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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第三章/銅鏡の秘密‐ 第70話

遺書 -1

 計画のついえた……裁判のあと、

行方しれずとなった夫を見つけだせないまま部屋にもどったカナイは、寝台の上にその封筒を見つけました。
 中には三通の遺書がしたためてあり、
一通はじぶん宛てに、一通はヨキ王妃宛てに、さいごの一通はゼムラに宛てられてありました。

 自分宛ての遺書をよみおえたカナイはすぐに従者をよび、ゼムラに宛てられた遺書を託して、
自分は取るものもとりあえずエレタクルをよんで、ヨキ王妃のもとへ急ぎました。

♢♢♢  

最愛の妻カナイ へ

わたしを捜さずにすぐにヨキ王妃のもとへ行きなさい

そして王妃に、中の手紙を渡すのだ

それまでは、ほかの誰にも見られてはならないよ

ヨキ王妃のもとへ行ったら、王妃のおことばのとおりに従いなさい

おまえはもうここへは戻れなくなるから、そのつもりで行きなさい

もう一通の手紙は、ゼムラ総統に渡すよう従者に託すのだ

永久の別れです。

しかし、どこにいようと、いつもそばにいることを、忘れないでいてほしい

愛を込めて――
                         
                            シムネ          ♢♢♢ 

・  
                         

 暗がりに揺られながら、カナイは、夫の筆跡をまぶたに浮かべて泣きくずれました。

 遺書を受けとったとき、王妃は寝台の上にしておりました。

 王妃の付き人は、
『刑の執行の日には、王妃もそのあとを追われるのではないか』
と、案じておりました。

♢♢♢

お妃様

裏切り者シムネの妻を、どうか憐れんでやってくださいませ

ゼムラ総統の暗殺を目論んだのは、このわたしです

わたしが、タワー・オブ・ザ・ドリームに、火を放ちました

すぐに陛下をお救いくださいませ

                 ゼムラ党国務大臣 
                  シムネ・アラモ 

                                ♢♢♢


 この短い手紙を読み終え、事の経緯を聞き終えたまさにそのとき、
シムネ自害の報せは届けられました。

 ヨキは立ち上がり、

「カナイ、いっしょに来てください!」

 カナイの手を取り、ナジムのもとに急ぎました。

 ヨキ王妃のはなしがおわると、部屋のなかは歓声に沸きたちました。

 しかしカナイは、
いまさっき夫の死を報され、
そして今、
ヨキ王妃のはなしによろこぶナジムや村人のすがたを見るうちに、
裏切り者・・・・は、身の置き場を失って、その場に伏してうごけなくなりました。

 ヨキ王妃は身をかがめ、カナイの背中にそっとふれて、

「カナイ。
気をたしかにもつのです。
あなたと夫が、王と村人を救ってくれるのです!
 けっして、裏切り者などではありません。

 あなたの夫の亡骸なきがらは、この村へ運んで丁重ていちょうとむらいます。
 そしてこれからは、
わたしがあなたの盾になります。
あなたはここにいて、
わたしの支えになっておくれ……カナイ」
そう言って、泣きくずれるカナイのからだをだきおこして、

顔を上げて――、

「ナジム! 
 朝になったら陛下をとりもどしに行きます。
 わたしもいっしょに行きます!」
と力強く、ナジムと村人に告げました。

 そのことばに、村人たちは諸手もろてを挙げてたがいを抱きあいました。

「ヨーマ! 護衛をたのみますよ、」

 ヨキの呼びかけに、思わず傷を負っていた方の胸を叩いてしまったヨーマは、
おどるように、戦士ひとりひとりを名指ししてまわりました。
 なまえを呼ばれた戦士たちもそれに応えて、ヨーマをまねてそのあとにつづきました。

 こうしてしばしのよろこびを分かちあい、サム奪還へむけて準備はすすめられ、夜は、白々しらじらと明けてゆきました。

 昇る朝陽に照らされてゆく村人のかおと顔。

 だれもが、あたらしい朝の光を享けてよろこびに満ちあふれておりました。

 やがて準備がととのい、村人たちが中央の通りに出てむきあう列をつくると、
その向こうから拍手がまきおこり、ナジムを先頭に七人の男たちが姿をあらわしました。
 その後ろには、村人が夜通しつくった牛車にゆられるヨキ王妃と、牛車のまわりをとりかこむ選ばれし村の猛者たち二十人ほどが、胸をはり、あしなみも高らかにそのあとにつづきました。

 ヨーマは、素手の武術にすぐれた戦士をえらびだしました。
 それは……もし、
無実の証された素手の村人を襲えば、裁判の場にのぞんでいた他国の人びとは、
事の顛末てんまつの一部始終を、正義の刃をふりかざして世界中に発信するだろう。

 まさかゼムラといえど、そんな墓穴は掘るまい。
 もんだいは暴徒化する一部の人間のみ。
……と判断したうえでの人選でした。

 一行は、村人の拍手にみおくられ、意気揚々と、街へとつながる一本道を行進してゆきました。

 しかし、街なかにきて見ても、
通りに人影はなく、
飛び交う罵声や投石を受けることもありませんでした。

 ところが、
一行が街の中央広場まできて広場の中央に差しかかったそのとき、
広場を取りかこむ建物のあいだから鉛色の軍団が姿をあらわし、たちまち、ナジムと一行は取りかこまれてしまいました。

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