記事一覧
うらがえし|ショートショート
数日前からTwitterの裏垢が勝手に想いをつぶやくようになった。
まるで私の代わりに涙を流すかのように。
自分の知らないところで誰かが操作をしているという事実に、一瞬は薄気味悪さを感じたけれど、どうせ裏垢だし放っておいてもいいやと思った。それに、全てカタカナでつぶやかれるメッセージは読んでいて面白かった。
今朝も通勤電車の中で内容を確認した。起きてから一時間も経っていない寝ぼけた状態で読みと
醒めない夢|掌編小説
―たまに夢だとは思えない夢を見ることがある。
夢がついさっき起こったことだと錯覚し、
目覚めてからも本当の現実を忘れてしまうほどに深く考えてしまうー
台風ばかりやって来て、ぐずついた天気が続いていた。二学期が始まってからもう何週間か経っていた。憂鬱な毎日だった。
その日、僕は古典の授業で寝てしまい、先生に怒られた。落ち込んだ気持ちのままお昼休みに食堂でご飯を食べていると、友達から沙也香先
少しだけ特別な人間|エッセイ
全てが中途半端になってしまい、いろんなことに自信を失っていた。
4月から戻った営業の仕事でも、これといった進歩は見えなかった。
いくら客先を回っても売上には繋がらず、自分の存在が無意味に思えた。
会社自体の業績も悪く、未来は明るくなかった。
プライベートで取り組んでいるnote投稿をはじめとした創作活動も
限られた時間の中で納得のいくような作品を作ることができず、
消化不良だった
イン・ア・センチメンタル・ムード|ショートショート
「おじいちゃんが心臓発作で倒れた。救急車で藤山総合病院に運ばれた」
僕は朝一から大学で西洋哲学の授業を受けていた。母からの知らせに気付かなければ、難解な内容にノックアウトされたまま席から立てなかったかもしれない。まだその日は授業が残っていた。けれど、おじいちゃんに万が一のことがあったら、単位が取れたとしても後悔することになる未来は明白だった。
母からの返信はなく、一行の情報しか得られなかっ
掌編小説|あの日のままで
仕事が終わり、私は地下鉄の構内に入る前にコンビニへと立ち寄ることにした。甘いものと冷たい飲み物を少しだけ口にしたかった。
こういう無駄使いがあとから自分の首を絞めることになるのだろうけれど、少ない給料を節約したところでストレスになるだけ。自分を甘やかす理由ならいくらでも見つけられそうだった。
晩夏の夜。街にはまだ日中の猛烈な暑さが渦巻いていた。息苦しかった。
コンビニの前に立つと、自
His Secret|ショートショート英訳
I had a partner, we've been together for three years.
We had lived together in a high-rise apartment where he originally lived alone. I had not told my parents yet, but I knew he is the one I want
チャイナドレスの女|短編小説
後悔する気持ちをさえぎるように、定時を知らせるありふれた音階のチャイムが鳴った。仕方なく、デスクの上をゆっくりと片付け、席を立った。周りの同僚はまだ忙しなく動いていたが、私がいる空間は時間が止まっていた。
同じ部署の中でオフィスから出てきたのは私一人だけだった。すぐ近くの駐車場にやって来る人間はおらず、静まり返っていた。ドアノブに手をかけると、車のキー音がやけにうるさく響いた。
仕事か
君の部屋で|ショートショート
僕たちは口裏を合わせ、体調不良だと嘘をついた。
午前中の授業を終えると、二人とも頼れる友人に伝言をお願いし、給食を食べることもなく、学校から逃げ出した。卒業まで一ヶ月ほどだった。変な噂にならなければいいなと思った。
学校の裏にある曲がり角で、彼女は先に待っていた。髪をショートカットにしているせいか、白く艶やかな肌をした首筋が、際立って美しく見えた。
「ごめん、待たせて。誰にも見られなか