくて、DVDのほうも関西弁が聞き苦しかったかなと思いますけれども、よろしくお願いします。
 社内では、結構いろいろな研修の場で見ていただいているようで、向こうのほうから「DVD見たよ、よかったよ」と声をかけていただきます。社内でよく言われるのが、関西弁のイントネーションが非常に気になるということで(笑)、このあいだ言われたのは、1回目はイントネーションで内容がまったく頭に入ってこないと。2回目、3回目ぐらいで、ようやく涙が出るかなというお声をいただきました。私も本当、4回目、5回目ぐらいで、言葉が気にならずに内容を見られたかなという感じです(笑)。

西川 映像ではいいこと言っていましたよね(笑)。

神崎 なかなかいいことを言っているなと思います(笑)。

西川 今日はいろいろと「なぜそんなに頑張れるのか」をお伺いするつもりでいます。でも「頑張っている」感じではないですね。「楽しんでいる」というか、誰かによく見られるための頑張りは苦しそうな感じがしますが、お二人とも「楽しんでいる」感じがしました。神崎さん、仕事は楽しいですか。

神崎 はい。

西川 言わされていますか?(笑)。

神崎 いや、本当に。昨日の夜、会社の人間とお食事に行きまして、上司の方に「ほんまにむちゃくちゃ仕事が面白いんです」という話をしていたところです。

西川 高齢者向けのスマホ教室ということで、私もその域に入ってきているのですけれども、高齢者はむちゃくちゃ理解が悪いですよね?(笑)

神崎 むちゃくちゃ悪いですね(笑)。

西川 それが楽しいですか? イライラしたりしませんか。

神崎 ご高齢の方は、スマホに対して理解できなくて当然だと思って接しているので、イライラするということは、ほぼありません。

西川 そこがむしろ面白いぐらいなんですね。私は母親にスマートフォンを教えたのですけど、3分で諦めました(笑)。

神崎 ちょっと早いですね(笑)こちらが言うことに対して、すぐ理解していただくというのはすごく楽ですし、いいのですが、クレームと一緒で、ご理解が難しい方に対して教える、その方が覚える、そのほうが重みがあって面白いなと思います。


一人一人、十人十色のお客さまに合わせて
対応することがとても楽しい。

西川 田中さんは、電話越しでお客様の顔が見えない状況で、怒っているお客さんもおられるかもしれないし、ストレスのかかるお仕事だと思うのですが。

田中 はい、さまざまですね。

西川 どこにやりがいを感じますか。

田中 毎日、まず電話が鳴ると「どんな要件だろうか?」と。住所変更、口座変更と分かれているわけではないので、何が入ってくるか分からないんですね。だから突然「おまえ、よく聞けよ」と怒鳴ってくる方もいれば、高齢でお耳の遠い方もおられます。その一人一人、十人十色のお客さまに合わせて対応することが、とても楽しいです。
お客様に合わせてさしあげれば対応は進むんです。今、新人は分厚い事務ルールを研修しているのですが、それをやらなければいけない。私もそうだったのが、最初は知識を頭に入れるのではなく、まずお客さまとの信頼関係ですね。とにかくお客さまの言っていることを聞き取る。そこから始めればいいのだということです。
 コミュニケーションセンターには派遣会社が3社入っているんですが、先日、他社の新人さんから「DVD見ました」と言われたんです。「見てくれたんですね」と言ったら、この仕事を続けていくかを悩んでいらっしゃったんです。「やっぱり最初は誰でもそう思うんだ」と思って「でも、この仕事は続けていかなければ駄目よ、まず件数をこなさなきゃ駄目な仕事なのよ」と言いました。その方は、会うたびに下を向いていたんですが、1週間前ぐらいに第2ステップという研修が始まったんですが、「田中さん、第2ステップの研修が始まったんです」と言うから、「そうだったわね、それでどう?」と言ったら、「ちょっとやってみようかと思いまして」と言ったときに、顔が全然違うんですね。「そうよ、その調子、その調子」と言ってあげました。「すごくやる気になっている、大丈夫だ」と思って、帰り道、すごく涙が出てしまいました。
たまたま昨日その方に会ったのですが、前は下を向いていたのにその日は、私の顔を見てニコニコ笑っているんですね。「すごく、いい笑顔ね。」と言ったら「モチベーションが上がったんです。」と。すごくうれしくなって「この間あなたが、やってみようかと思ったと言ったとき、抱きしめてあげようかと思っちゃった。」と言ったら「抱きしめてほしかったです」と言われたんです。
 神崎さんもそうだと思うんですけど自分のことより「お客さまや周りで同じ思いで仕事をしている方たちが、楽しく、充実して前向きに」ということを最近すごく考えています。それが感じられるとき、本当に幸せだなと思います。

