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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第三章/銅鏡の秘密‐ 第63話

裁判 -1

 この火事で、ゼムラ党の重臣と一族の代表、そして、世界中から招かれた〝マギラ〟開発に携わる多くの人びとが焼け死にました。

 顔に大火傷を負い、命からがら逃げ延びたゼムラは、このときを、復讐を果たせる千載一遇せんざいいちぐうのチャンスと見るや、すぐにガジ将軍を呼んで、ただちに二人を連行するよう命じました。

 ゼムラは、
『犯人がだれであろうがかまわない。
 サムとナジムさえ血祭りに上げれば、残りは頭のない蛇もどうよう。
 見せしめにしながら、じっくりと料理すればよい。

 あとを手順どおりに進めれば、我が名は、一族の再興を成し遂げた英雄として、
後の世までかたりつがれることになるであろう』
と、一連の段取りをうかべながら、

『しかも……、裁判の場に、他国からやってきてこの国に住みついた各国の代表らをあつめれば、
我が一族の汚名返上とどうじに、
その名を世界中に知らしめることにもなり、……一石二鳥である』
と、ほくそ笑みました。

 こうして、強制連行されたサムとナジムは牢につながれ、三日三晩の拷問にかけられ、
対外むけに用意された尋問を受けました。

 しかしこの尋問における二人の証言は、
ゼムラによって書き換えられ、
〝マギラ〟によって国内外のメディアにばらまかれました。

 それから十二日後――、
サムとナジムは法廷の場へと引きだされてゆきました。

 法廷となる会場には、ゼムラ党の代表と軍の代表。
 それに、各国からやってきてこの国に住み着いた人びとの代表とその報道関係者ら。
 そして、世界中から集められた、ゼムラ一族の末裔まつえいたちも集団になってやってきました。

 またそのなかには、城をあけわたすまで家臣として仕えていた者や、三十数年前には、側近として仕えていた者たちのすがたもありました。

 こうした面面めんめんのそろうなか、
進行役の係官によって、ゼムラ演出の復讐劇の幕は切って落とされました。

「これより、先のタワー・オブ・ザ・ドリーム放火事件の首謀者、
ソイギンタ・サム・シヨットナー。
 ならびに、
ソイギンタ・ナジム・シヨットヨー。
にたいする、
裁判を執りおこなう!」

 係官のことばにつづいて場内が暗くされると、
暗闇のステージにスポットライトが当たり、
巨大なスクリーンが下りて、
人びとのどよめきとともに……うしろ手に縛られたサムとナジムが姿をあらわしました。

 軍服を着た男に引かれ、
首と首を一本のロープでつながれて歩く二人の髪は乱れ、
やぶれた服は、傷痕から滲む血がこびりついて、黒く垂れ下がっておりました。

 この光景に、場内の響めきは一瞬で凍りつき、
ステージ上を引き摺られてゆく二人の足音が、……まるで、
見守る人びとの心臓に、くさびを打ち込んでくるかのごときでした。

 ふたりは、ステージに用意された壇のまえまできて後ろむきにされると、縄をとかれて壇上に立たされました。

 次いで――、
二人とむきあうスクリーンの上手かみて側に二つ目のスポットライトが当たり、
黒いカーテンの幕が引かれて……、黒い覆いで顔をかくした全身黒ずくめのゼムラが姿をあらわしました。

「ゼムラ総統――!」

 係官のかけ声とともに場内が明るくされると、
人びとは勢いよく立ち上がり、
指先をそろえて直立姿勢になりました。

 儀式になれていなかった他国からやってきた人びとも、その勢いに思わず立ち上がり、背筋を伸ばして直立姿勢になりました。

 裁判のとりおこなわれた会場は、普段は室内ホールとして利用されていた巨大な施設で、
サムとナジムの立つステージを底辺に半ばち型のドーム状になっていて、
この構造は、
サムとナジムを裁くこの日のために、ゼムラが設計したものでした。

