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【美術ブックリスト】『絵が上手いより大事なこと』永山裕子

画家・永山裕子による書き下ろしの指南書。
「絵画教室に通うメリットは?」「どんな体勢で描いていますか?」「絵のサイズはどうして決めていますか」「行き詰まったときはどうしてますか?」「絵にメッセージ性は必要ですか?」など、学び方から技法的、技術的な疑問、描くときの心理など68の質問に、自身の体験や具体的なエピソードで答えていく。
観念も理屈もなく、生きてきたなかで身につけたことを言葉にする。
図版も120点と豊富で、回答に対する具体例になっている場合がほとんど。アトリエの風景や花などのモチーフ、絵の具や筆などの画材も掲載してある。技法書であり、画集であり、自伝的でもある。
ここまでが概要。

ここからが感想。
質問に素直に答えることを第一に考えられたことがよくわかる。質問も「画家にとって◯◯」「画家として◯◯」という一般的な質問ではなく、著者個人の言葉を引き出す質問となっている。

「自由」「縛られない」というフレーズが何度もでてくるように、固定観念や因襲や世間の常識や自分自身の思い込みから解き放たれることの大切さがもっとも強く打ち出されているところが他の指南書と異なるこの本の特徴。それが顕著に表れるのが「絵に飽きたときの対処法は?」の項。大学の生徒からの質問に、「私はそう思ったことがないから答えられない」と返したが、心では別のことを思っていたくだり。

「詩や短歌、歌詞などを絵にするとき考えることは?」の項も印象的。藤の花をもらったとき、中学一年のときに図書室で見つけた高田敏子の「藤の花」という詩を思い出しながら描いたという。花という一つのモチーフを、画家はただ見たまま描くのではなく、記憶と経験と現在の思いを載せて描いていることがよく分かるエピソードだった。

ここには書かないが、最後の質問「あなたの最終目標は?」に対する回答に本当の意味での画家の自由を感じた。初の書き下ろしにふさわしいと思う。

蛇足。
これまでに水彩画の技法書を14冊だしていて、教室でも水彩を教えているので「カリスマ水彩画家」と呼ばれがちだが、永山さんはさまざまな素材で描く画家であり、水彩だけ制作しているわけではありません。
月刊美術主催のコンクール「美術新人賞デビュー」の現審査員でもあります。
ちなみに一般にはTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」にたびたび登場することでも知られています。

2530円 184ページ A5判 芸術新聞社

▼目次 
第1章 自分に嘘をつかないこと 
第2章 描き続けること 
第3章 観念的に描かないこと【人物クロッキー編】 
第4章 モデルと対話すること 
第5章 構図は自分の気持ち 
第6章 もっと自由に、もっと楽しく 
第7章 世界とつながるために

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