苧麻
前回も触れたのだけど手績みの苧麻の話。
苧麻や大麻は縄文時代から木綿の栽培が普及する江戸時代頃まで布などの素材としてよく使われた。
正倉院展でも上着や肌着など毎回なにかしら展示されている。
苧麻は現代でも線路脇や土手など身近な所にわりと生えている。
繊維は茎の芯と外皮の間にあり、他の植物の繊維は取り出すのに発酵や灰汁だきをしなくてはならないが苧麻は水につけるだけですぐ取り出せる。
苧麻が広く普及したのはそれらが要因だと思う。
取り出したばかりの繊維は光沢のある薄緑でとても清々しい色。
苧麻は麻の中でも特に強く硬い。麻を扱う工房にいた頃は人差し指と親指の指紋が無くなった程だ。
伸び縮みもしないので織る際も居座機(いざりばた)という織り手が腰を使って経糸の張りを調節する機で織られる。
繊維の取り出し方や糸の作り方、織り方は奈良時代頃から江戸時代までほぼ変わっていない。
苧麻布が衣類に使われ始めた頃は硬く着づらいものだったと思う。
時代を経て栽培の仕方や繊維の選別、それに打つ、晒す、踏む、アルカリで炊くなどの各産地独自の加工により、薄くさらりとした「上布」という夏用の着心地の良い布まで作られる様になっていった。
これらの技術もやはり江戸時代に頂点を迎え、木綿の普及や明治期の機械化で麻も紡績糸が主になり「手績み」は生活の一部から伝統工芸の世界のものになっていった。