 ゼムラは、室内ホールと称し、
二人を裁く法廷の場を、このような形にこしらえておりました。

 ふたたび照明が暗くなり、
スクリーン下方の通路をスポットライトに照らされながらゆっくりとすすむゼムラの足どりは、
中央の位置まできて立ち止まると、
客席側にり出した豪奢ごうしゃな椅子の場所までおりて、サムとナジムに向きあいました。

 この通路は、ふだんは照明や撮影機材の設置された場所でありましたが、
機材の類は飾りのついた金の手摺りに替わり、床には、真っ赤な絨毯が敷きつめられてありました。

 場内がふたたび明るくされると、ゼムラの一段下には判事が居並び、裁判長はゼムラの真下に直立しておりました。

 そこへ、ひとりの軍人があらわれてステージに上がり、ゼムラの正面にきてかかとを鳴らして向きあいました。
 と――、

「敬礼ーっ!」

のかけ声とどうじに、
軍人のすがたがスクリーンに映しだされると、
軍人は、左足を後ろに引き、右手につくったこぶしを左の腰元にあてて身がまえました。
――と、
人びともおなじ動作でおなじ姿勢になり、
互いはどうじに、
指先をそろえて剣を抜く仕草で空間を斜めに切り上げ――、
すぐに両足をそろえて、
拳にしたその手で左の胸を二度たたいて、

「ゼムラ!ゼムラ!」
と連呼しました。

 胸を叩くその音と声は、場内の空気をふるわせました。

 ゼムラがそれに応えて、
前方に掲げた左手をゆっくりとおろしてゆくと、
人びともそれにあわせて、しずかに着席しました。

……そのようすを、
サムとナジムは背筋の凍るおもいで見つめておりました。

 そしてサムは、
〝マギラ〟の国で見てきたそれいじょうにあやうい、
この国の現状を悟りました。

「総統の、おことば!」

 係官の声とどうじに巨大なスクリーン一杯にゼムラの姿が映しだされると、火傷をかくす黒い覆いの下で、
……妖しくひかる二つの目が、

「さきごろ……、我が国家会館、タワー・オブ・ザ・ドリームの大火災において、
国内外より招いた多くの客人とともに、
我が一族代表多数が焼き殺される。
――という、
大惨事が引き起こされた。」

と、低く唸るような声で場内を見まわし、
静まり返る場内にむかって、

「時代を遡ること……、
わが一族が、歴史上二度も惨劇に見舞われたのは、
すべて、ここにとらえた悪の根源による仕業なのである!」

 このときゼムラの背後のスクリーンに、
むきあう二人の姿が映しだされました。

「ここにお集まりのみなさん!
 この二人に流れる血の中に、
どれほどの悪が潜んでいるか、
いまからそのおはなしをご披露しよう。

 サム! そしてナジム!――、

 冥土で待つ先祖の土産に、耳の穴かっぽじいてよく聴いておれ!」

 吐く息でめくれる覆いのすきまから、ぐるぐる巻きの包帯に滲む血の痕が見えました。

「――かつて、我が祖先は、この地の領主でありながら祭司をもつとめた、言わば、絶対君主であったのだ! 

 しかーし、今から五百年前のこと、
国の一大行事である律法を授ける儀式の最中……、国中から集まった人びとの見守るその前で、祭司は、他国からやってきた男らに焼き殺され、
――さらに、我が一族は、
『神に呪われし民族』
という事実無根の汚名を着せられて、
世界中に散り散りにされたのだ! 

――その証しが、」
ゼムラは場内の最前列を指し示して、

「この日を悲願に、世界中からあつまったわが一族の末裔まつえいである!」

 そのことばを合図に、サムとナジムを取り囲むように陣取っていた人びとが一斉に立ち上がり、
たちまち、場内に割れんばかりの拍手が巻き起こりました。

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