<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第一章/出会い‐ 第13話
マギラの国 -1
それは――、砂漠を抜けでた!
というよりは、砂漠のただなかに突如、
巨大都市が出現した――っ‼、のでした。
砂丘の頂を越えたむこうに、
まるで岩山のようにそそりたつ高い塔がならび建ち、
その周りを、白い壁がとりかこみ、
壁のむこうには、緑を茂らせた樹木の並木も見えました。
「こ、こんな都市がいつのまに……!」
そのあまりの異様さに、
『これは夢にちがいない!
わたしは、……ほんとうは今、
洞窟のなかに横たわり、
のどの渇きに耐えきれずに幻覚の世界に迷いこんでしまったのだ!』
と、そう思いながらも、
つねったり叩いたりする頬や手の甲には覚めた感覚がありました。
夢とも現ともつかないうつろな意識を引きずりながら、砂のなかに確かなものを探りつつ、
やがて足のうらに堅いものを感じて顔をあげると、
高い塔は視界におさまりきれないほど間近に迫り、
建物のその輪郭もいよいよ明らかになりました。
塔は、
石でも木でも煉瓦でもない、ガラスのように綺麗にみがかれたピカピカに光る素材でおおわれていて、
そのどこまでも硬くて冷たい質感と、鉄格子で囲われたような外観は、
……まるで、鏡でできた巨大な檻のようでした。
その光景の異様さは、
近づくにつれ、いつのまにかサム王様の足を元きたほうへと引きもどしておりました。
『しかし……いやまてよ。
この、異様な光景は、あの〝狐箱〟となにか関係があるのかもしれないではないか!』
と思いなおしたサム王様は、
くるりとからだをかえすと、
枝をひろげた樹木の下までやってきて、
手頃な岩をみつけてその上に腰をおろし、
しばらく考えたあとにおもむろに立ち上がると、
腰に差した剣をぬき、
尻の下に敷いた岩の表面になにかを刻みつけて……足もとに突き刺し、地面にひざをつき、
剣の柄をとって大きく振りかぶり、
砂と石でできた大地をほり起こしはじめました。
やがて膝がかくれる深さになると、
そのいちばん底に小石を敷きつめて、
剣と、身につけた衣装とベルトをはずしてその上にならべて、
水売りからもらった地図をふところの中から取り出すと、額におしあてて小さく引き裂き、
……風のなかに飛ばしました。
そして、堀り起こした砂と石を穴の中に埋めもどすと、壁を正面に立ち上がり、塀のむこうの高い塔に目を凝らし、
先ほどなにかを刻みつけた岩に目をおとして……、
ひとつうなずきました。
そこには、『サム』と刻まれてありました。
サム王様は、
『自分は今から、サムという、独りの男になろう!』と心に決めました。
サムは、目を高い塔にもどすと、
『この国の異様なすがたは、
……まちがいなく、ハンの持ちこんだ〝マギラ〟とかいう〝狐箱〟によってもたらされたすがたにちがいない。
わたしは、ただの独りの男となり、この国に身をひそめ、〝狐箱〟のその正体を暴きだし、毒牙となるものを取り去る方法をみつけだそう。
きっとここに、
わたしの戦うべき相手が待ち受けているにちがいない。
――わたしは、ここへみちびかれたのだ!』
と、湧きあがる闘志に、むねを熱くしました。
『しかし……、
それにしても、このみっともない下着姿ではなんともならぬな』
と、すぐに我にかえったサムは、
塀の外まで枝をおとした樹木の下までやってくると、
手頃な枝をみあげて……、
「このとしではむりか?」
とつぶやきながらも、
子どものころに得意だった木登りをおもいおこして、
手のとどきそうな枝をめがけて、
「ハイヤー!」
とばかりに飛びつきました。
すると、
砂漠の直射に焼かれてスリムになった肉体は、枝をたぐり寄せ、
まるで歳の半分でも若がえったかのように枝から枝へとその身をはこび、
いつのまにやら塀の上にまでのぼり上がっておりました。
そこでサムは、
「まんざらでもないな」と、口もとをゆがめました。
サムは塀のうえを、
足どりも軽快に移動しながら、
やがて地上にとどきそうな枝をみつけて
「エイヤー!」
とばかりにとびつくと、
つづけざまに
「ほらさァー」
と飛びついた瞬間、
……ポキリ、
と枝は、かわいた音とともに地面に落下。
サムは片足を挫いてしまいました。
サムは、一本足でピョンピョンと、
ちかくの植え込みまでとびつづけ、
植え込みのなかにもぐりこんでひとつ、
「ホー」と、
おおきなため息をつきました。
すると……、たちまちおそってきた安堵の睡魔に目をとじ、そのまま、すいこまれるようにねむりのなかへとおちてゆきました。
うたた寝から覚めてあたりを見まわすと、いつのまに干されたのか大量の洗濯物が、建物のむこうの日溜まりのなかにはためいているのが見えました。
『しめた!』
サムは足首を二三度まわして立ち上がり、
建物ちかくの植え込み目がけて駆けこむと、
うえこみからうえこみへとわたり洗濯物ちかくの建物の影の中に忍び入り、
あたりに人影がないことをたしかめて、
おおきなシーツの陰をめがけて
「とりゃー」
とばかりに飛びこみました。
すると見あげたそこに、
ちょうどよい按配に乾いた上下の服と数枚のシャツが干されてあり、
さっそく手にとり上着の袖にうでをとおすと、服は、
まるで身体にあわせて仕立てたようにピッタリでした。
サムは素早く着替えをすませ、
となりに干してあったシャツのポケットをひらいてなにかを落とし入れて、
「つりせんごむよう」
……とつぶやいて、急いでその場を後にしました。
眩しい陽射しをうけてたなびく薄手のシャツの角張ったポケットの生地ごしに、
……そこはかとなくかがやく、金貨が一枚、透けているのが見えました。
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