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小津安二郎メモ

4月から6月、よく小津映画を見ていた。Twitterで見た「Zoom東京物語(森翔太)」とインスタで見た「フランス版ポスター」(Tom Haugomat)をきっかけとして定番の「東京物語」からはじめ、色々見た。

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小津については多くの論考があるが、昨今のデジタルリマスターと配信によって、それらを参照しつつ高画質で(スクショしながら)見ることが可能になっている。以下、そうして見た一連の小津作品の好きなところを整理しておこうと書いた。

アップダウンのなさ

映画の中で話が大きく動かない大げさな感情表出がなくストーリー展開で観客をハラハラさせることが少ない。別の映画でも似たような話が多い娘が嫁ぐ話が5作あり、似たエピソードも頻出する。映画を見るとき、ジェットコースターのように感情を揺さぶられることをストレスに感じることがあるが、小津映画にはほぼない。

動かないカメラ、役柄

有名な話だがローポジションに据え置かれたカメラはフィックスで、ごくたまにしか動かない。役者、役名、店の名前もあまり変えない。会話のリズム感も変わらない。全てにおいて、極端な安定性がある。

幾何学的構図

小津は「大船より」「鎌倉より」という独特の表現で小道具の配置に時間をかけたという。垂直水平の幾何学が徹底している。着物も背景も、縞/格子へのこだわりが見られる。カラーになってからは赤を効果的に使う。(*1)この構図も安定性に寄与している。

座布団、着物、背景まで全部しましま。
かつ茶色と緑。「秋日和」

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「お早う」はチェック。

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「秋刀魚の味」など後期三作に登場する「若松」
全て背景は違うが必ず直線、赤、青のコンポジション。

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飲み物と食器の水平線を揃えている「彼岸花」。
これは小津研究者、伊藤弘了氏のツイートより。

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窓、ベランダ、看板の幾何学。
おはよう/彼岸花/秋刀魚の味

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アクセントの赤。

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他にも浮世絵やセザンヌの影響が指摘される実景。(省略)


無常

「今が一番いいときだ」という内容のセリフが多くの作品に入っている。しあわせな家族は(実は父子家庭だったり誰か不在だが)娘が嫁に行くことで必ずゆるやかに壊れる。前述の「物語/配役/構図」の変化のなさ、極端な安定性は、人生の流動性を押しとどめるためかもしれない。時間は誰にも止められず、誰もが行き着く先は孤独と死。(でも大げさには表さない、というたしなみ)


ユーモア


主人公の感情は抑制的に描かれるが、周囲の人たちは常に滑稽な味わいがある。ナンセンスなやりとりは古めかしい言葉づかいも含めて、小津をみる楽しさのひとつ。無常が底流にあっても、深刻にならない。

「晩春」で娘(原節子)の見合い相手について、父(笠智衆)と叔母(杉村春子)のトーク。(聞き取りは筆者)

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「晩春」は他にも、「ヤキモチ焼くと沢庵がつながる」「佐竹がゲーリー・クーパーに似ているか」などナンセンス会話が豊富で、娘が嫁に行く話が残らないほど。聞き取ってからモノマネすると楽しい。


泥中の蓮


小津は33才から2年ほど従軍し、中国戦線で過ごした。毒ガスを扱う部隊だった。41才のときは戦意高揚映画の撮影(戦況悪化で撮影せず)でシンガポールに行っていた。戦争に対して思うところがないはずはない。有名な原節子「晩春」以降の作品は復員後40代半ば〜50代だ。当時「晩春」に社会性が無いという批判を受けて小津は以下のように発言している。

「泥中の蓮....この泥も現実だ。そして蓮もやはり現実なんです。そして泥は汚いけれど蓮は美しい。だけどこの蓮もやはり根は泥中に在る....私はこの場合、泥土と蓮の根を描いて蓮を表す方法もあると思うんです。」(*2)

小津は戦争について多くは触れないが、大体の作品に何かをチラリと入れている。戦争から戻らない不在の男が「麦秋」「東京物語」にいるし、戻っても病死してしまう男が「早春」にいる。戦争中は「バカな奴が威張ってた」という台詞が「彼岸花」「秋刀魚の味」にでてくる。従軍した人が当たり前に存在していた'50〜'60年代の映画だし、リアルタイムで見てどうだったかはわからないが、世相と表現の関係について、気になる言葉。

最後に

これを書いた日、大滝詠一が小津の戦前作「長屋紳士録」のロケ地を調査していたと知った。大滝は84年を最後にアルバムを出さずポップスや映画の研究をしていたそうだが、自分も似たことをしていた。コロナ下で自分のそういう部分が発露した。感想は「いくら時間があっても足りない」。他人が人生をかけた創作物に埋没してると、自分のつくる時間はなくなる。今日を限りに小津研究やめた、と思い、記念として書いた。

エクセルで作っていた
小津の戦後作・重複リスト(未完)

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(*1)主にファッションや小道具から論じた「小津ごのみ/中野翠」より。一部筆者の発見も加えている。スクショと加工も。
(*2)「小津ごのみ」の中で孫引きされていた「小津安二郎日記ー無常とたわむれた巨匠/都築政昭」より

その他、参考文献
「絢爛たる影絵」「小津安二郎大全」



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