手績みの麻
麻の季節がやってきた。
現代、麻というとリネンが一般的だが
ひと昔前の日本で麻というと大麻と苧麻(ちょま)が主であった。
以前私は麻などの天然の素材や布を扱うお店にいた事があり「手積(てう)みの麻」は好きな素材の一つだ。
「手積み」とは糸の作り方の事で繊維を細く裂いてその端と端をねじり合わせてつなげ1本の糸にしていくというものである。
大麻や苧麻以外もオヒョウ、藤、しな、葛、芭蕉など日本各地で身近な繊維を手積みで糸にして布を織っていた時代があった。
現代では大麻や苧麻も繊維を綿状にして糸を紡ぐ紡績糸が主流だが、手積み糸は不均一さゆえの深みや味わいがあって染めてもとても面白い。
手積みの苧麻布は現代でも高級なのれんやインテリア、夏物の着物や帯に使われる。
繊維を裂く太さは織る布によるのだが私がのれんで使う厚手の生地だと0,5㎜程、上布といわれる様な薄い着物生地だと髪の毛の半分ほどの太さに裂く。
その端同士をつなげて糸にしていくのだが
例えば90㎝×140㎝ののれんだと必要な糸長が2000m以上、ねじり合わせてつなげる作業が1000回以上
着物一反だと糸長30000m以上、つなげる作業が15000回以上になると思う。
その後やっと織りになる。
気の遠くなる工程だ。
それ故以前はのれん用などの生地を量産していた海外の産地でも生産者が減り現在はなかなか量が作れないらしい。
この所、伝統工芸を支える道具や材料の生産中止が間々あり代替品を使う事も出てきたのだか
この生地の生地感や味わいは代替品では出せないのでなんとか作り続けて欲しいと願っている。