<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第29話
戦士の過去 -2
こうしてルイの祖父は、その地位と名誉を剥奪され、国に対する賠償責任と称する罰金と懲役とを負わされ、牢につながれてしまいました。
しかし牢の中にあっても、NEOエネルギーの研究の止むことはなく、牢を出たあとも、家を売り払い、命……燃え尽きる最期のときまで、その探求のとだえることはありませんでした。
「その研究に没頭する険しい横顔が、
ときどき、
まだことばも喋りださないおまえに、
はなしかけるときとそっくりになるんだよ」
――と祖母は、嬉しそうにはなしてくれました。
ルイはその後、幾多の試練に遭遇してゆくことになりましたが、
しかしどんなにつらいときも、
自分をみつめる祖父の眼差しをおもい浮かべるとき、
不思議と力が湧いてきて、
苦しみに、グッと耐えて、乗り切ることができるのでした。
そしていつのころからか、
『本来ならば、国の人びとに尊敬されるべき立場にありながら、
〝マギラ〟の開発責任者の陰謀によって突き落とされ、
無惨な人生を送らなければならなかった祖父の、
その真の正しさを、
わたしがかならず証明してみせる!』
と、こころにかたく誓うようになりました。
その後ルイは、
『祖父の研究からかけ離れてしまった、
〝マギラ〟に頼らない生き方とは、
いったいどのような生活様式であるべきか』
を問いつづけ、
しだいに、コボルの生活へと惹かれてゆくことになりました。
それは……、祖父の遺産探しでありました。
しかしそれが……、街の常識からかけ離れてゆくことになりました。
*
ルイの左手は、そこまでのできごとを綴ってすすめなくなり、ペンは、静かに机の上に置かれました。
ルイは手紙を小さくたたむと、
祖父の遺してくれた銅製のペンダントを開いて、中から両親の写真とお守りをとりだして、その下の二重蓋をあけて手紙を収めました。
そして蓋を閉じると、首から下げて、
肌身離さず持ち歩きました。
ルイは、
『いつか自分が死んだときに、いっしょに燃やしてもらえたら、きっと、祖父や母にも読んでもらえる』と、信じておりました。
『あたしは……いつも独りだった』
ルイは、十代の、世の中に反抗していたころの自分を思いおこしました。
『近づこうとすればするほど、人はあたしから遠ざかっていった……』
そのときにわからなかったほんとうの理由が、
いま……、混濁する意識のなかにあって鮮やかに蘇りました。
『……みんな不安だった。
不安をかかえない人などどこにもありはしない。
……そう、だからあたしは、
そのかぎりなく涌きだす不安に挑みつづけた――』
ルイは、これまで出会ったひとりひとりの顔を思いうかべました。
『街の社会の、そして、コボル社会のだれもが、見えない不安に怯え、打ち消す光をもとめてさまよう。
でもどんなに装ったって、だれも不安を打ち消すことなんてできやしない。
不安はかぎりなく増殖してゆくだけ。
でもあたしは、あたしの信じるひかりを守りとおしたわ!――』
ルイは、浮かびあがる祖父の面影をじっとみつめました。
……と、そのとき、見覚えのある老人の顔が祖父の顔に重なりました。
『あー、
……あなたは、サム。
もし、あたしの父が生きていたら、きっと、あなたのような人だったのかも知れませんね。
あの日、見なれぬ風体の男に、
「道端に人が倒れているから助けてください!」と知らされやってきたとき、
目をとじたあなたの顔を見た瞬間、
なぜかそこに、
父の顔がおもい浮かんだ……
あなたはだれ?』
ルイは、自分たちのもとを離れていったサムのことがとても気になっておりました。
『自分や仲間といれば、
寝るところも、食べることにも着るものにも困らない生活が送れるというのに、
なぜすすんで惨めな生活を選んで行ったの?
それは、
あたしが望んでコボルの社会にとびこんだ理由と似ていたのかもしれない。
……しかしそうであったにしろ、
なぜ年老いたあなたに、
そんな道をえらぶ必要があるの?
理由は、なに?
でも……、
あなたのえらんだ生き方は、やはりまちがってはいなかったわ。
いいえそれどころか、あなたは、死神に取り憑かれたような人たちにさえ希望の光を与えつづけている。
きっとそれは……、あたしのお祖父さまが〝マギラ〟にあたえたかったほんとうの力。
あー――、元気になって、もう一度あなたに会いたい。
そしてあなたがはなしてくれるといった、
すべてのことを、
……はなしてきかせて』
ルイは、意識のなかでサムとむきあい、
サムのことばに耳をかたむけながら、しずかに息をひきとりました。
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