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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第一章/出会い‐ 第14話

マギラの国 -2

 高い塔を背にあるきだし、
やがて古びた建物のあつまる場所までやってきて立ち止まると、
あたりの景色を見まわして、
サムは、思わず口もとを緩ませました。

 通りには石造りの建物が建ちならび、そのまわりを、サムの国では目にすることができない珍しい品物ばかりが山積みに放置されていて、そのふしぎな光景をまえに、

『まるで……、
おとぎの国にまよいこだ物語の主人公のようではないか!』と、ほくそ笑んだ・・つぎの瞬間、
建物の谷間を覆う巨大な影があらわれ――、大気を切り裂く轟音とともにサムの頭上に覆いかぶさりました。

 サムは思わず身をちぢめ、耳をふさいでその場にしゃがみこみました。

 影は、鋭い金属音をとどろかせながらゆっくりとした速度でとおりすぎ、
 と……、

「ハーッ、ハッ、ハッ、はあーっ!」
と、背後におおきなわらい声があって、
ふりかえると、そこに数人の男たちが立っていて、

「おまえ! どっから来た。
ゼットウィングにおどろくなんざー、
いったいどこの田舎もんだ!」
と声を荒げ、手にした道具をふりまわしながら近づいてきました。

 サムは立ち上がり、腰にある護身の剣に手をやりました。
 が……、
 そこにあるはずの剣は、さっき、砂の中に埋めてしまったのでした!

 男たちは、唸り声をあげながらサムをとり囲むと、輪の間隔をちぢめながら、とつぜん数人がいっぺんに飛びかかり、
サムを押し倒したかとおもうといきなり顔やからだを殴りだし、
その一蹴りの当たりどころが悪く、
サムはえなく息をつまらせ、気を失ってしまいました。

 男たちは仰むけになったサムにおおいかぶさり、着ている服を剥ぎとると、そこいら中をまさぐりはじめ、
そのうちのひとりが目的の袋をつかみだすやすかさず全員が飛びかかり、
まるで、
捕まえた獲物をうばいあう獣のように、もつれあい、絡まりあいながら、
やがて男たちは、
建物のかげにかくれて見えなくなりました。

 それからどれほどの時間がたったのか……、

 全身の痺れといたみに目を覚ますと、
からだは、日暮れた冷たい空気にさらされて身動きひとつできなくなっておりました。

 そのとき、

「きがついたかい……。
 なかまをよびにやったから、もう、あんしんだよ。
 あとすこしのしんぼうだから……じっとしてて、」

 声のほうに目をやると、
胸元には着ていた服とはちがう服がかけてあり、そのむこうのしだいに近づく影のなかから、
こちらをのぞきこむ若い女性の顔があらわれました。

「あっ、す、……すみません」
と持ち上げたあたまを、
痛みでそのまま地面におとしたサムに、

「むりをしないで。
 喋れるようだったら、そのままでこたえて」
とひざをおり、かおを近づけて、

「あたしはルイ。この町のコボルよ。
 人が倒れているって聞いてきたの。
 見かけないようだけど……、あなたは?」

「わ、わたしの名は、サム、……です。
砂漠の、むこうの……、とおい、国かっ、き、」

そこまで言って腹をかかえたサムに、

「いいわ! それいじょうしゃべらないで、」
そう言って立ち上がり、通りのむこうに手をふりあげて、

「ここよ! 大丈夫そうだわ、」

 するとまもなく、駆けよる数人の足音がして、サムの視界に四人の男が飛びこんできました。

 男たちは、サムの横に担架をおろすと、
毛布を広げてその上にサムを横たえ、毛布に包んですっくと立ち上がり、
いきなり全速力で駆けだしました。

 しかしふしぎなことに、サムのからだはすこしも揺れることがありませんでした。

『一体、どこへ連れてゆく気だ!』

 いままで嗅いだこともない異臭のただよう町なかを、小気味よい足音をひびかせながら、つぎつぎに飛び去る建物の影をみおくっていると、不意に――、
建物の背後にひろがるやけに明るい夜空が視界のなかに飛びこんできました。

 まるで……、ちいさいころに見たおそろしい山火事のように、夜空を焦がしてひろがるぶきみなあかりは、
これから、
自分の身に降りかかろうとしているできごとを暗示しているかのようでした。

『〝マギラ〟とかいう〝狐箱〟の正体を暴くために、いきおい勇んで乗りこんではみたものの、
とたん、身ぐるみ剥ぎとられ、
命まで盗られそうになったのは、
……これは、
「国民を救おう!」などと考える、わたしに対するいましめではないのか!

 じつはわたしには、国民を救う力など微塵みじんもないのに、
わたしの思い上がりが、
またしても、
無力な人間でしかないことを、
おもいしらされているだけではないのか!』

 こうして、自虐じぎゃくの念にさいなまれながらやってきたのは、高さも幅もおなじような、四角い建物がどこまでも連なるふしぎな場所でした。

 闇のなかに溶けいるようにひっそりとたたずむ建物のあちらこちらには、ほのかな灯りがあって、
と――、とつぜん向きをかえた男たちが建物の中に駆けこんだとたん、
頭の跳ねあがったサムの視界に辺りのけしきが飛びこんできました。

 建物はそうとうに古く、ひび割れ、崩れ、形のなくなった箇所がいくつもあり、
サムは、
頭がもち上がったかと思うとすぐに水平になり、
回転したかと思うとまたすぐにもち上がりをくりかえすめまぐるしいうごきのなかで、
部屋の入り口から漏れるいくつもの灯りを見ました。

 壊れた扉や窓からもれ出す灯りは、どれもが、焚き火がつくる灯りのようにゆらゆらとゆらめき、
耳をすますと……、扉の奥のかくれた場所から、幾重にもかさなりあう笑い声が聞こえました。

『それにしても、なんという足のはこびだろう。なんにんの人を運べば、このように乱れのない足どりになれるのだろう……』

 覚醒してゆく意識のなかでそんなことを考えていると、
とつぜんからだの芯が外気をとらえ、
サムの身体をガタガタガタガタとふるわせはじめました。

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