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KNIHT 逆THINK 谷尻誠さんと考えたこれからの社会と仕事

先日(8月17日)谷尻誠さんを迎えて話を伺いました.ここ THINK BOOK ではいつも谷尻さんがゲストを迎えるイベント "THINK" のエッセンスを取り出して読み物としてお届けしていますが,今回はTHINK BOOK 共同編集者の西尾が進行役となって,谷尻誠さんをゲストにした「逆THINK」企画です.本家の THINK の実現がなかなか厳しくなっている今,変化球的なコラムとしてお楽しみいただければ幸いです.

インタビューは,谷尻誠さんの母校でもある穴吹デザイン専門学校で僕が担当している授業の中で学生を交えてオンラインで行いました.

8月17日夕方.ちょうど前回来校してもらって学生に話をしていただいた2月25日から半年が経ち,その間に大きく世界が変わってしまいました.そのような経緯もあって,この半年で谷尻さんがどう世の中の見方を変えたのか,どんな変化を感じているのかについて尋ねました.後半は学生からの質問に谷尻節で激励のメッセージとしてお答えいただきました.ぜひ多くの人にシェアできればと思います.

この半年に変化したこと,考えたこと

西尾:「ちょうど前回,学校に来てもらったときに,ちょうどコロナが広がってなんかヤバいんじゃないって,ミラノサローネもキャンセルになるんじゃないかって話してて.その後すぐに,世の中がガラッと変わってしまいました.それから半年経つんですけど,谷尻さんの中で,どんな変化を感じていますか?」

谷尻誠:「なんか,もうあまり『場所』の名前が意味を持たなくなってきたんだなと思っています.ここはオフィスです,とか,ここは家です,とか,そういう限定のされ方が取り払われるようになってきているなと思っています」

「ちょうど今,自邸を建てたんですけど,住宅の打合せをするときも,もうオフィスじゃなくて,実際にこの家に来てもらって,実際に暮らしぶりを見せながら打合せしたり,『これ,自分の家なんだけど,むちゃくちゃ仕事道具だな』って思って.もう,家だとかオフィスだとか,仕事場だとか,そういう機能や名前で分け隔てる世の中ではなくなってきたんだなって.コロナがそういう風に世の中を変えたんだなって感じています」

西尾:「そうですよね,それと例えば谷尻さんはこれまで海外含めて(プロジェクトの打合せや現場確認などのために)移動がすごかったでしょう?そのあたりも大きく変わっていますよねきっと,ずっともうあれから東京ですか?」

谷尻誠:「はい,そうですね.変な話,このままいくと事務所の年間の交通費が1/10くらいに減りそうです(笑)」

西尾:「はあー,やっぱりそれくらい移動できないんですね...」

1からはじめるつもりで

谷尻誠:「やはり,海外のプロジェクトも全部止まりましたし,で,もう,クライアントも,どんどん仕掛けていくという考え方を変え始めています.やはり,コロナで見通しが暗いので.そんな中でも,まあ仕掛けていく人もいるんですけど,でも全体としては明らかに仕事が減るんです.そうしたら,今度は僕らとしては時間が出来るので,不安もまああるんですけど,同時に,いろんなことを考えて仕掛けるタイミングでもあるなと思っていて.ちょうど今年,事務所を起こして20年になるんですよ.だからもう,1から始めるつもりでやろうかなって(笑)気分的に」

西尾:「ははは,1からですか」

谷尻誠:「気分的に1からという感覚で.独立して1年目のつもりでどうやろうかなとか考えています.どうやって仕事を取ろうかとか.何を目標にやっていったらいいのかとか,あらためて考える時間をもらえてるんだなって思っています.どんな仕事が出来るのかって逆に楽しみでもあります」

西尾:「でも,実際には何十人ものスタッフがいるわけじゃないですか.彼らと一緒になって考えていくっていう感じでしょうか」

谷尻誠:「はい,みんなにも考えてもらいたいと思っています.最近スタッフに言ったんですけど,『みんなのために,給料払うために銀行からお金借りたり,やりたくない仕事を取ったりとかは絶対にしないからね』って(笑)でもそれは,自分たちが楽しく仕事をしている環境でここまでやってきたので,会社を大きくすることが目標ではないし,会社を維持することがやりたいことでもないし,会社を維持しないといけないって思ったときには,もうその時は会社に魅力がないってことだから,みんなが本気でやらないと未来はないからね,って話したんですよ」

西尾:「それは,スタッフに対してしっかり考えて動けよっていう愛のあるメッセージですよね」

谷尻誠:「まあ,実際すぐに会社がつぶれたりすることは無いんですけど,実際この状況がいつまで続くかは誰も分からないですし,もし2年3年続いたら,多くの設計事務所はダメになると思うんですよね.だから,一人一人がどうやっていけばいいのかをしっかり考えないと.でも,逆に言えば,みんなが停滞するからこそ,何か新しいやり方を見つければ価値が生まれるし,ワクワクする思いと心配とが同時にあるっていう感じです」

これからの会社と個人

西尾:「そうですよね.今実際,学生も,特に就職年次生は就活も急にこんなになって停滞して不安に思っているんですよね.でも,いま谷尻さんが言われたように,これから必要なのは,どこかに所属して依存するんではなくて,自分で考えて動ける人なんだろうなっていう事ですよね」

谷尻誠:「うん,ほんとそうですよね.今回,僕はちょうど非常事態宣言が出た次の日にオンラインサロンの募集をしたんですよ」

西尾:「ええ,あの『社外取締役』のですよね」

谷尻誠:「はい.あれも,仕事づくりのためにやっていて,変な話,仕事が生まれれば設計って出来るじゃないですか.100人の枠で募集したら600くらい応募があったんですよ」

西尾:「すごいですね」

谷尻誠:「ええ.それでちょうど今2回目の募集をしているところなんですけど.ちゃんとみんな自分たちで学びたいということでもあるし,そこにお金があつまってくるので,毎月300万円くらいの資金ができるんですよ.そしたら,それでみんなで土地買って建物立ててみんなが利用できるような場所を作ってもいいなと思っていたりします」

西尾:「そうかんがえると,もう,会社っていうものが個人に細分化されているというか,会社の仕事を分業していたしくみだったのが,どんどん個人が出来る仕事の積み上げで会社の仕事ができてくるっていう逆転現象が起きてきている気もしますよね」

谷尻誠:「そう,ある意味では帰属意識が意味なくなる,意味なくなるとまでは言わないけど,かなり希薄になるというか,そういう気はしますね」

西尾:「なるほど.ありがとうございます.まずは僕の方から谷尻さんに,今からの社会の状況をどう考えるかについてお話を伺ってみました.続いて,学生から何かありますか?」

--後半は,学生からの質問に,谷尻誠さんがポジティブなメッセージで背中を押します.時に,それはその質問への答えを軽く飛び越えて,今すでに働いている人や,何かを探している人にとっても我が身を振り返って考えされられるエッセンスが溢れていました.

言い訳が出来ない時代

学生A:「いま,オンライン授業が続いていて,直接先生に合わないまま進んでいく授業もあるんですけど,そんな中で,僕らは果たしてどこから学べばいいんだろうって考えています.学校以外でも学ぶところを探したほうが良いのか.どう考えられますか?」

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