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遊園地にいたカップルが『模倣犯』を読んでいた話
2度目の投稿です。さっそく民俗学ともモデルとも関係ない話をしようとしていますが、1本目で自由なことを書くと宣言させていただいてるのでご了承くださいませ〜。
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私はこの間遊園地に行った。
年下の映画監督を目指す友人とウオータースライダーのような乗り物に乗るため、極寒の中タワーの高い位置で長時間待つことになった。
前後にはカップルがいて仲が良さそうに話している。私は人が仲が良いのはおめでたい素晴らしいことだと思っているタイプなので、いくらでもいちゃついてくれてかまわない。
しかし、途中から前のカップルが違う意味で気になってしかたがなくなった。二人は特に喧嘩をしている風ではなかったのだが、男の子のほうが途中から文庫本を読み始めたのだ。しかも、横目で見るとカバーには『模倣犯』とある。
初めはなんとも思っていなかったのだが、冷静に見てみればどう考えてもおかしな状況である。とんでもなく寒い中、彼女を放置して読書しているのはいかがなものか。しかも読んでいるのは『模倣犯』。そしてよく見ればイヤホンまでして彼女を完全にシャットダウンしている。
結局、彼らは塔のてっぺんからスライダーで滑っていき、私達も大絶叫して後から滑り楽しんだ。だが、終わったあとも頭は「なぜあの男の子はあんなところで『模倣犯』を読んでいたのか」という疑問でいっぱいだった。
友人にそれを話したところ、さすがというかなんというか、彼女も『模倣犯』彼氏が気になってしかたがなかったらしい。
その後ラーメンを食べながら談義していると、友人は「カップルに見えたけど兄と妹だったのかも」と言った。たしかに、それなら女の子を極寒の高い場所でほったらかしにしながら読書するのもありえなくもない(とはいえ冷たすぎる気もする)。しかし、私にはどうみてもカップルでしかなかった。
喧嘩をしていたり、雰囲気が悪い感じだったかといえばそうではない。だから気まずい時間をつぶすために鞄から取り出したのではない。きっと読もうと思って持ってきたのだと思う。とはいえ、彼女と二人きりになるのにチョイスした本が『模倣犯』というのはやっぱり変じゃないのか?もっと話題にできるような本を選ぶべきじゃないのか?
とはいえ、彼氏はイヤホンをしているので本について彼女と話す気はからっきしないことは明白である。それはそれでなんだかむなしい。彼女も別にがんばって話かけよう、みたいなテンションでもなく、一人で静かにしていたから諦めていたのかもしれないし、慣れているのかもしれない。元々そういうカップルなのかもしれない……?と思うことにした。とはいえ、その日は1月終わりの体の芯まで凍る寒さだった。彼氏がもし肩を寄せ合うことも、手をつなぐこともせずに自分を放置して本など読んでいたら、私なら氷のように固まったチュロスで攻撃をしかねない。
あれから一か月以上たったが、イルミネーションがギラギラ光る場所で『模倣犯』を読んでいる男の子の風景とのミスマッチな姿は頭から離れない。
ちなみに、私よりしっかりと二人を監視していた友人は「あの男の子、全然ページ進んでなかった笑」と言っていた。それが本当なら、彼女のことが実は気になって頭に入ってこなかったのかもしれない。あくまでポジティブに考えた場合だが、もう、そういうことにしておこう。
ようやく春の予感がしてきた今日この頃だが、あの二人がどうなったのか、まだまだしばらくは頭によぎってしまいそうである。