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<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第三章/銅鏡の秘密‐ 第59話

対する力 -2

 ゼムラは、自国に有するありあまる財力を持ちこみ、つぎつぎに大規模な事業にして立ち上げるとどうじに、
〝マギラ〟の魅力にかれた人びとを呼び寄せるために、
『夢かなえる自由の国』のスローガンをかかげて世界中に発信しました。

 するとそれが、安否あんぴのわからなかった一族の末裔まつえいたちをも呼び集めることになり、
世界中の人びとを巻き込んでの『都市楽園化計画』をおおいに盛りあげて、毎日がお祭り騒ぎとなりました。

 このように、主導権争いが一気にゼムラ政権にむかって動きはじめると、
サムとナジムの進める事業は資金尽きて行きづまり、多くの施設が手放され、
ゼムラはそれらを安い価格で買い叩き、おどろく高値にして売りにだしました。

 するとそれがまたよく売れたために、多くの人の手本にされました。

 サムとその妻であるヨキ王妃、
ナジムとその母のサラ、
そしてハンを慕う家臣とその家族たち。
 ヨーマたち七人の男とサムを慕う家臣たち。
 そしてナジムを慕ってあつまった、もともとの川辺の住民たちと、
ゼムラと〝マギラ〟におそれをいだく人びと。

 あるいはそのいずれにも身をおくことのできない人びとと弱者の人びとも、
しだいに街をはなれて、ともに川辺の地域に身をよせて暮らすことになりました。

 サムとおなじ一族の血をひく人びとも、その他の一族の人びとも、
この状況のなか、街の側と川辺の側とに棲みわかれ、
一族をつなぐ絆は離ればなれになってゆきました。

 と同時に、〝マギラ〟の力は、
ゼムラも気づかぬところで、人間が人間であることを自覚し確認するところの能力、
言わば……人間力・・・を、弱体化させてゆきました。

 サムは、あつまった人びとをまえに、こうかたりかけました。

「わたしは、今、この国がむかっている先にまちうける姿を知っています。
――みなさん!
 ここにいる七人は、その国からやってきました」

 サムは、自分とならんで人びととむきあう七人の男たちの方にからだをむけました。

「彼らは、ここにつどう多くのみなさんとおなじく、
はたらく場所を失い、住む場所を追われ、やむなく、廃墟のなかに身をおき暮らしてゆかなければならなくなりました。

 そしてそこで彼らは、無意味となってゆく人生を、ただ他人のことのように眺めることしかできなくなっていったのです。

 皆さん!
 人間は、活動する場所を失うと、
生きてゆく力まで奪われて、
知らず識らずに自分を責め、
無実の罪へと、
自らを追い詰めてゆくことにもなるのです。

 もし、
〝マギラ〟中心の生活をこのままつづけてゆけば、
人は……、おのずからある自由まで奪ってしまい、
心は活動する場所を失って、
やがて、廃墟のように荒廃させてしまった世界の中で、
みずからの自滅のプロセスを、
視なければならなくなってゆくでしょう。

……しかし、誤ってならないのは、

〝マギラ〟がけっして、絶対悪なのではない!
――ということなのです。

わたしがかつてこの国を出たのは、そのことを識るためでありました。

……わたしはかつて、
〝マギラ〟を絶対悪と決めつけたために、
自分の中に――、〝マギラ〟の要素を目覚めさせてしまいました。

 つまり、自分自身で――、
〝マギラ〟を目覚めさせたのです。

 そして、それがために……、
わたしは、この国を出なければならなくなったのです。

 わたしは、永らくのあいだ、砂漠のなかをさまよい歩き、
偶然と必然にみちびかれるままたどりついた国で、
この七人の住む町に暮らすことになりました。

 そして、そこで出会った人によって、
は、自分が行うところにつくりだしていたのだ!』
――と、気づかされたのです。

 そして、
『人間は……、〝マギラ〟のことをまだよく識らないで、
むやみに乱用して混乱してしまったのだ!』
ということを、自分の犯した過ちを通して、識ることになったのです。

――みなさん、
〝マギラ〟の、その真にゆたかな内容を享受きょうじゅするためには、
まず自分が、
自分の中に活動する〝マギラ〟の要素を識り、
それを認めて、
そして――、
〝マギラ〟をコントロールする能力を、
自分自身のなかに培ってゆかなければなりません。

 その理解を通してはじめて、
〝マギラ〟は、
人間のよきパートナーとなることができるのです。

……ここでみなさんに、ナジムとなかまたちの取り組んでいる研究について、すこしご紹介させていただきます。

――現在、〝マギラ〟は、
人間の意思を、機械的な命令文に置きかえて、そのひとつひとつを実行させながら動作を行わせておりますが、
それを、
人間の意志・・を……、
生命的、あるいは生物的メカニズムで受けとり、
生物的・生命的な動作にして応えるように導いてゆくのです。

 つまり、機械的命令に従わせるのではなくて、
人間の意志のかたち・・・・・・
――つまり、ことば・・・に応える有機体へと進化させるのです。

 答えを求めるのではなくて、
可能性を引きだす方向へと導いてゆくのです。

 しかし、このことば・・・とは、
ただ単に口から出るだけのことばであってはなりません。

――それは、
『自分のなかの、
〝マギラ〟の要素をやすらかにして、
人間と環境に調和をもたらす力』
と、ならなければなりません。

 いま、ナジムとここにいる七人と、そして息子ハンの絆によって世界中から集まってくれた研究者たちが、ともに力をあわせて、
この人間のうちなる能力、ことば・・・の研究を深めて、
自らを安静な状態にして保つ〝マギラ〟の開発に取り組み、その研究を進めているところであります。

 現在はまだ、その可能性についての研究と改良がおこなわれている段階ではありますが、
しかしこの研究によって、やがて人間環境と自然環境の共生できる道がひらかれ、
……そこに、
人間のこころの活動できるあらたな場所・・・・・・が形成されてゆくことになるでしょう。

 そして……この活動場所とは、
魂が獲得することになる永遠の場・・・・となるのです。

 そしてこの永遠の場において、
争いの要素であったものは協調の要素へ、
荒廃するエネルギーは創造するエネルギーへと高められ、
人類と〝マギラ〟の真に共生できる、
あらたな歴史の幕が開かれてゆくことになるでしょう。

 そして、この人類の真にゆたかな未来を獲得するためにも、
この研究は、心ある人びとの手によって受け継がれ守り伝えられてゆかなければなりません。

 そうなるためにも、
われわれは今、
〝マギラ〟によって弱められてしまうその人間力・・・を、
内なる戦いをとおして、
勝ち取ってゆかなければならないのです――!」

 サムは力強くかたりました。

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