夜明けの先を【#第67回whrワンドロ・ワンライ】
草木も眠る丑三つ時。……って言うんだっけ? 正確な時刻としては午前二時からしばらくの間。俺とユウナギは七見の計画の一端として、ALIVE本部の見張り番をしていた。
計画といってもまだ七見も俺たちも動き始めたばかり。コールドスリープから目覚めたての身体は未だ本調子ではない。そんな状態で敵の本拠地に乗り込むのは得策とはいえない……ってんで、今夜は大人しく監視に徹していろ、とのお達しだった。
「一心、空が黄色。……それともこれは橙色? 変な色をしてる。七見くんが何かやったの?」
「空? ああ、もう夜明けの時間なのか」
いつの間にか結構な時間が経っていたようで、俺たちのいびつな身体は太陽の黄色い光に薄く照らされている。この淡い光は、第三研究施設にいた頃も何度かあった外の任務で浴びたことがあった。
「いや、七見は何もやってないよ。これは『日の出』。地球の自転運動によって今いる位置から太陽が見えるようになると、夜が明けて新しい一日が始まるんだ」
そう言って、俺はユウナギに易しく夜明けの原理を説明する。施設にいた頃に読んだ書物に書いてあったことを復唱しただけの言葉だが、ユウナギは俺の言葉に対し新鮮な響きを含んだ返答をしてきた。
俺と違って懲罰房の常連だったユウナギは、恐らく施設にいた頃は外回りの任務は与えられていなかったんだろう。そんなユウナギと、こうして一緒に外に出ているというのはなんとも不思議な感じがした。
「ワールド・コードが壊されて、運命の制限が壊されて。七見の望む無の世界が出来たら……この、夜明けの光景も見られなくなるんだな」
まだ計画の第一段階にも着手していないのに、ふとそんなことが頭に浮かんだ。徹夜によって疲れ切った脳は、そんな俺の思いを勝手に言葉へと紡ぎ出す。この光景を見て、人間はなんと思うのだろう。俺と同じく、「惜しい」と感じるのだろうか。
そんなこと、今の俺に確かめるすべはないんだけどね。そう心の中だけで独り言ちたが、このことはずっと、計画が始まってからもずっと、俺の魂に引っかかっていた。
◆◇◆
「……なんのつもりだ」
俺の真正面に立つ七見は冷たく言い放つ。背後では、誰が言ったか『赤パズル』なんて喩えられたワールド・コードを持つ少年が走っている。全く、俺たちの悲願だったものをそんな安っぽい言葉で表すなんてね。これだから、人間ってのは面白い。
「はは、結構驚くだろ?」
あれから、人間と戦って。ヒーローと戦って。そのあと、言葉を交わして。俺たちは人間でもヒーローでもないけれど、彼らと戦うこともできるし、言葉を交わせることもできると識った。
「——異種の生命体であっても、意味や意義、主義や主張を交わすことができるようだ。……って思ったらさ、俺は地球の未来が気になった」
ユウナギのように同種の生命体と、明けの明星を見たその日。
あの頃の俺は、運命に縛られる異種の生命体なんて宇宙人と同義の存在で、俺たちのような運命のつまはじき者とは決して分かり合えないものだと思っていた。
だけど、今の俺は。
人間たち異種の生命体と、一緒に。並んで夜明けの光景を見て、新しい一日を迎えたい。
未来に進みたいと、思ってしまったのさ。