ミッドナイトスワンから、足立区白石区議の発言を考えた

「LだってGだって法律で守られてるじゃないかなんていうような話になったんでは、足立区は滅んでしまう。」
「そちらの方を強調するあまり、普通の、子どもを産んで育てることの大切さについての教育がちょっと足らないのではないか」
「私の身の回りにいないんです。該当する人が。親戚にもおりません。」

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 足立区議白石正輝氏のこの発言は賛否両論、物議を醸した。
 私もニュースを見たとき、「こんなレトロなことを堂々と言える政治家がいるのか」と衝撃を受けたが、「同性愛者が100%となれば次世代が生まれないのは事実」という賛成意見にどう反論すれば良いのかはわからなかった。確かに、100%となれば子どもは生まれない。この発言の何が問題なのか言語化できなかったのだ。


 そんな最中、映画『ミッドナイトスワン』と出会った。

 草彅剛さん演じるトランスジェンダーの凪沙が、ネグレクトや暴力を受けて育った少女一果と出会い、母になりたいと思う物語。

 トランスジェンダーの精神的、肉体的な痛みを細やかに描き、愛と母性を深く突いたこの作品を観て、「ジェンダーフリー」は社会に属する全員が自分事として考えねばならないと思うきっかけになった。

(※以下、ミッドナイトスワンの内容に触れますのでご注意ください。)

 物語の中盤、ニューハーフショークラブで働く凪沙が就職活動をするシーンがある。女性の格好で一般企業の面接に出向いたとき、若い女性面接官は「そのピアス素敵ですね」と声をかけるが、年配の男性面接官は戸惑いつつ「今、流行ってますよね、LGBT。研修で習いました。」と言う。勿論悪気はない。
 また、物語のクライマックス、凪沙が女性の姿で初めて実家に帰るシーン。母親が、息子の本当の姿を知り、「病院に行こう。治してもらおう。」と言う台詞がある。我が子の性を受け入れられない母親の悲痛な叫びだ。

 この、面接官と母親、そして足立区白石区議に共通することは何か。
 それぞれ、性的マイノリティーを、「流行り」「病気」「法の整備/教育で増えるもの」だと思っていること。つまり、「意思や治療で変わるもの」と捉えていること。

 ここから見えた白石区議の発言の問題点は、「教育や法整備で、性的マイノリティーをコントロールできる」と思っている傲りだ。

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 凪沙の母は最期まで彼女を受け入れられなかった。また凪沙は、女性の姿のまま就職することも叶わなかった。
 小さい頃から「『普通に』結婚し子どもを生み育てることが、何よりの幸せ」と教育されてきた世代の考えを、突然変えるのは難しい。まだまだ、家族や勤め先から受け入れられにくい存在であるのも事実なのだろう。
 その孤独を社会が救うべきであり、そういう環境を整えるのが行政ではないのか。


「私の身の回りにいないんです。該当する人が。親戚にもおりません。」

 ――もし自分の近しい誰かが、「本当の自分」を隠しながら暮らしているとしたら。
 そう想像することすらできず、こんなにも不用意な発言を公の場ですることができる人がまだいる現実。

 そういう環境下で暮らす性的マイノリティーたちの孤独に寄り添い、救いの手を差し伸べることができるのは何なのか。知ることから始めていきたい。

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映画「ミッドナイトスワン」
https://midnightswan-movie.com/sp/


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