<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第二章/ふたつの葛藤‐ 第32話
七人の友 -2
しかし男たちのリーダーは、
「キング……、オレたちは、あんたがくるまえは死人も同然だったんだ。
あんたは、オレたちに生きる力を与えてくれた。
オレたちは、じぶんの中に希望のひかりがあるってことを、あんときはじめて識ったんだ。
家族や仲間がもてたのも、みんなあんたのおかげさ。
あんたはそんな、いわばオレたちの太陽なんだ。
あんたのために死ねるんなら、それは本望ってやつさ!」
それはかつて、コボルの町角でサムの語ることばに身を乗り出すように聞き入っていた男とその仲間たちでした。
「――なんということばを!」
サムは思わずその場にひざまずき、天を仰ぎました。
『天よ! いまのことばをおききとどけになられましたか。
彼らは……、あなたの場所を、自らの力でさがしあてました!』
それは――、
サムが願い、祈りつづけた、こころの闘いに打ち勝った証でした。
サムは、その男のもたらしたことばによって、旅はみちびかれ、きっと果たせるにちがいない。
……と思いました。
その男たちのリーダーの名は、ヨージン・アジマ。
通称ヨーマといいました。
十七、八年まえ、
逃亡者として独り醜いこころをかかえながらさまよい歩いた砂漠の旅が、
帰りには……、
友と呼べる七人の仲間を道連れにしておりました。
旅は、陽が昇るまえに歩きはじめ、太陽が中天にかかるまえに岩場のかげに隠れてその日一回目の休みをとり、
陽が落ちて、気温の下がったころを見計らい、歩きだして、夜中近くに二回目の休みをとり、つぎの日、まだ陽が昇るまえにふたたび歩きだす。
といった行程ですすめられてゆきました。
男たちのなかには砂漠にくわしい者もいて、その男たちの知恵にしたがい、
昼間は頭に布を巻き、夜は砂の上に毛布を敷いて、美しい星空をながめながら眠りにつきました。
男たちのなかのサバル・ナダクル。
通称ナダクルという背の高い若者は、砂漠に棲む動物や植物の生える場所を知り、それをとって食料にすることができました。
しかし、二日目には遅れる者がではじめ、サムと男たちはその男をかわるがわるに引きながら歩いてゆきました。
そして四日目には三人が、五日目には五人の男が遅れだし、とうとう七日目、
サム以外のすべての男が遅れるようになりました。
サムは、
『目指すもののない者たちにとっては、ここらあたりが限界なのだろう』と思い、
先にすすむよりは生命のことを考えて、なるだけ多くの休みをとりながらすすんでゆきました。
そして八日目、いよいよ男たちのすがたに悲愴感がただよいはじめて、
「もどるんなら今のうちです。この先に、もどる水は残されていません……よ、」とかけたことばにも、男たちは、顔もあげずに頭を横に振るだけでした。
水は、それから三日後になくなりました。
砂漠のなかにとりのこされた八人の男たち、
たがいは顔もみることもできずに項垂れ、
ロバもうずくまったまま動こうとはしませんでした。
そして
『ここまでか……』と、
顔をあげたそこに――、
砂丘の頂に頭をのぞかせた、岩山の姿が飛びこんできました。
「みなさん!
見てください――、山です!」
サムは大声で叫びました。
男たちは顔をおこし、サムのゆびさす方角に目を細めました。
「あそこに、水売りがいるはずです!」
男たちは、サムのことばに力を奮い立たせ、たがいをささえあいながら岩山めざして歩きはじめました。
ところが、岩山に来てみても、水売りのすがたなどどこにもありませんでした。
すると今度は、
「そうそう、あの山でした!
まちがいありません。
あの山の麓に、水売りがたしかにいたのです」
男たちは這うようにして、その場所にたどり着きました。
が、そこに来て見ても、人のいた気配などどこにもありませんでした。
「どうした……ものか。
十数年まえには、たしかに、砂漠のあちらこちらに、水売りがいて、
水も、食料も、手に入れることが、できたのに……」
サムはその場にがっくりとひざを折りました。
そう聞いて、
砂漠にくわしいシットロ・ヤーロことシロは、
「キング……サム。
わたしは、子どものころから、砂漠のあちらこちらで、鉱石掘りをやらされました。
……ですが、
水売りが、歩く先々につぎつぎにあらわれて、なんてはなしは、いちどだって聞いたことがありません。
水売りは、砂嵐がきても迷わないように、こしらえた目印をたよりに、
決まった道を、決められた場所まで、何日もかけて荷物を運ぶのです。
……しかし、たしかにわたしも、黒い宝石だったか、白い宝石の採掘場に、行くときに、
これに似た景色を、見た気がします……」
そう言って、シロはあらためてまわりの風景を見まわして、
「たしかに、今は、見ている方角がちがいますが、
この、岩山にまちがいありません。
あの……、
頂上に見えるかわったかたちの岩。
あれはたしかに、そのときに目印にした、岩です」
そう言ってゆびさした山の頂に、
天をゆびさすように鎮座した巨岩が見えました。
「その採掘場に行けば、水や食料も、あるのですね?」と訊くと、
「も、もちろんです。
……むかしは、月にいちど、決まった日に、水や食料や、そのほか、服やら、いろいろの品物をもって、ラクダ二十数頭も仕立てた水売りが、やってきていました。
……でも、」
「採掘場の、方角は、わかるのですか?」
「ええ、もちろん」
とこたえたシロは、いちど足もとに目を落として、
「でも……、よそ者が近づけば、銃で撃たれる。
と、ききました」
サムは、シロをみてニヤリと口もとをゆがめると、
「わかりました。じゃ、そこへ、行きましょう!」
シロは、
「いや、まってください……キング・サム。
いまは、そこへ行っても、なにもないかもしれないし、
あったとしても、うかつに近づけば、
――それこそ、むだ死にです!」
「そのときは、それが運命。
今はともかく、そこに行くことです。
それからあとのことは、そのとき考えましょう!
……ところで、そこまで、あとどれくらいかかるのですか?」
シロは目をとじ、唇をすぼめて、
「今の調子なら、まだ、一週間ほどは、かかると思います」
それを聞いた背の高いナダクルは、
「うっそー。オレは……もう、半時だって、あるけねー。
ここで、しばらく、やすみましょうよ。
みてください、ヨブなんか、
……もう、いっぽも、うごきそうに、ありませんから、」
と、ナダクルの指さした先には、
太ったヨーマン・マーブことヨブが、
砂のうえに大の字に転んで、
まるで風紋でも拵えるように、丸い腹を波打たせておりました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?