きらきらの答え【#第55回whrワンドロ・ワンライ】
がこん、ごとっ、という不規則な音。それに合わせて否が応でも揺らされる身体。高速で移り変わってゆく車窓越しの光景。『透野光希』にとって、これらの感覚はどれも初めてのものだった。
隣に座っている少年は慣れた様子で両足を畳み、他の乗客の邪魔にならぬよう最低限のスペースを使って電車に揺られている。透野もそれを真似するようにぴたりと足を閉じ、ちんまりと座り直した。
「慎くん」
「どうしたの、光希くん」
透野はこの妙な感覚を共有したくなって、つい隣人に声をかける。
「電車ってなんだかおもしろいね。景色が一瞬で移り変わっていって、まるでスライドショーみたいだ」
緑溢れる林。その中にせせらぐ一筋の清流。橋を渡るとぱっと画面が切り替わり、力強く波打つ海が広がる。
どの光景もきらきらしていて、綺麗で、心も揺り動かされる。この感情を表す言葉はなんていうのだろう。
「あはは、そういえばこの前、伊勢崎さんたちがみんなで撮った写真をスライドショーにして上映してたね」
「うん。なんだか窓の外を見てたら、それを思い出しちゃった。ひとつの電車に乗るだけで沢山の景色を楽しめるのって、なんだかお得だね」
「そうだなぁ……確かに言われてみれば、ここの区間って色んなものが見られるね。いつも乗ってる電車だから、あんまり意識したことなかったな」
「そっか。僕はここに来るの初めてだから、いまとってもわくわくしてるよ」
「わくわくしてるのは僕もだよ。光希くんと一緒にジャンクショップ巡りが出来るなんて、ちょっと前までは想像もしてなかったから……あぁ……まさかいきつけのお店にキタチの廃盤部品が入荷してたなんて……!」
三津木は目をきらきらさせながら膝の上の買い物袋をぎゅっと抱え込んだ。無邪気にはしゃぐ三津木を見ると、心がぽわぽわする。友達が嬉しいと自分も嬉しくなるのかな、なんて思いながら、透野はふんわりと口を開いた。三津木は少々つんのめりつつもそれに応える。
「これでのんびり丸の友達も作れる?」
「うん! のんびり丸と同じように感情のデータをAIに組み込んで、それで……」
「ねえ三津木くん、AIにこの景色を見せたらどんな気持ちになるんだろう?」
車窓に映る海を指差して透野は言った。海面で太陽の光が反射されて、水面がきらきらと輝いている。
「そうだなぁ……『綺麗』って、思うとおもう」
きれい。僕が感じた気持ちとおんなじだ。でも、それだけじゃなくて、なんだか他にも言い表せない感情がある気がする。透野はそう考え、口を開く。慎くんの気持ちを聞いてみたら、なにかわかるかな。
「慎くんは、この景色を見てどう思う?」
「そうだなぁ……僕は——」