若いときは、自分の働きでお金をもらうことが優先だった

西川 相手の幸せを通して自分が幸せだと感じるようなマインドが、お二人から感じられますね。お二人は、最初からそんな人だったのでしょうか。仕事が面白くない、やらされ感があるという人も多いのですが、神崎さんはどうでしたか?つらい壁とかありましたか。

神崎 いままでのいろいろな職種の中でということですよね。ありました。

西川 ありましたか?

神崎 はい。

西川 どんな壁ですか? 面白くないな、嫌だなと思ったことは?

神崎 面白くないな、行きたくないなって。熱が出たと言って休もうかなとか、そういうのもありました。だから、今までやったすべての仕事において、こんなに前向きにやれていたかというと、まったくそうでなかったかなと思います。

西川 なぜ、前向きになったのでしょう? 若いときはお金が大事だと言っていて、それが切り替わったのはどのあたりだったのですか。この仕事をしてからですか?

神崎 そうですね。これというきっかけはないんです。結婚して出産を機に、自分が一回り大きくなったということもあるかと思いますし、DVDの中でもあったように、母の介護を経て、考えが変わったということもあるかなと思っています。

西川 介護を通してどんなふうに変わったのですか?

神崎 そうですね。すごく単純な言葉ですけれども、思いやりの気持ちがすごく大きくなったかなと思います。

西川 若いときは、自分の働きでお金をもらうことが優先だったけど、この仕事に就いて、から、やりがいのほうが大きくなった・・・。

神崎 そんな感じです。お金はもちろん大事です。

西川 大事でしょう(笑)。

神崎 大事です(笑)。このあいだこういう記事を見ました。「仕事をしなくていいから、大学生を40年間してくださいと。1カ月の給料40万円です」。すごくいいじゃないですか。でも、やはりみんなノーという答えなんですね。そういうことです(笑)。

西川 なるほど。やはり、神崎さんにとって、仕事というのは、面白いものだという感じなんですね。

神崎 そうですね。お金が目的であれば、40年間大学生をすればいいと思うんですね。40万円の選択をすればいいと思うんですが、仕事って、お金だけじゃなくて、社会貢献であったり、自分の成長であったり、大学で講義を一方的に受けているだけでは成長できないと思います。なので、仕事はお金だけではないと思っています。

西川 その辺りをもう少し聞かせていただきたいのですが、仕事って確かに面白いんですが、嫌なこともいっぱいありますよね。例えば、とても嫌なお客さんが来たら、どんな気持ちになられますか?

神崎 まず「来たな」と思いますね(笑)。接客をしていると、やはり、いまおっしゃったように、少し癖がきついなというようなお客さまももちろん来られます。若い時は、「来たな、はやく帰ってほしいな」みたいな、おそらくそういうふうに思っていたと思うと思うんです。でも、私もいままで生きてきた中で、母の介護もしながら、いろいろな経験をして、私なりに成長してきましたので、「嫌だな」というお客さまが来られた場合でも楽しんで対応できます。

西川 最初は「来たな」と思うんですね(笑)。

神崎 「来たな」と思いますね(笑)。「来たな」の次は「どうしたろうかな」と思いますね。私はクレームとか結構大好物で、そうやってお怒りで来られるお客さまを、いかに気持ちよく気分よく帰っていただくかというのは、すごくミッションじゃないですか。そういう感じです。

西川 会場の皆さん、神崎さんのことを変人扱いされていませんか(笑)。でも、面白がっている人はみんなこんな感じですよね。壁ほど面白いといわれますね。

壁にぶち当たったこともありましたけれども、
その都度、自分で工夫をして、そこで諦めませんでした。

西川 田中さんは、最初から前向きな気持ちでしたか。壁はなかったのでしょうか。

田中 そうですね。DVDでも見ていただいたように、二人の娘を育てていかなければいけないということで、収入を得なければいけないという目的はありましたけれども、このコミュニケーションセンターのお仕事を選んだのは私だと・・・。

