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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第三章/銅鏡の秘密‐ 第74話

道のり -3

 そして、村人のほうへふりかえると、

「ゼムラの一族であろうが、あるいは、ほかの人びとのおこなったことであったにしても、
人間の作りだしたもので、
人間の棲むこの星を危機に陥れているいじょう、
その解決は――、
天に委ねられるべきではなく、
にんげん自らが、
人間社会のなかで解決しなければならない問題としてつくりだしているのです。

 人間は、
神を拠り所としながらも、自らの足で歩かなければならない状況を、
自らの手で作りだしてきたのです。

 その意味において、人間は、王であろうがコボルであろうが、
なんらかわることのないおなじ星に生きる一人のにんげんなのであり、
どのような人も、
自らあゆむ責任と権利を平等に担って生きている!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

――それこそが、
われわれが、今、手に入れなければならない――、

 真の自由・・・・なのです!。

 われわれはこの自由を、
われわれ自身のなかにどこまでも大きく育ててゆかなければなりません!

 ナジム、そして村のみなさん。
 みなさんが村で培った一つぶ一つぶの実りの種を、この国のなかに蒔きひろめていってください。
 そして〝マギラ〟を、
にんげんづくりに、そして国造りに役立つものへと育てていってください。

 それこそが、われわれにあたえられた、
これから成し遂げなければならない仕事なのです。
 しかしその道は……、
永くて険しい、果てしのない道のりになることでしょう。

 だからこそ、
じぶんを信じて、
にんげんを信じて、
生きることを信じて歩き通してゆくのです!

 わたしも……罪の癒やされるそのときには、
かならずや、
ちからをあわせにもどってくると約束します」

 そして……、
ふたたびゼムラのまえにきてひざまずくと、

「ゼムラ。わたしのさいごのねがいです」

――生きてくれ!

*

 こうしてあらたな旅がはじまりました。
 それは、過去につながる罪を償う旅でありました。

『この旅におけるいかなる困難からも……わたしは逃げだすまい』

*


 一方――、ナジムと七人の男たちは、ゼムラとその側近とともに国際裁判に臨みました。
 この裁判において、世界各国からやってきた判事らは、まず、放火の主犯であるシムネの仲間たちに証言を求めました。

 ヤモイと仲間たちは証言台に立つと、犯行に至った経緯と手口を自供し、
そして……、ゼムラ政権の内情をぶちまけました。

 この内容は、ナジムと仲間の開発した有機マギラ・・・・・によって白日の下に晒されました。
 ナジムは証言台に立つと、国民にむかって、

「国を乱した責任の所在を、ゼムラ政権や〝マギラ〟に押しつけるのではなく、
まずわれわれひとりひとりが、
自分の行ったことのなかに犯した罪をみとめて、
社会全体で、
にんげんのあるべきすがたを模索し、意識改革に踏み出すことが、
この国を再興するために必要な、
なによりたいせつな一歩になるのではないのでしょうか!」
と、訴えました。

 このナジムのうったえにたいし、他国の判事らからは、
「……まず、事実の内容を検証し、被害者側の受けた損害と、加害者側のあたえた過失とを明らかにして、そこに必要な刑罰をあたえ、社会秩序の維持を図るのが法であり、個人の反省や理想論は――、この場にそぐわない」との意見も出されましたが、
 道理に適ったナジムの訴えは多くの国民の支持をあつめ、それはサムの意志とも相俟あいまって受け入れられることになりました。

 こうして、判決内容に沿ったあらたな議会が発足され、
議員にはヨーマと仲間たちが、
そして、ゼムラと側近も、閣僚としてその列に名を連ねることになりました。

 ゼムラと側近にはヨーマたち七人とおなじ権限があたえられ、
たがいは常に、ひとつの共同体として作業を進めてゆかなければならなくなりました。
 そしてそれは、たがいにとっての大きなストレスとなりました。

しかし……、当面の問題に向きあい、何ごとも進まない時間を過ごしているうちに、かつて、ヨーマの行った組織改革が思い起こされて――、

 こんな無駄な時間を費やすよりは、競いあいにでもして半歩でもすすめるほうが、たがいにとっても得策ではないのか?
 との思いが生じはじめ、
行き違いであったものは、しだいに、理解可能な、切磋琢磨の対象へと変化をなしてゆきました。

 放火の実行犯であったヤモイは生活保護の担当大臣に任命され、
仲間がその補佐にあたり、
重い刑罰の代わりに、火事で亡くなった家族に対しての一生涯の補償を負うことになりました。

 しかし……これら一連の情況は、耐えがたい苦痛になってゼムラの人生に伸しかかりました。
 このうえにない屈辱のなかで、ゼムラは、とある薬・・・・をとどけるよう〝マギラ〟の国に要請を出しました。

 薬は、ゼムラの常用するビタミン剤に混ぜてとどけられました。

 薬は、服用した直後に心肺停止の状態におちいり、十日後、医者も気づかぬうちに蘇る。
……とされた、人間の寿命をコントロールするさいに使用される導入剤で、
その間に生命を冷凍保存して、
延命を図ろうとするものでした。

 ゼムラは……いのちの糸を、苦しみから切り離す選択へ、むかいました……


*


※ この先の75話~84話を有料とさせて頂きます。
(有料記事が84話まで完了しましたら、引き続きお得な有料マガジンを作りますので、今しばらくお待ち頂きますよう宜しくお願い申し上げます。)
 

 ここまで読み進めて下さったみなさま、誠にありがとうございました。
 心より、感謝申し上げます。

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