
【美術ブックリスト】『地域アート―美学/制度/日本』藤田直哉編著
【概要】
地域アートとは、瀬戸内芸術祭、大地の芸術祭、横浜トリエンナーレなどの期間限定で開催される展覧会のこと。本書は2014年に『すばる』に発表されて反響を読んだ藤田直哉の評論文「前衛のゾンビたち――地域アートの諸問題」と、その後のこの方面の論考や対談、座談会を藤田自身がまとめたもの。
【感想】
地域アートとは一般的に「特定の場所で」「地域の住民と関わって運営され」「期間限定で開催される」「現代アートの」「祭典」といえる。いい換えると非自律的・非純粋的、非グローバル、サイトスペシフィック、ソーシャルエンゲージド、非永続的・仮設的なコンテンポラリーアートのイベントであり、野外展示もしくは一部野外で開催されるという特徴があり、これが住民参加、作品が非完結、保存されない、実験性などの付随現象を生み、ポランティアのやりがい搾取、美大生の無賃労働などの別の問題も生む。
こうした特徴のあるアートが、地域活性化の目的で観光や村おこし町おこしに利用されているのが現状で、芸術が社会と経済に寄与している一方で、芸術の批評性や質が問われないという隠されたマイナス面を可視化し、これを芸術の頽落ではないかと問題を提起したのが先述の評論文だった。
続く藤田・星野太対談では、ニコラ・ブリオー『関係性の美学』を再検討する。このほか日本の地域アートの歴史や背景や世界の文脈を確認する加冶屋健司の論文など、多角的な内容となっている。
一番面白かったのは、会田誠と藤田の対談で、国策に芸術が利用されることに批判的な藤田の姿勢に対して、会田はかつて作家デビューの機能を果たしていた銀座の貸画廊とそこでの評論家・学芸員へのアプローチが失われたいま、発表の機会としてはありがたい面もあると理解を示していたこと。
芸術家には、何千万何億という金額が飛び交うアートフェアに象徴されるギラギラした美術マーケットで生きていく生き方から、清貧芸術家思想を信じて美術史的意義だけを求める美術アカデミーで生きて行く生き方まで、ありかたは幅広いのだけど、地域アートは後者だけで進んでいくことに危惧があるという会田の指摘にも賛同した。
本書はさまざまな問題を提起しただけで、結論はない。2016年から8年が経過した現在、地域アートは変わらず各地で開催され、活動を記録した書籍が多数出版されている。現状はどうなのか、あらためて考えてみたいと思った次第。
はじめに
◆藤田直哉 前衛のゾンビたち――地域アートの諸問題
◆星野太×藤田直哉 まちづくりと「地域アート」――「関係性の美学」の日本的文脈
◆加治屋健司 地域に展開する日本のアートプロジェクト――歴史的背景とグローバルな文脈
◆田中功起×遠藤水城×藤田直哉 「地域アート」のその先の芸術――美術の公共性とは何か
◆清水知子 Shall We “Ghost Dance"? ――ポスト代表制時代の芸術
◆藤井光×藤田直哉 エステティック・コンディション――美学をかこむ政治や制度
◆北田暁大 「開かれる」のではなく「閉じられているがゆえに開かれている」 ――社会とアート
◆会田誠×藤田直哉 地域アートは現代美術家の〝役得〞――アーティストは欲張りになれ
◆じゃぽにか(有賀慎吾・村山悟郎)×佐塚真啓×藤田直哉 日常化したメタ・コンテクスト闘争――「誰でもデュシャン」の時代にどう芸術を成立させるか あとがき