西川 好きで選んだわけではなかった。

田中 人と接するのが好きで、興味があったので仕事を始めていて、壁にぶち当たったこともありましたけれども、その都度、自分で工夫をして、そこで諦めませんでした。「どうしてぶち当たっているのだろう」と、自分で楽しくできるように工夫するのが好きなので、工夫して壁を乗り越えてきました。だから、いまの新人の方にも「壁は必ずあるけれども、それを乗り越えてほしい」と思っています。定年間近の私が乗り越えてきているのだから、あなたたちだったら絶対できると。そういうエールを送って、この会社を定年するまでに、つまずいている方たちができるようになったという雰囲気になったらいいなと思っています。

西川 このお仕事に就かれたのが12年前ですよね。

田中 はい。

西川 若いときに始めたお仕事ではなかったので、覚えることも難しかったかもしれないですよね。田中さんも人間ですから、愚痴や不満を感じたり、言ったりすることはあるのではないですか?

田中 そうですね。仕事が嫌になってしまうのは悪いと思いませんが、それを言い訳にして何もしないのはいけないのではないかと思っています。「どうしたらいいだろう」という、そういう話をできる仲間はいますけれども、愚痴を吐き出したら「では、次に自分は何をするか」と考える。ここでお仕事をしていく上で、それを言っているばかりではなくて、続けていくために自分はどうすればいいんだと。「私の胸の内を聞いてくれたから、次の階段を上らなきゃ」といって上ってきて、いまがあるのではないかと思っています。

西川 愚痴で終わらない。

田中 そうですね。このお仕事は、いろいろとストレスがたまる仕事なので、「なんか、もう疲れちゃった」という方が結構います。でも、それは聞いてあげる。「なんで、そんな愚痴なんか言うの?仕事じゃない」と言うのではなくて、「わかる、そうだよね」ってまず聞いてあげて「でも、次は頑張ろうね、みんなそうだよ」と言って、「そうだよね、じゃあ頑張ろう」って。自分の気持ちをリセットする意味での愚痴だったらいいのではないかということです。そういうことが言える仲間とのコミュニケーション、仕事だけできていればいいわけじゃなくて、コミュニケーションを持てる仲間をたくさんつくるということがいいことなのではないかと思っています。

西川 田中さんは、お風呂で発声練習をしていたりされますね。

田中 新人のときに、モニタリングで私の対応を聞いてみたんですね。それで、QA(クオリティアシュアランス・業務の品質保証担当)の方に「早送りじゃなく、普通の速度で」と言ったら、「田中さん、これ普通の速度なんです」と言われて(笑)。「私、こんな早口なんだ」とびっくりしてしまって、「これで案内して、お客さん分かっているのかな」ということもあったりして。

西川 オンとオフがあって、オフはできるだけ仕事のことを考えないというのが普通の人だと思いますけど、家で仕事をするのはなぜですか。

田中 そうですね。やはり、コミュニケーションセンターのコミュニケーターになっているのであれば、対応している先輩たちに近付きたい。だったらどうすればと、またそこで工夫しちゃうんですね。「自分は早口だけど、何か方法はないかな」と。よく鼻歌を歌いながらお風呂入っていると結構、感じがいいじゃないですか。それで「コミュニケーションセンター・・・」(風呂でと声に出してみる)。「すごくいい!」と思ってそれをインプットしておく。娘は笑っていましたけど(笑)。「何しているの?」「何ぶつぶつ言っているの」って言われましたけど、「よりよいお客さま対応をしたい」という、そちらのほうに行ったということですね。

西川 オンとオフが切り替わるというのが、そもそも変ですよね。

田中 知識とか、事務ルールを勉強しなきゃというのは、仕事が終わったら感じたことはないのですが、やはり会話ですね。声だけでお客さまと接しているので「どうしたら気持ちが伝わるか」ということは、入社してから結構、自分で研究しました。


家に帰ってからも、
常に仕事の話はしている気がします。

西川 神崎さんはオンとオフはありますか。オフでもやっていそうな感じはしますが(笑)。

神崎 そうですね。スマホ教室をしているもう一人の講師が、すごく近所にいるママ友で、帰ってからも会う機会が多いのですが、常に仕事の話はしている気がします。

西川 家で仕事の話をしているのは、義務感ですか。

神崎 義務であれば、家に帰って仕事の話なんてしないですよね(笑)。いま、二人でこの教室を盛り上げていっているんですが、「教室をもっともっと良くしたいよね」ということで、その解決の糸口というか、どうするかというのは仕事が終わってからも話題に上がります。

西川 「あなたの職業は何ですか」と言われたら、「スマホ教室の講師です」とおっしゃられると思うのですけれども、この仕事の役割は何だと思いますか?

