<連載長編小説>黄金龍と星の伝説 ‐第一章/出会い‐ 第20話
コボルの町 -2
そのコボルの社会にもいくつかのグループがあって、そのひとつがルイをリーダーとする集団でした。
ルイのグループの主な仕事は、
高い塔の街で不用になったこわれた電化製品や馬の引かない車、
それに工場や店舗で使われなくなった機械や部品などなどの、ありとあらゆる廃棄品を回収してまわり、
それらを町にはこんで解体、清掃、分類して、
ひつような者がひつように応じてそれを買いもとめ、各各の裁量にあわせた製品につくりあげて――、
そこに美術や工芸やあたらしいスタイルのデザインがほどこされれば、
付加価値をました創作品として展示会にも出品されました。
またとくに、
過去に見向きもされなかった素材に目をむけ、そこにあらたな価値観を付与する作業には、多くの人材と能力を結集させました。
こうして再生された製品が、売りにだすグループの手によって、街の商社や個々の買い手をみつけて売りさばかれてゆきました。
街に暮らす人の大半が、
それが元はゴミであったことをゆびさして忌み嫌いました。――が、
街の生活に疲れた人のなかには、
物に秘められた、力の表現された作品に大いに元気を得る人や、
棄て去られ……、いずれかえってゆかねばならない自然の摂理に……自分をかさねて……物のあわれにふれ、
再生されてゆくめぐりに一片のやすらぎとうつくしさとを視て、
こころ癒やされる人も少なからずありました。
二つ目のグループは、
国や街の政策に不満を抱き、
国家転覆をくわだてる者たちで構成された集団で、サムを襲撃したのがこのグループでした。
このグループのリーダーは、なかまにむかうと、
「われわれは、人間にとっての基本的人権、
つまり自由と権利を――、
国や街の、悪の行政によって奪いとられてしまったのだ!
われわれは、
この――、自由と権利を勝ちとるために戦う同志なのだ!」
と訴えながら、
世直しと称した活動のために概ねきまった仕事にもつかず、
裏町かいわいを飢えた獣のようにうろつきまわっておりました。
この人びとは、奪いとられたゆたかな生活と、未来をとりもどす権利をじゆうとよび、
そのためにおこなう暴力をせいぎとさけびながら、
たがいの絆を、命をかけてまもるべきぎむとしました。
おおむねこのようなかたちで掟がさだめられ、
集団のひとりひとりが、
「自分は、いかなる状況にあっても、命をかけて戦いぬく!」
と、皆のまえで誓いをたてなければなりませんでした。
このちかいに背くことあらば集団リンチをうけ、
二度目には死が宣告されました。
こうして、集団を結びつける掟が、
個人の自由と権利を……、
組織への犠牲にむすびつけてゆきました。
三つ目のグループは、
この二つのグループの活動になんらかかわりをもとうとしない、
ただその日その日を食べてゆくことができればそれいじょうをのぞまない、
そのような人びとの集まりでした。
高い塔の街の生活に落伍した人びとがまずさいしょに身をおくことになるのがこのグループで、
コボル社会の大半がこのグループに属しておりました。
その第三のグループと第一のグループはもとはひとつで、
そのころのルイは、
『家族と自分が社会から排除されたのは、
それは、世の中に不必要と判断されたのではなくて、
世のなか自体が迷走状態に陥り、
社会としての秩序も、
人間的判断能力も欠いてしまったがためにひきおこされたのだ』
と判断しました。
ルイは、
『そんな社会の構造にしばられない、いかなる情況にあってもぶれない自分をつくろう!』
と、自身の心と身体を鍛錬してゆきました。
そして――、
『自分とは、じぶんによって手を加え加工されてゆく素材なのだ!
わたしは、社会にもまわりにも屈することのない、
なにものにも囚われない自由を獲得しよう!』
と、こころにかたく誓いました。
このようにして、ルイの独自の活動がはじまり、
その求心力にひきよせられるように、
十人二十人と人があつまりはじめて、
やがてグループとしてのきずなが形成されてゆく過程のなかで、
ルイは、
『自分たちのなかに生じてくるさまざまな問題とは、
じつは、人間としてだれもが抱える……、
つまり、
第三のグループの、疲れ、傷つき、病む、
それを生じさせるものとは、
――そして、
第二のグループの、怒り、憎しみ、暴力、へと発展させてしまうものとは、
人間が罹るこころの病。なのではないか?
この……、人間のこころに取り憑く病の原因さえとり除くことができれば、
それが、
〝マギラ〟に病む世界を救済する力になるにちがいない――!』
と、考えるようになりました。
こうして活動は、第二のグループと、そして第三のグループのすみずみにまでおよぶことになり、
こうしたルイとなかまたちの活動によってサムは救われたのでした。
このように、
ルイとなかまたちとの生活をともにしながらこの国の成り立ちが見えてくると、
サムは、
『自分の、こころにかかえる問題の解決策を、第三のグループの中に見出したい!』と考えるようになりました。
こうしてサムは、
ルイの活動をはなれ、
第三のグループの人びとのなかに身をおき、
人びとのかかえる、やりばのない哀しみにふれてゆくことになりました。
『この人たちのこころの声をきくことからはじめよう。
そして、こころの奥にしずめてしまった……灯火を、
この人びととともに捜しだそう!』
サムのこころにしまわれていた純粋なねがいは、このようにして……、
人びとにむけて解き放たれてゆくことになりました。
――しかし、この人びとのこころは重く、
サムがいくらはなしかけてもなにもかたることを望まず、
ぎゃくに
「うるさい!」
「しつこい!」
と、怒鳴りつけられる日々がつづきました。
それでもサムは、
毎日毎日――、
ひとりひとりに会いながら、
きっかけのおとずれるそのときを、
辛抱づよくまちました。
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