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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第42話

ナジムの回想 -3

 ナジムのその落胆したすがたに、なんとかせねば、なんとかせねば……、
 と、

「おお、そうだった。
 わたしには、信頼のおける友があるではないか!」
と思わず手を打ち、

「ナジム!――、
 ゼムラの手の中から、なんとしても国民を救い出さなければなりません!」

「はい! 
――しかしどうやって。
重臣のほとんどがゼムラの意のままなのです!」

「ナジム、おまえがいるではありませんか。
 それにわたしには――、
なにより頼れる友があるのです!」

 そう言ってサムは、すぐに男たちを呼ぶよう家臣に言いつけました。

 案内されてやって来た男たちは、
首をすぼめながら部屋に入ると、
家臣がでるのをまって、床に頭をこすりつけて――、

「へへェー! 
 いままでのご、ご、ご無礼……、
お許し、おお、ご、ゴホッ、……ゴホ、」
言いかけて、ことばになりませんでした。

「ヨーマ、ダン、シロ、
それに、
ナダクルも、ムルセンも、ヤルキーも、ヨブも……、
 いったい、どうしたのです?」

 しかし男たちは、顔を上げることができませんでした。

 サムは苦笑いを押さえてナジムのよこに立つと、

「みなさんに紹介します。
――孫の、ナジムです」

 ナジムは男たちのもとへすすみ、ヨーマの前にきて、

「みなさん。どうかお顔を上げてください。
 みなさんは、家族も同然なのですから、」と、
腰をかがめて、ヨーマの手を取り、立ち上がるようにとうながしました。
 それを見て、男たちが顔をあげると、

 サムは、

「ヨブ。ヤルキー。ムルセン。ダン。シロ。ナダクル、そしてヨーマ。
……みなさんに、働いていただくときが来ました!」
そう言って、男たち一人一人の手を取り、立ち上がらせて、

「これからはなすことは、ここだけの秘密にしてください。
 城のなかに敵がいるのです。
 ナジムがこれからみなさんに、この国のありのままのすがたをおはなしします」そう言って、最後にヨブを立ち上がらせてナジムを見ました。

「しかしお祖父さま。それはまずお祖父さまに……、」

 ナジムは、母にもはなしていないことを、サムには打ち明けたい。と思っていました。

 サムはナジムのようすを察し、
「ナジムや、気をわずらわせることはなにもない。
 すべて、わたしにはなすつもりではなしておくれ。
 わたしは、ここにいる友といっしょに考えたいのです。

 ナジム、この友たちは、わたしに生きる道を示してくれました。
 きっとこんども、この国を救うために、知恵をつくしてくれるにちがいありません」
そう言って、サムはヨーマの手をとり、男たちを見ました。

 ヨーマは、
「め、滅相めっそうもない!
 キング――。
 いや……、へ、へいか、さま、」
と、後退あとずさりしながら頭と手をしだれさせました。

「その陛下は……、
まったく、よしてください。
 あなた方には不似合いです。
いつものように、サムと呼んでください」
そう言ってサムは、男たちひとりひとりの手をとり、つなぎあわせると、
最後にヨーマとナジムの手を、
そして自分の手をナジムとヨブにつないで、
そこに、ひとつの輪をつくりました。

 そして――、

「これからわたしたちは、

個々の能力を最大限に活かしあう、

ひとつの力・・・・・になるのです!」

――と、力強く告げました。

 ナジムは、男たちの凜々しくひき締まってゆく顔をみながら、この十数年間、祖父とともに体験したのであろうできごとに思いを馳せ、
じぶんの身に起こったできごとも、
七人の男たちに聞いてもらいたい……、
と思いました。

 ナジムは、七人の男たちをソファーにみちびくと、自分とサムも椅子に腰かけて、この十八年間に起こったできごとを、
物語のページでもめくるようにかたりはじめました。


*

――サムが城を出たあと、
ハン王子が国王の代理として表に立つと、〝マギラ〟の導入は国を挙げての一大事業となりました。

〝マギラ〟の開発には莫大な国の予算が組まれ、
〝マギラ〟を生みだした国から多くの技術者や研究者たちが集められて、
ゼムラ計画は、全ての事業に優先して進められてゆきました。

 こうして〝マギラ推進計画〟の三年目には、便利で快適な生活が国の津々浦々にまでいきわたり、
見ちがえるほどの豊かさが日常のこととなりました。

 が、しかし、生活が便利になる一方、
身近な不安や危険は日に日に切迫せっぱくし、
国中いたるところで、凄惨せいさんな事件や事故が加速度的に増えてゆきました。

 また……、
利益をもとめて強引にすすめられる乱開発は、自然災害を人的災害へと置き換えながら目に見える速度で環境破壊を進行させて、

 推進計画も五年目をむかえるころには、
〝マギラ〟によってひきおこされる過剰な生産が、
物の価値基準とともに、人間の倫理的価値観をも打ちこわして、
人間性を見失ったルールなき戦いは社会の器をあふれだし……、弱者を標的に、
あるまじき事態を日常のできごとに換えてゆきました。

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