神崎 役割ですか。

西川 「目指すべき先」というか、「こういう役割を果たしている」というのは何ですか?

神崎 簡単にいうとそれは使命じゃないですかね。業務内容としては、シニアの方に対して、スマートフォンの操作を教える。これが役割なのですが、使命としては、ひとことで言うと社会貢献かなと思っています。

西川 ビデオの中でもありましたが、「少しでもお客様の人生の質を高めてあげたい」という思いがあるのでしょうか。

神崎 そうですね。スマートフォンやタブレットは、若い世代は当たり前のように操作をしていて、「マップ(地図)」なんてすごく便利じゃないですか。おそらく皆さんも使われていると思うのですが、ITの時代に取り残されているシニアたちに「こんなに便利なことがあるんだよ」と。「こっちの道を行くと渋滞しているから、こっちの道に行こう」というのは、スマートフォンをうまく操れる方だけが受けられる恩恵ですよね。キャッシュレスもそうですし、そういうことに疎いシニアたちに「こんなふうに使ったらもっと便利なんだよ」「生活の質が上がるんだよ」と。「残りの人生を充実して送っていただきたい」というような思いが根底にあるのかなと思っています。

西川 では、神崎さんのエネルギー源は何ですか。

神崎 これも本当にありきたりなんですが「ありがとう」という言葉ですね。「このあいだ教えてくれた乗り換え案内で、娘の家まで行ったんだよ」とか、そういうのは最高ですね。

私にとって仕事は、
自分を成長させてくれること。
知らない自分を発見できること。

西川 田中さんのエネルギー源は何ですか?オフにまで、お客さんを幸せにしたいという気持ちになる、そのエネルギーの源になるものは何ですか?

田中 そうですね。お客さまに、正確な敏速な対応をして、安心感と満足感を持っていただけるように日々努力しているんですが、最近すごく思うことがあります。これからこの仕事を長く続けていく仲間たち、不安を持っている人たちを支えてあげたい。定年の4月までにできることは、それじゃないかと思っています。
この間、新人の方に会ったときに「頑張ってくださいね」と言ったのですが、帰り道に「頑張るって何だろう?」って考えたんです。簡単に「頑張ってね」と言うけど「頑張るって何だろう」と思ったときに「みんな頑張っているじゃないか」と。「今日はどんな電話が来るんだろう?」と思いながらも、頑張って会社に来ている。それに輪をかけて「頑張ってね」と、何でそんなことを言ってしまったのだろうと思いました。だから「このあいだ頑張ろうと言ったけど、いいのよ。心の不安を持ちながらも会社に来ている、それが頑張っているということなんだから、もう頑張らなくていい、毎日コツコツとこなせばいいと思うわよ」って言い切っちゃったんですけどね。これからも長く、このコミュニケーションセンターで続けていってほしい。それが、私がいま思っていることです。

西川 あくまでも、人のために何かするのが好きなんですね。

田中 本当にそうなんです。

西川 田中さんにとって、仕事とは何ですか?

田中 私にとって仕事は「自分を成長させてくれること」だと思うのですが、最近思ったのは「知らない自分を発見させていただけること」でもあるということですね。DVDもそうなんですが、今日このような席で、仕事や生き様のお話をできるなんて、本当に幸せなことだと思います。DVDにも少し父のことが出てくるのですが、19年前に他界しているんですが、父は仕事人で厳しい人でした。その父が亡くなった晩に夢に見たんです。草原の向こうに父がいるんですよ。手を振って「みき、大丈夫だぞ、幸せになれるぞ」と言って、私は「分かった」と泣いているんです。それで、最近思うんですが、父親が「幸せになれるぞ」と言ったのは、まさしくこういうことなのではないか。仕事人の父だったから、仕事でおまえは幸せをつかむことができるということだったんだなと、最近実感しているところです。いまでも父は、どこかで見てくれているのではないかなと思っています。


人生一回きりやから、
なんか面白いことしいとか言う母だった

西川 ありがとうございます。神崎さんは、仕事なんて面白くない、仕事はお金、適当にやってお金だけもらっていたらいいという若者がいたとして、何を言ってあげますか?

神崎 難しいですね。それはそうだなと言いますね。それはそう、お金は大事。でも、さっき言ったような感じで、「嫌だなと思いながらの8時間(仕事の時間)って、もったいない」と。

西川 先ほど田中さんは、お父さんの影響とおっしゃっておられましたが、神崎さんも、自分の人生を振り返ったときに、お父さん、お母さんの影響ってありましたか?

神崎 そうですね。母がもともと結構バリバリと仕事をするタイプで、その背中を見て育ったというのもあります。

西川 「一度きりの人生なんだから楽しみなさい」ということを言われていた・・・。

神崎 そうですね。「人生は一回きりなんだから面白いことをしなさい」とか言う母だったのですが、言われているときは若かったですし、あまり深く捉えないというか、意味がよく分からなかったですね。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなるということはあったのですが、本当に身近な母が亡くなって「死」をすごく近く感じたんですね。そういうときに、「人生一回きり」という意味がすごくよく分かったような気がします。


仲間のみんなが楽しく仕事をする方向になっているというのを感じつつあるので、すごく楽しいです

西川 ありがとうございます。午後からは「生き生きと働ける職場」というテーマなのですが、田中さん、職場の仲間とか上司、周りにはいろいろな環境がありますよね。そういう自分のやりがいとか励みになるという意味においては、職場や環境はどういう影響を与えていると思いますか。

田中 そうですね。私は、割と人を笑わせるお笑い系なんですね。シーンとしているのが、とても嫌なんです。お仕事中はちゃんとやっていますが、隣の仲間が緊張していると、場の雰囲気を和ませるようにしています。「田中さんがお休みだとつまらなかった」と言われると「よかった、そう思ってくれているんだ」、「うるさいおばさんがいなくてよかったと思っているんじゃないんだ」と思ったりします。ストレスのたまる仕事なので、楽しくお仕事したいなと思います。
このあいだ面白いことがありました。新人さんの勉強になるものは転送してあげるんです。このあいだは、新人さんが画面を開いたときに、「ちゃんと本人確認をしているか、要件を張り付けているか」という内容を転送したんですね。そうしたら、このあいだその新人に会ったら、「もう田中さんのはレベルが高くて、あんな内容で転送されてきても・・・」って言われたんです。そうか、そこまでまだできないのかと思っていたんですが、その新人さんは素晴らしいんです。
先日、その新人さんが、私のところに転送してきたのですが、私とまったく同じような内容で転送されてきたんですね。「うわ、この人努力している!」と思って、すぐ言いました。「このあいだの転送、レベルが高くびっくりしちゃった」と言ったら「やめてくださいよ、コツ分かりました!」って。その方も工夫したんですね。「電話の対応のときには、とにかく張り付けて、それを見ていればいいんですね、私やります」って。「ああ、うれしい」と思って。私のそういうところを盗み取って、みんなが楽しく仕事をする方向になっているというのを感じつつあるので、すごく楽しいです。

西川 同じ環境にいても、嫌だ嫌だ愚痴を言う人もいます。捉え方というか、物事の見方が変わらない限り、生き生きと働くって難しいことなのかなと思います。神崎さんは、仲間の存在とかどう思っていますか。

神崎 私から見てですよね。

西川 どんな影響を受けている感じがしますか。仲間とか上司はどんな存在ですか。

神崎 仲間とか上司。

西川 今日来られていますけどね。

神崎 そうですね。うちの会社は、結構「こうしたい、ああしたい」ということを否定せずに、よかったらそれを取り入れてくれますし、「自由にしたらいいよ」ということを言ってもらえます。うちの店長にはまるきり信用していただいていて、本当に好きにさせていただいていますので、ありがたいです。信頼あってこそだな、と思っています。

西川 ありがとうございます。時間が押してきていますので、これで終わらせていただきます。今日は本当に慣れない場にお越しいただき、お話をいただきましてありがとうございました。
皆さんには、ビデオのフルバージョンをぜひ見ていただいて、このお二人の仕事ぶりをさらに知っていただければと思います。


田中さん、神崎さん、どうもありがとうございました。
(終了)
~第2部に続く~

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